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はじめての電話

「つかれた……………」 逆上せてふらふらとしながら風呂から上がる 風呂って疲れを取るものなはずなのに、なぜか俺の体は疲労感で満たされている ふぅふぅと息を吐いて上がった脈を落ち着かせ、濡れた体にバスタオルを沿わせる 姉ちゃんには毎日のように肌のケアというものをしろ、と言われるが男の俺がそんな女々しいことするものか ただでさえアキのせいで性格が女々しくなってるっていうのに 俺はもっとテレビに出る渋い俳優さんみたいに男らしい奴になりたいんだ 「いらないっ」 一応手に取った化粧水をぽいっと元の位置に戻す こうしているうちに火照っていた体はすんと冷め、やっとのことで部屋着に袖を通す 俺の部屋着は相も変わらず着心地の良い中学時代の体操服だ それから濡れた髪を拭きながらリビングへ戻りソファにどさっと座り込む うちの新しいソファは俺好みのふかふか具合で、ぎゅっと体が沈む 「こらバカ、化粧水塗りなさいって言ったでしょ」 「いいってば、やだ、塗るなってば」 「いーから、姉ちゃんが高いの買ってあげたでしょ」 「う〜〜〜いやだ〜〜〜〜〜」 上からぬっと顔を出した姉に、化粧水を塗っていないことを見抜かれ睨まれる そしてどこからともなく取り出した化粧水を俺の顔面にぺたぺたと塗り込んでいく どうして透明の液体を塗ってないことにすぐ気付くんだろう 姉ちゃんが俺から離れるとこっそりとタオルで顔を拭く その頃父さんはテーブルにべったりと頬を付け、泣きながら焼酎の瓶を抱きしめている 俺の家族はお前だけだよと言って、酒瓶に頬ずりをしている こんなドラマで見るような典型的な酔っ払いがこの世にいることに少しクスッと頬を緩めた こんなことでさえ面白く感じる俺はきっと、頭にお花畑でも咲き乱れているのだろう 冷蔵庫からペットボトル取り出し、2階にある自分の部屋に行く ひんやりと冷たいペットボトルを机の上に置いてベッドにダイブする ああ、シーツも冷たくて気持ちいい…… 充電器に挿しておいたスマホを手に取り、先にアラームをセットする 明日はアキの分の弁当も作るし、少しだけ早めに起きようと思いいつもより15分早くアラームをセットする アラームをかけた後はベッドに寝転んだままスマホでゲームをする 俺の最近のブームは専らパズルゲーム 同じのをみっつ繋げて消していくよくあるパターンのやつだ しばらくゲームに熱中していると突然スマホが小刻みに揺れ、電話が鳴り出した 電話が鳴ったおかげで更新中のスコアがぶちっと途切れてしまう あ!!スコア更新できそうだったのに………!! 誰だこんな時間に電話なんて しかも大事なゲームの最中に 俺は怒り半分で発信先の名前も見ずに電話に出る 「もしもし!?」 『あ、翔?あの、オレだけど………』 「ぎゃッ!!」 電話の向こう側からは低くて爽やかなイケメンボイス 最近やたらと耳に残る、あの声がする あまりにもビックリしてスマホをぶん投げてしまう 辛うじてベッドに着地したスマホはぼよんと一度飛び跳ねる ア……アキから電話……………… 恐る恐る拾い上げ、スマホを耳に当てる 「ア……アキ……………?」 『おう!』 俺の問いかけに明るく返事をする さっきのマヌケな悲鳴とスマホの衝撃音にアキはどうした?といつもの調子で聞いてくる それに何でもないと返すとまたいつもの調子でそっか、と笑う 電話越しでも、俺の知ってるアキだ 「ど、どうしたの?」 『んー……翔の声が聴きたくなった』 「っへ!?」 『あ、今絶対顔真っ赤になってるだろ』 クスクスと電話の向こう側から笑い声が聞こえる 自分の頬に手を当てると、アキに指摘された通り俺の顔は熱い そう言うアキだってきっとまた、機嫌のいい犬みたいに笑っているに違いない 『電話すんのはじめてだな!』 「う、うん…」 『翔何してた?』 「あ、アキのせいでゲームのスコアを更新し損ねた」 はじめての電話 電話越しだと少しだけ声が違って聞こえるような気もするが、この話し方は変わらない ちょっとした意地悪心でゲームのスコアを更新できなかったことをアキのせいにしてみる 本当はそんなに気にしてないけど だけどアキだとどんな反応をするのか見てみたくて、ちょっとだけ意地悪をする 『えっウソ!?オレのせい!?』 「うん、アキのせい」 『わーごめんっ!じゃあ明日代わりにオレがやるっ!』 「なにそれ、やだ俺がやるもん」 予想通りの反応だ 最初は驚いて、その後軽く謝ると最後にちょっと面白いことを言う 俺が嫌がるとえーと言ってまたクスクス笑う 『じゃあ、明日帰りにアイス奢ったげる!』 「あ、じゃあ俺あの高いやつがいい、普段買わないやつ」 『あはは、翔は口が達者だなぁ』 これも冗談 本当は俺は安くて大きいやつの方が好きだ それなのにアキはわかった、と明るく言う そんな素直でまっすぐな所は電話越しでも変わらない ベッドの上で膝を抱えゴロンと寝転がる お気に入りの枕に横向きで顔を埋め唸るとアキが眠い?と尋ねてくる それを否定するとじゃあもう少しな、と楽しそうにまた笑う 本当優しいやつ こんな優しくてイケメンな学校1の人気者が俺の恋人だなんて、今でも信じ難い もしかしたら俺、学校中の女子の夢を奪ってしまったかもしれないけど 『な、会いたい』 「う……なにそれ、学校で会えるじゃん……」 『そうだけど、会いたいなって』 「………変なやつ…………………」 するとまた急なアキの甘いセリフ すぐこうやって口説くような真似をして、俺を試してるとしか思えなくなってきた まるで条件反射のように頬が熱くなる すぐに火照ってしまう赤面症な己がこんなに恨めしく感じたことは未だ嘗てない だけどその火照りが、お風呂での出来事をフラッシュバックさせる 俺さっきお風呂でアキの顔思い出して………… 急に自分が浅ましく感じて言葉に詰まる 黙り込んだ俺にアキはどうかしたか?といつもの様子で伺って来るが上手く返事が出来ない すると沈黙を破るかのように突然部屋の扉が勢いよく開いた

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