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すれ違い

次の日 昨日よりも強い日差しが俺を照らす 母さんは夕方から雨が降るから傘を持っていけと言っていたが、こんなカンカン照りで雨なんか降る気などしない それに荷物が多くなるのも嫌だしな そう思った俺は母さんの忠告を無視して家を出た いつも通りのペースでアキとの待ち合わせ場所に向かう いつも通り同じ時間のバスに乗り、同じように満員のバスに揺られる だけど俺の気持ちはいつもとは少し違う 昨日姉ちゃんに言われたことが、頭の中をぐるぐると回り続けている それにどこか胸のあたりがモヤモヤする アキが今の俺との関係に不満があるとしたら…… それは俺との関係を終わらせたいってこと? やっぱり男の俺とは付き合えないってこと? 「はぁ…………」 吊り革を握る手に無意識に力が入る どこからともなく出たため息は、狭いバスの中ですぐに溶けて無くなる 俺は今のままで満足していたつもりだった 毎日一緒にいられて、それだけで嬉しかった だけどアキは、違うってこと……………? たった1日冷たくされただけなはずなのに、俺の脳内はそのことでいっぱいだ 俺たち明日で付き合って1ヶ月だ 残念なことに明日は土曜日で、アキと会えるのは次の月曜日になってしまうがそれでも「これからもよろしくな」って言うつもりだった 恥ずかしいけど、そういうものかなって少し楽しみにしていた だけどもし、別れを告げられたら………? 記念日の前日にフラれるなんてよくある話だ 前の学校でも幼馴染が、半年記念日の前日にフラれて泣いていた記憶がある どこから湧いてきたかも分からない不安が俺を襲い出す まず付き合って1ヶ月だとか気にしている時点で女々しいのだろうか 普通は記念日とか気にしないものなのかな アキはそういうの、嫌いなのかな もう、何が普通で何が普通じゃないのか分からない こんな風に考え込んでいるうちにバスはアキとの待ち合わせ場所の駅前に到着してしまう 「ふぅ…………」 狭かったバスから解放され、一度深呼吸をする もしかしたら俺の考えすぎかもしれないよな 昨日は単純に機嫌が悪かっただけかもしれないし 「大丈夫大丈夫…………」 色々と変に考え込みすぎたせいでアキとどんな顔して会えばいいのかいまいち分からないが、必死に自分に大丈夫だと言い聞かせた 普通に、今まで通り接すればいいんだよな……… 駅のホームに降りるといつもの場所でアキが待っている その手には紺色の乾いた傘が握られている アキも傘を持ってきたのか… こんな天気じゃ絶対雨なんか降らないと思うのに アキはいつも、俺がこの電光掲示板の下を過ぎたあたりで俺に気付いて明るく笑いながら手を振ってくれる きっと今日もそうだ 昨日のだって、俺の考えすぎだよな ほら、アキはまたいつもの所で俺に気付いてくれた そう思ったのに おもむろにアキは俺から目を逸らした 確かに俺が電光掲示板を過ぎたあたりで目が合ったのに、まるで都合が悪いかのようにそっぽを向いた 「お、おはよ、翔」 「あ、うん…おはよ……」 その挨拶もいつもと違ってどこかたどたどしい アキの整った顔からはいつもの笑顔ではなく俺から目を背けるような、でもばつが悪くてちらちらと俺の方を気を遣うように見るようなそんな感じがする 俺のこと、やっぱり嫌いになったの………? 少しアキの顔をじっと見つめてみる いつものアキなら俺がじっと見つめたりすると笑ってからかってくるんだ だから………… 「……あ、電車来たぜ」 「………………うん」 だけどアキは俺の方をちらりと見るも、また目を逸らして話題を変える 遅れて返事をすると、アキは黙ったまま何も言わずに遠くを見つめた 結局俺もこれからどう会話を展開していけば良いのか分からなくて、2人して黙り込んだまま電車に乗り込んだ 習慣のようにアキは俺の正面に立ち、俺を守るよう壁になる そっと腰に手を回されるのはいつもと同じだった だけど俺は、自分の手をアキの背中に回すのが怖かった これ以上嫌われたらどうしよう アキはきっと、こうやって甘えてばかりの俺に嫌気が差したに違いないんだ じんわりと瞳に涙が浮かぶ 自分の手をどこへやったら良いのか迷いが出て、結果胸の前できゅっと握りしめる アキに顔色を悟られないように、ぐっと下を向く アキ、俺、どうするべきだった…………? どうしたら、アキに嫌われなかった…………? 俺は気持ちを素直に言葉に出すのが苦手だ 嬉しい、とか好き、とかは特に苦手だ だけどアキが思ってるよりもずっと、アキのことが好きだよ 頭を上げてアキの顔を見てしまうと、きっと泣いてしまう こんなことで辛くなるなんて女々しいって、情けないって分かってる だけど好きな人に嫌われることなんてはじめてで、それがこんなにもショックなことだなんて思わなかったんだ 人知れず震える手をぐっと握りしめる アキのシャツから香るせっけんの香りまで、俺の涙を誘う 俺、バカだよな…………… 1ヶ月の記念日だ、なんてひとりで浮かれちゃって アキが俺に迷惑していたことにも気付かずに 俺ってこんなに重い奴だったのか、なんて思うとますます自分が情けなく感じる 色恋にこんなに感情を揺さぶられて落ち込んで、こんなの男らしくないよな ごめん、アキ 俺…………………………

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