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六条静磨

「しずにーたん、けいまが泣いたー」 俺の裾をくいくいと引っ張る小さな手をとって、示された方向へ歩く 泣きわめく一番小さな弟を抱き上げ、あやすように揺すってやる すると涙はすぐにピタリと止まり、キャッキャと手を叩いて笑い出す 「しずにぃ、おれ今日日直なんだ」 「おう、じゃあ急がねぇとな」 膝に絆創膏だらけの一番上の弟に帽子を被せて頭を撫でる 「ことみね、今日おひめさまするの」 「おう、今度兄ちゃんにも見せてくれ」 二番目の妹を膝の上に乗せ、柔らかい髪の毛をピンク色の丸い飾りが付いたヘアゴムでふたつに結う 俺の膝の上で妹が嬉しそうに鼻歌を歌っている 「しずにぃ!あゆみのくつ下けいまが食べてる!」 今度は短い髪の毛に黄色のピン留めをした一番上の妹が走って俺のところに来た 「こら慶磨、それは食いもんじゃねぇぞ」 「あぅ〜」 オレンジ色のくつ下を咥える1歳半の弟をまた抱き抱え、口からそれを吐き出させる 「これお気に入りなのにー」 「洗濯しといてやるから、今日は我慢して違うの履け」 「うんっ!」 我が家の長女はにっこりと笑うと嬉しそうにスカートを揺らして走っていく 我が六条家は母1人、子5人の母子家庭だ 上から、 長男静磨(しずま)、高校2年生 次男勇磨(ゆうま)、小学4年生 長女歩美(あゆみ)、小学3年生 次女琴美(ことみ)、保育園年中 三男慶磨(けいま)、1歳 の5人兄弟だ お袋はいつも早い時間に仕事に出るため、朝はいつも俺が弟たちの面倒を見る 親父は慶磨が産まれたすぐ後に仕事中の事故で死んだ 弟達の支度を全て済ませると自分の髪をセットする 赤く染めた髪にワックスを馴染ませ、前髪を一気に後ろへ持っていってオールバックスタイルにするのが一番楽で手っ取り早い 仕上げに左耳にコバルトブルーの小さなピアスを差し込むと、弟達を居間に集める 「今日の線香当番は」 「ことみ!!!」 俺の問いかけにふたつ結びの妹が元気よく小さな手を振り挙げる 蝋燭に火を付け線香を1本渡すと、妹はわくわくしたような面持ちで火に近付く 「火、気ィつけろよ」 「うんっ!」 「こら勇磨、ちゃんと正座しろ」 「はぁい」 蝋燭の火が消えないようにそっと線香に火をつけ、それを立てる 少し傾いた線香から、細く煙が伸びる 正座を崩す次男坊に注意をし姿勢を正させると、線香当番の妹に合図をする 「いくよ?せーの!」 「「「「お父さん、行って来ます!」」」」 勇磨と歩美は近隣にある公立の小学校へと仲良く走って行った 俺は琴美と手を繋ぎ慶磨を抱き抱えて保育園に向かう 保育園に向かう途中商店街の中を通ると、クリーニング屋のおやじや八百屋のおばちゃんが「いつもご苦労様」と声を掛けてくれる 夕方寄る、と伝えると八百屋のおばちゃんはいつも良い野菜を残しておいてくれる 保育園は家から歩いて15分くらいのところにある そこで朝から夕方まで琴美と慶磨を預かってもらっている 「しずにーたん、じゃあねー」 「あうー」 「静磨くん、行ってらっしゃい」 「うす、今日も2人のことよろしくお願いします」 おむつや哺乳瓶が入ったバッグを慶磨の担任であるミカ先生に渡し、慶磨も渡す お気に入りの先生に抱き抱えられた末っ子は、ご機嫌な表情で黄色いエプロンにしがみつく 妹と弟に手を振られ保育園に背を向け立ち去ろうとすると横から琴美よりひとつ年上の年長組の男子が数名、俺に向かってタックルをして来た 「ことみのにーちゃんだ!!」 「遊べよー!!」 「ぐるぐるしてー!」 「おれもおれもー!!」 小さなタックルを両手で受け止め、坊主頭のガキをぐるぐると抱えて何度か振り回してやる そいつを地面にそっと下ろすと他のガキたちも俺の足元に群がる 「ことみのにーちゃんのあたま、マジレッドみたいでかっけー!」 「さわっていー?」 「おう」 真っ赤にブリーチしたこの髪が、この年代の子供には特に人気らしい この髪はわけあって赤く染めている 不良だと言われることもあるが、今のところこれを元に戻す気はない 「こーら、ことみちゃんのお兄ちゃん、困ってるでしょ」 「ちぇー」 「じゃーな、マジレッド」 慶磨を抱えたミカ先生が、俺の右脚に纏わりついていた坊主頭のガキの首根っこを捕まえる 俺に群がっていたやつらも拗ねたようにそれぞれに解散して行った ちなみにマジレッドとは、日曜日の朝に放送されている特撮アニメマジレンジャーの主人公のことだ 最近の子供はみんな、このアニメに夢中らしい 「ごめんね、うるさいでしょー」 「そんなことないっす」 もう一度行ってらっしゃいと言ってくれるミカ先生に会釈をして、俺は保育園を後にした

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