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ムズムズ

姉ちゃんに締め出されてから5分ほど玄関の前でしゃがみ込み心を落ち着かせてから家に入った 家に入ると母さんが夕食を作っている最中のようだ 廊下には味噌の良い香りが漂っている 今日はきっと和食だ 「おかえり、お弁当箱出しなね」 「ただいまぁ」 「おかーさーん、さっき翔が家の前でね…」 「うわっ!!わーっ!!!!」 帰ってきて早々に心臓が跳ねる 勝手に暴露されそうになるところを間一髪で止めソファに座る女を睨む 姉ちゃんはからかうようにくすくすと笑ってソファにごろんと寝転んだ バラす気はないくせにすぐ意地悪してくる……… ハラハラとした気持ちを落ち着かせカバンから弁当箱を取り出すと母さんの料理の手伝いをするために台所に立った 夕食を食べ終えソファに座ってバラエティ番組を見る 人気の若手芸人が集結した番組では最近姉ちゃんが気に入っているトリオが警察官の衣装を着てコントをしている すると玄関の扉が開く音がする 「みさた〜ん、パパ帰ったぞ〜」 帰ってきたのは父さんだ それもえらく酔っ払って千鳥足になった変態おやじ 父さんは風呂から出てきたばかりの姉ちゃんにじりじりと近寄って鼻の下を伸ばしている 酔っ払った時の父さんは娘のことですら飲み屋のホステスだと思い込んでいるみたいだ 「うるせぇ、その呼び方やめろ変態!」 姉の長い脚が酔っ払いに蹴りを入れる さながら格闘ゲームの必殺技のような見事な蹴りだ 「今日もおっぱいおっきいね〜」 「うっせぇエロオヤジ!!」 「あ〜痛いよ〜」 今度はゲシゲシと父さんを踏みつける 地面にひれ伏した父さんはそれでも喜んでいるのか足をばたばたとさせて床を転がる ただこれは家の中を下着姿で歩き回る姉もどうかと思うけど 「翔〜、みさたんが蹴るよ、パパ痛いよ〜」 「やめろっ、痛い痛い痛い、あっちいけっ!」 今度は標的を俺に変え、ソファに座る俺に後ろから抱きついてくる 白髪混じりの短い髭が生えた頬を俺の頬に擦り寄せ俺の頭を撫で回す それを慣れたように振り払うと逃げるようにソファから立ち上がる 「母さ〜ん、翔が冷たいよ〜」 「翔、お姉ちゃん上がったからあんたも風呂入りなさい」 「はぁい」 「薄情者〜!!」 母さんの声に頷いて風呂の支度をする 誰にも相手をしてもらえない呑んだくれは嘘泣きをしながら床をころころと転がる そんな父親のローリングを避けながら俺は今日の疲れを癒すべく風呂場へ向かった 脱衣所で服を脱ぎ、蒸気で湿った風呂場に足を踏み入れる 椅子に座って頭からお湯を浴び、そのまま髪を洗う 俺は上から順に洗っていくタイプだ 姉ちゃんが買ってくれたまあまあ上質なシャンプーで髪を洗いそれから体を洗う 薄く弱い肌質の俺はゆっくりと体をスポンジで洗っていく すると下半身に謎のムズムズ 何事かと思い自分の下半身を見ると、俺のものが少しずつ頭を上げている う……これが疲れマラ、ってやつ……? 確かにここ最近転校なんかで色々忙しかったしな それに最近は慣れないことばかりで疲れが溜まってるし俺も一応男子高校生だし まぁこれは生理現象なんだから仕方ないよな そう言い聞かせてぬるぬると泡の残る右手で勃ったそれに触れる すこし触れるだけでビクンッと反応してしまう 「ん……っんん……ぁ、んっ…………」 やば…きもちぃ………声、抑えらんない…………っ 声が響くから普段はあまり風呂場では致さない 普段からそんなにたくさんする方では無いが、する時はいつも自分の部屋のベッドの中だ 普段と違う開放的な空間での自慰行為に、ほんの少し羞恥心が生まれる 「……ん、ッ………ぁ、んんっ、はっ……」 幹を擦って裏筋を押し、先の割れ目をなぞる 割れ目から透明な我慢汁が溢れてきて、洗いたての体を汚す くちゅくちゅといやらしい音を立てながらそれを上下に激しく擦る 湯船の淵に左手をかけ、膝を床について自慰に没頭する 無意識に腰がカクカクと揺れてしまう 左手を湯船から離し、パンパンに腫れ上がった陰嚢を揉み込む 「ッん、あ、あぁ……っ、んッ………んぁ…」 するとふと一瞬、頭の中にアキの顔が浮かんだ 「んッ、うぁ………あッ、んんんっ!!」 その瞬間、俺の性器から勢いよく精液が飛び出した 残りの精子がびゅびゅびゅっと小刻みで出るたびにそれに合わせて腰が動く 全部出切るとそのまま湯船の外側に寄りかかり、ハァハァと肩で息をする 手のひらには真っ白い精液がべっとりと付いていた めっちゃ出た…しかも濃い……… 俺、大分溜まってたんだな アキの顔思い出して、イっちゃった………… アキの笑った顔 毎日俺を抱きしめてくれる逞しい体 好きって言ってくれたあの声 夕日の中で優しく触れた唇 内緒で繋いだ大きな手 考え出すときりが無いくらいに色々な記憶や感触が蘇る これ以上色々と考えて悶々としないようにべっとりと手を汚す精液を早々に洗い流す 「はぁ………」 俺の小さなため息が狭い浴室いっぱいに広がる こんなの俺、変態だ 今まで男の顔を思い出して達したことなんてないのに まあ俺の場合生理現象を片付ける作業としか思っていなかったから女性で抜いたこともほとんどないが それから体をもう一度洗い流し、最後に洗顔をして湯船に体を沈めた すっと目を瞑ると今日の記憶が鮮明に蘇ってくる 今日は俺にとって人生で最も人生が変わった日だった 好きだって言われて 好きだって言って はじめての恋人ができて お弁当を作る約束をして 最後は恋人のキスをした 思い出すだけで恥ずかしい出来事ばかりなのに、この思い出に浸っていたい俺もいる ぱしゃっと顔の半分までお湯に浸かり、ぶくぶくと息で泡を立てる アキは男と付き合うの、はじめてかな 男とキスをするのも 全部はじめてかな 「アキもするのかな……こういうこと…………」 無意識に口から出ていた言葉に顔が火照る そりゃアキだって男なんだ やることやってるに決まってる 自分の浅はかな考えに羞恥心が大きくなる 相手のこんなこと想像するなんて、俺やっぱり変態なのかもしれない 今度は息を止めて頭まるごとお湯に浸かった 自分の浅はかな部分を綺麗な湯でかき消すように、ぐっと心を無心にして潜り続けた 数分後には湯あたりをしてふらふらになるとも知らずに

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