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最初のおはよう

カーテンの隙間から漏れる太陽の光が俺の顔を照らす ま、ぶし………っ いつもより柔らかい布団に いつもより柔らかい枕 それに布団の中でもぞもぞと手を動かしてみるとぶつかる人肌らしきもの あれ…ここ、俺んち、じゃない……………… 閉じた瞼を徐々に大きく開いていく すると目の前には真っ黒い髪の毛にキリッとした眉 すっと通った鼻筋に目尻の下がった優しげな瞳、それに形の整った薄い唇 なんだこれ………彫刻………………? 寝ぼけた俺は目の前の彫刻らしきものに手を伸ばす そしてそれにぺたりと手を触れると、それが彫刻ではないことに気付く 「おはよ、翔」 不意に目の前の唇が動き、低い声を発した その低い声はどこか聞き慣れたような新鮮なような、だけどどっちにしろ暖かくて優しい声だった 「ん〜……お、はよ………」 その声によく分からないけど返事をしてみる するとゴツゴツした大きな手が俺の頬にそっと触れた 目の前の綺麗な顔を見つめると、ふふっと目を細めて微笑む 手があったかくて気持ちいい………… これ、夢かな………… 夢のような目覚めに、俺は寝起きの頭を働かせて状況を理解しようと試みる 確か昨日は放課後アキと喧嘩みたいになって 雨の中キスをした そのあとアキに手を引かれてアキの家まで連れて行かれて びしょ濡れになった体を温めた んっと……そんでそのあとは……………… 「うわぁぁああああ!!!!!!!」 やっとのことで頭が冴えてきたのも束の間 俺は悲鳴のような声を上げ、勢いよく体を起こした 少し腰やそれより下が痛い気がしたが、これはきっと何かの間違いだ 寝違えただけだ、きっと 確認するようにちらりと隣を見ると、寝転んだまま俺の方を向いて肘をつきニコニコ笑う上半身裸の男がいる その男はやたらと整った顔立ちをし、タオルケットからは鍛え上げられた体が覗く 「おはよ、よく眠れたか?」 「う……………」 こ、この状況………もしかして…………… 「昨日のこと、覚えてる?」 「……覚えて、ない…………」 いや、もしかしてなんて言っているが本当は1から10まで全てしっかり覚えている 昨晩アキと話をして 長くて濃いキスを何回もして はじめてのエッチをしたこと そんで俺から、中に出してって求めたこと 全部全部、俺の頭に鮮明に残っている とっさに出た嘘に罪悪感を感じつつ、恥ずかしくてぷいっと下を向く 「あ、今翔、嘘ついた」 だが罪悪感を感じたのも少しの間だけ 俺の嘘は簡単に見破られてしまい、隣ではアキがクスクスと笑っている ますますばつが悪くなり、俺はタオルケットを引っ張りながらずるずるとアキから遠のく 「覚えてるよなー?昨日オレとエッチしたの」 「う、お、覚えてない………」 「えー?翔、あんなにあんあん言って、中に出して〜っておねだりして来たのに?」 「なっ、なかにっ……お、覚えてない!!」 アキが寝転んだままずりずりと俺に近付いてくる そして少し意地悪な声色で俺を責め、ますます俺の居場所を狭めてくる ぶんぶんと首を振って否定するも、アキはずっと意地悪な顔をして見つめてくる な、中に出してなんて…………っ ……………い、言ったけど……………… だって欲しかったんだもん…………… 完全にタオルケットを奪い取ると、それで体をぐるりと巻き隠す ボクサーパンツ一枚だけのアキの筋肉質な体をほんの少しだけチラ見する 「へー翔、嘘つくんだ」 「う、うそじゃないもん………」 「へー、翔ってオレにも嘘つくんだー」 「あ………ぅ……」 アキに意地悪に責められ戸惑った俺はきょろきょろと目を泳がせることしか出来ない そんな間もアキは意地悪な顔をしてへー、と言ってはため息を吐いている う、もう、耐えられない…………っ 「………おぼえてる…………………」 「はい、翔の負け」 「あぅっ……!」 アキに責められていよいよ耐えられなくなってしまい、俺は小さな声で真実を述べた するとんふふ、と上機嫌に笑いながら起き上がったアキにパチンと軽くおでこを小突かれてしまう 弾かれたおでこに手を当ててアキを見つめると、くくっといやらしく笑っている 「〜〜〜〜〜〜ッ!!!アキのばかっ!!!」 「ごめんごめん、意地悪言ってごめんな?」 「許さん!アキのバカ!アホ!絶対許さん!!」 辱めを受けて顔を真っ赤にする俺 俺を見ながらけらけらと弾けるように笑うアキの体をバチンバチンと何度も平手で叩く それでもアキは痛そうな顔ひとつせず、にこにこ笑って俺の平手打ちを食らう 「ほらもう、叩くの終わり」 「あっ……!」 しばらくそうしていると、不意にアキがぶんぶん振り回していた俺の両手首をぎゅっと捕まえた 「1ヶ月、おめでとう」 優しく穏やかないつもの声でそう言って、ちゅっと短くキスをされた そしてぽかんと固まったままの俺の手をぎゅっと握りしめる 「これからもずっと一緒にいような!」 アキは屈託のないキラキラとした満面の笑みで俺に言う そんなアキの顔を見て、俺はさっきまで考えていた暴言が全て引っ込んでしまう 「………………………………ゆるす」 キラキラの笑顔でそんなこと言われたら、許さざるを得ないじゃん そんなズルイことされたら、もう悪口も言えないじゃん よっしゃー!とバンザイをして喜ぶアキ そんな子供っぽい仕草に不覚にも頬が緩んでしまう 本当は嬉しかった 起きたら目の前にアキの顔があって 一番最初におはようって言って 昨日のエッチも、 アキに抱いてもらって 中に出してもらって 愛してるって言ってもらえて、 本当はめちゃくちゃ嬉しかった それに、エッチもすごく気持ちよかった こんなこと絶対言ってやらないけど ふと自分の体を見ると、昨晩気絶するように寝落ちしてしまったはずの俺の体はすっかり綺麗になって、新しいTシャツと下着が着せられていることに気付いた それにお尻に出されたはずの精液のぐちゅっとした感じもしない これ、アキがしてくれたんだよ、な…………? 「アキ……これ、あの、ありがと…………」 何だか面と向かって言うのは少し恥ずかしいような気がした俺は、俯きがちにチラチラとアキの顔を見ながら小声で言った 少し顔を上げてアキの様子を伺ってみるとキョトンと目をまん丸にしている彼氏 そして時間差のように頬が赤く染まって口元が笑うように口角を上げる 「今の超可愛かった、もっかい言って!」 「うっ、うるさいっ!!」 「ぐえっ」 「ばっ、バカアキ!!二度と言うかボケッ!!」 にやにやと鼻の下を伸ばすアキの綺麗な顔に、見事なまでの平手打ちを食らわせてやった 「さ、サーセン………」 アキはほっぺたに手を当てていてー!と嘆いている そんなアキを見て俺はにんまりと満足そうに笑った アキが頬をさすりながら立ち上がりカーテンを開けた キラキラと輝く眩しすぎるくらいの太陽の光が広い部屋に射し込む 昨日の雨が上がって空気が澄み 綺麗な青空が広がっていた 窓を開けると爽やかな風が吹き込んでアキの真っ黒な前髪を揺らした まぁ、1ヶ月の記念日には、ふさわしい天気じゃん…?

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