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月曜から日曜まで、俺は毎日3つのバイトを掛け持ちしている 昼は喫茶店 夜はバー 休日は薬局 親父が死ぬまでは経済的にも余裕があった けど親父が死んでからは急に家計が傾いた お袋は昼間はパートに深夜は介護施設での夜勤、それに内職までして俺ら兄弟の学費や生活費を稼いだ だけど、お袋にも限界があった 高1の夏、お袋が倒れた 原因は過労 そこから俺のバイト生活が始まった 2年に上がるまでは休みがちではあったが、進級できるくらいには学校に通っていた だが2年になってからは、週に1回 保健室の窓から侵入しその場で勉強することでなんとかギリギリのラインを保っている 本来であれば欠席と判定されるそんなやり方を許可してくれたのは、俺の事情をよく知る担任の海老名先生だ ただし出された条件は、定期テストで学年1位を取ること 成績が下がったと同時に退学処分になる、それが俺に出された条件だった 必死で校長に交渉してくれた担任や養護教諭も、これが限界だったと嘆いた 学校側も、そんなのすぐに終わってしまうと高を括ってこんな条件を提示したはずだ だから俺は、いつもテストで1位を取る 本当はテスト全てを未記入で提出して学年トップから退いて、早々に退学になってやろうと思ったこともある だが必死になって俺の学費を稼いでくれるお袋に対して、そんな不誠実なことは出来なかった だから俺もやれる限り、やろうと思った この学校にはたくさんの噂がある 風紀委員長は裏で売春している、とか 野球部の顧問は女子マネージャーとデキている、とか 学校1の人気者は女子100人斬りした、とか 養護教諭の網走はゲイバーに入り浸ってる、とか その他諸々汚ねぇ噂が飛び交っている その中に俺のものもある “六条静磨は毎日喧嘩三昧の最悪の不良” “子連れのヤンキー” これが俺に向けられた噂だ どこの漫画の話だと突っ込みたくなるほど身も蓋もない噂だが、この見た目じゃそう思われても仕方のないことかもしれない 赤い髪は弟と妹のためだ 親父が死んでから、弟や妹が度々学校や保育園でいじめられていることを知った 理由は父親がいない、そんなことだった そんな時に見かけた特撮ヒーロー 我ながらバカな思いつきだと思う だけど、これなら勇磨も歩美も琴美も寂しい思いをしなくて済むんじゃねえかと思った その日に髪を真っ赤に染めた 弟たちはみんな大喜びで、俺のことをマジレッドみたいだとはしゃぎ回った 彼らの友達も、俺を姿を見てはしゃぐうちに父親がいないことをからかってくることもなくなった だからこの髪を元に戻す気は毛頭ない 不良だと勝手な噂を流されようが、俺の大切な弟たちの喜ぶ顔が見られるならそれでいい 左耳のピアスは、去年の誕生日に弟達が貯めた小遣いで買ってプレゼントしてくれたものだ どうやらピアスだと知らずに“きれいだったから”と買ってしまったらしい その日から肌身離さず身につけるようにしている 琴美と慶磨を保育園に送り届けると一度家に戻り制服に着替える 今日は水曜 週に一度、俺が登校する日だ 使い潰した薄っぺらい鞄を持ち、少し尖った革靴を履いて学校へと向かった バスで約30分揺られ、学校の近所の停留所で降りる 学校の周りはしんと静まり返っていたが、グラウンドからは明るい声が聞こえた 時間的にはちょうど2限が始まった頃だろう 普段も妹たちを保育園に送り届けるとこのくらいの時間になる そのまま俺は校舎裏に回り、保健室の裏側へ向かう 人目に付いて目立ってしまわないよう静かに進み、いつものように保健室の窓を外側から開ける この窓も俺が来ることを見越していつも鍵を開けておいてもらっているし、水曜のこの時間は人を入れないようにしてくれている 慣れたように窓枠に手をかけぐっと体を持ち上げる そして窓枠に乗り上げた だがそんな俺の目に映り込んで来たのは まるでさっきまで致していたような格好の幼馴染だった 見覚えのない、もやしみたいな男と共に

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