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また明日
「翔〜、充電器貸して〜」
アキとの電話中、突然メスゴリラが部屋に乱入してきた!
▶︎にげる
▶︎たたかう
▶︎しょくりょうをわたす
▶︎おとなしくいうことをきく
「あ?電話してんの?」
「う、うん……充電器、そこ……」
姉の乱入に戸惑いながら机の上を指差す
ほぼ無いに等しい細い眉毛をぴくりと動かし俺そっくりの瞳でじろりと見つめてくる姉
何だか嫌な予感がする
「誰?」
「い、いや…ともだち…………」
『翔?何かあったか?』
俺がスマホから耳を離した瞬間、アキがそう尋ねた
やたらと音質の良い最新機種は遠くても電話の向こう側にいる相手の声をはっきりと通す
アキの声が聞こえるとまた姉の無い眉毛がぴくりと動いた
「あ、輝だ」
…………………終わった
この女、俺が電話をしていると横から乱入してきて電話を奪うという非常に迷惑な習性をお持ちだ
昔から何度俺の友達が被害に遭ったか
そのせいで俺の友達は大体姉ちゃんとも友達だ
「代われ」
「や、やだ」
「いいから、代われ」
「……………………ハイ」
傲慢な姉に逆らえず俺はスマホを差し出す
ふふんと得意げに笑った顔は何とも悪意に満ちているようで、この先起こり得るだろう展開に体が震える
ああ、本来ゴリラとは優しい動物なはずなのに
ごめんアキ、少し耐えてくれっ………
『翔?』
「どーも、姉でぇす」
『えっ!?翔のお姉さん!?』
「やーね、みさきさんって呼んで♡」
会話がわざと俺に聞こえるようにスピーカーのボタンを押し話し始める姉
普段の乱暴な口利きとは似ても似つかぬ猫かぶり
アキには一度暴言を浴びせているくせに
「……………メスゴリラ……」
聞こえないであろうごく小さな声で悪口を呟く
するとスマホを持っていない方の手が拳となり俺の頭目掛けて一直線
ゴンッと鈍い音と共に、俺は声にならない声を上げてベッドになだれ込み足をばたつかせる
「で?その後翔とはどうなの?」
嫌味のようにこちらを向くとスピーカーをオフにしスマホを耳に当てる
俺にはアキの声が届かなくなり、2人の会話の内容も聞こえない
睨み返すもそっくりなはずの眼力は俺の方が弱い
『今日からオレの恋人です』
「へぇー?やるじゃん」
何を話してるんだ
何がやるじゃんなんだ
「見直したよ、輝」
『あは、オレと翔のこと認めてくれるんですか?』
「ま、目の前であんなことされちゃね?」
目の前でって何だ………
俺たち姉ちゃんの目の前で、って…………
「〜〜〜〜〜!!」
夕方の玄関先での出来事を姉に目撃されていたことを思い出しまたベッドにひれ伏す
バタバタと足をばたつかせ両手でドンドンとベッドを叩くとうるさいと怒られ尻を叩かれる
「あんた、あたしが見てるって知っててしたでしょ?」
『あ………』
「まだまだ甘いわね」
知っててした、って…………
姉の声のみ聞こえる会話の内容を推測する
そこから察するに、どうやらアキは姉ちゃんが見てることを知っていて俺にキスしたということらしい
ってえ!!!!!!!
バッと姉ちゃんの方を見ると、頭をぐっと押されてベッドに押しつけられ背中の上に座られる
べちゃっと押しつぶされた俺はもがくことしかできない
ベッドでぺたんこにされた俺の顔は恥ずかしさのせいなのか、はたまた姉の体重のせいなのかは定かではないが真っ赤に染まっていく
「輝、あんた本当に翔のこと本気なんでしょうね?」
『はい、本気です』
「そ、分かった」
もういい……
さっきから何なんだ、何だこの辱めは
姉ちゃんだって過保護にもほどがあるんだ
もがくことをやめぺたりとベッドの上で萎れる
生乾きの髪の毛を姉に好き勝手弄ばれ小さな三つ編みにされるが抵抗する気力もない
『みさきさん』
「ん」
『ありがとうございます』
「ん、またね」
結局詳しい会話の内容も聞き取れないまま姉とアキの会話が終わる
にこりと笑ってスマホを耳から離すと、俺の上から退きスマホを渡される
そして俺の机から充電器をかっさらって、上機嫌で部屋を後にした
ベッドでうつ伏せ状態のままスマホを耳に当てる
『翔?聞こえてるか?』
「う…………」
『あ、翔だ』
久しぶりに聞こえるアキの声
さっきと変わらぬ声色でまたあははと無邪気に笑っているが俺のテンションはやや低めだ
『疲れちゃったか?』
「かなりな……」
『はは!そっか!じゃあそろそろ切るな!』
「ん…………」
せっかくアキとまた電話で繋がったというのに、もうお別れの時間のようだ
だけどもう少しだけ、なんて言う勇気も体力も無くて小さな声で頷く
『明日の弁当、すげえ楽しみにしてる!』
「ん……」
『明日も電車でぎゅってしていいか?』
「…………………ん」
急に睡魔が俺を襲う
1日の疲れがどっと降ってきて、まぶたを重くする
アキの声にも小さな声で返事をすることしかできない
それでもアキは優しく声を掛けてくれた
『翔、また明日な』
「ん……」
明日が来るのがこんなに楽しみに思えるだなんて
日常をただ普通に淡々と、習慣のように過ごしてきたはずだったのに
今日で俺の人生が180度変わった
それもこれも全部、アキのせい
こんなこと直接口に出しては言えないけど
明日は気合入れて弁当作ろう
そんで帰りは安くて大きいアイスを奢ってもらうんだ
『好きだよ』
アキの最後の言葉が届く前に、俺は眠りについた
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