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はじめてのお宅訪問
俺の家を通り過ぎてから10分ほどアキに引っ張られたまま早足で歩き続けている
その間、アキとは目を合わせることはなかった
だけど握られた手から感じる体温は、じんわりと熱かった
アキは住宅街を抜け、大通りに面したビルが立ち並ぶ通りを早足で俺の手を引いて歩いている
抵抗することなくアキの歩幅に合わせる俺
少し小走りのようになってしまい蹴躓くと、それに気付いたのかアキが黙って歩幅を少し小さくする
アキはどこに向かっているんだろう
もう俺の家もとっくに過ぎたし、引っ越してきたばかりの俺はこっち側には来たこともない
「ア、アキっ……どこ向かって……………っ」
「ん、いいから付いて来て」
俺の問いかけに、アキは振り向くことなく淡々とした声色で答えた
まだ聞きたいことがあったが、これ以上聞くのは何だか怖くて聞けなかった
しばらくすると、急にアキが立ち止まる
俺はアキが立ち止まったのに気付かず、そのままアキの背中に衝突してしまう
「ちょ…急に止まんな……っ」
おでこをさすりながら顔を上げると、目の前には綺麗で高級そうな高層マンション
均一に並べられた各部屋のベランダに、所々明かりが灯っている
なんだここ……………
俺こんな高そうな所に来たのははじめてだ
東京に引っ越して来てからも殆ど自宅周辺でのみ活動していた俺にとって、こんな都会的な場所はほぼはじめてに等しい
頂上まで視界に入れようとすると、田舎者の俺はこてんと倒れてしまいそうなくらいに大きくて綺麗な建物
それに感心して見惚れていると、アキはそのマンションに向かって俺を引っ張る
「こ、ここどこ……?」
「オレんち、ここの10階」
やっとのことで口を開いたアキの言葉に俺は耳を疑った
え……アキ、ここに住んでるのか………?
前に一人暮らしって……
男子高校生が一人暮らしをするにはあまりにも相応しくない、高級マンション
きっと家賃も相当しそうだし、前に母さんがこの辺は土地の値段が高いわねと言っていた気がする
「えっ………ちょっ……………!?」
「付いて来て」
「で、でも………っ」
「今日はオレ、翔のこと帰さないって言っただろ」
戸惑う俺に、アキはおどけることなく真剣な表情でそう言い放ち俺の手を引く
どうしたら良いのか分からないまま、俺は半ば強引に引きずられるようにマンションへと入った
一歩踏み入れたそこは、マンションとは思えない豪華なエントランス
どこか無機質でシックなそこは、中学の修学旅行で泊ったホテルをずっと綺麗にしたみたいだ
アキに手を引かれ、エレベーターに乗せられる
大人しくアキの隣に立ちアキの横顔をちらりと見つめる
まっすぐ前を向いたままのアキの表情は、何を思っているのか悟ることができそうにない
するといつの間にか、手のひらに触れる温かい人肌
手元に視線をよこすと、さっきまで手首を握られていたはずなのにいつの間にか俺たちは恋人繋ぎをしていることに気付いた
もう一度アキの顔を見つめる
すると今度は耳を少し赤くさせ、そっぽを向いていた
ポーンと響きの良い音と共にエレベーターが上昇を止める
扉が開くと、アキと手を繋いだ俺は控えめにアキの隣を歩いた
1008と書かれた号室の扉の前で立ち止まり、ポケットから鍵を取り出して扉を開ける
アキの手は依然俺の手を握ったままだ
「入って」
そう言って扉を開け、俺を先に部屋へと誘う
「え、えっと……でも…………」
「いいから入って、な?」
「う、うん……………」
尻込みしていると、アキが俺の腰に手を当てて優しく部屋の中へと押し入れた
とんっと玄関に足を踏み入れると、中はほんのりアキの優しいせっけんの香りがする
「お、おじゃまし………んんっ!?」
俺が小さく呟いたその瞬間、ガチャリと鍵が閉まった音が聞こえた
それと同時に頭をガッと両方から掴まれて、再び激しいキスが始まる
「んっ……ふ、ッむ…んぅ……ッんん!」
再びアキの舌が俺の唇をこじ開けてぬるんと入ってくる
角度を変え、何度も何度も舌を絡められる
またこんなキス…………!
こんな風にされたら俺……………ッ
いよいよ夢中になってきて、俺は上を向いたままぎゅっと目を瞑る
そしてアキの両頬を同じように両手で掴むと、夢中になって自ら舌を絡める
「ぁう……んっン、んむ…ッんぅ……」
アキが俺の両頬から手を離すと、今度は俺の腰と肩をぐっと抱き寄せ冷えきった身体をこれでもかと言うくらいぴったりと密着させる
強く抱きしめられながらも、キスをやめることはない
俺の冷たく濡れた腰に触れるその大きな手が熱い
「んぅっ………ン、んっ、んんッ………」
「翔っ、しょう………っ、んっ……」
「ぁう……んっ、ン………ンぅ、ん……」
やばい、こんなに気持ちいいキス
やめられない
やめてほしくない
もっと、もっとして
必死になって舌を絡める
離して欲しくなくて、アキの背中に手を回しぎゅっとしがみつく
だが俺の意思や欲望とは裏腹に、だんだんと腰が立たなくなっていく
ずるずると少しずつ地面に向かって体が下がり、やがて唇が離れてしまう
「んっ、……は、はぁ、はぁっ……」
2分ほどの長かったキスの余韻でビクビクと震えている
それでも名残惜しく思い唇に手を触れると、べっとりと唾液で濡れている
すごいキス、しちゃった…………
あんなキス、ドラマでだって見たことない
靴を履いたままぺたんとその場に座り込み、はぁはぁと肩で息をする
体が震えて言うことを聞かなくて、立ち上がることすら出来そうにない
「へっ………!?ちょ、あきっ……?」
「風呂入ってきて、風邪引くといけないから」
「ちょっ、待っ………」
すると俺の体がふわっと浮き、足から濡れた靴がいなくなる
気付くと俺はアキにお姫様抱っこなるものをされていて、玄関にカバンを置き去りにしたまま脱衣所へと強制連行されている
「上がったら、ちゃんと話そ」
広くて綺麗な脱衣所に到着すると、アキはそう言って俺を床に降ろす
されるがままの俺は、まだキスの余韻が抜けなくて体がピクピクと脚が震えている
「下着は新しいのがある、着替えはオレのでいいか?」
「え、あっ……う、うん…………」
アキからの突然の問いかけに訳も分からないまま思わず頷いてしまう
するとアキは緩やかに口元を緩ませ、俺のびしょ濡れになった頭をぽんと撫でる
「待ってるから」
アキはそう言うと俺の唇にちゅっと短くキスをして、脱衣所のドアをゆっくりと閉めて出て行った
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