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修羅場

ガラガラと何かが開いたような音に驚き、音のした方へと瞬時に顔を向ける そこには絵に描いたような真っ赤な髪を逆立て、キラキラと輝くブルーのピアスをしたいかにもヤンキーですと言った風貌の男の人が窓枠に足を掛けていた 「えっ」 「あ?」 「あっ」 何が起こったのかいまいち理解できずにぽかんと口を開けたまま呆然とする俺 そして状況を理解すると同時に、顔が沸騰したやかんのように赤くなる みっ、見られたっ………………!? ど、どうしよう 誰か分からないけど制服着てるし絶対ヤンキーだし、顔も超怖いし これをネタに脅されてお金やいろんなものを要求されたりしちゃったりしたらどうしよう……っ それとも学校中に言いふらされて、ここに居られなくされちゃうのかな……っ アキに助けを求めるように俺に乗っかったままのアキをちらりと見ると、アキはその赤毛のヤンキーと目を合わせたまま離さない 「静磨……」 するとアキの口からどこかで聞いたことのあるような名前がポロっとこぼれた その声にピクリと反応した赤毛のヤンキーは少し唇を噛み締めたあと薄い唇から声を漏らした 「悪ィ、邪魔した」 「えっ、いやっ、あの……」 低い声が俺たちに向けられる その声に思わず肩が震え、口籠ってしまう だがそこでアキの様子がおかしいことに気付いた 「静磨、待てよ」 「見なかったことにしてやる」 「おい!待てって」 アキが窓から飛び出そうとする腕を掴んで引き止める 赤毛の男はぴくりとも表情を変えようとせず、まるで凍りついたように冷たい瞳でアキを見つめ腕を振り払う だがアキも負けじとその腕をもう一度掴み、ぐっと強く握った アキの太い腕に血管が浮かび、どれだけ腕に力を込めているかが俺にも伝わってくる 「おい、お前なんで…」 「お前には関係ねえだろ」 「関係ないってなんだよ…!」 聞いたことのないアキの強い口調 アキは決して俺を“お前”と呼ばない 俺に対して“待て”と命令したりもしない いつも優しく諭すように俺に語り掛けるアキとはまるで別人のようで、心配になってアキを見つめる アキはさっきの甘えたような顔付きとは打って変わって眉間にしわを寄せ、ぐっと唇を噛み締めている その瞳にはどこか怒りや苛立ちのようなものも含まれているような気がして、ますます不安になる 「ア、アキ…………?」 「翔、ごめん、オレのせいだな」 「あ、あの、俺………」 「ごめん、ちょっと待って」 少し血の気のようなものを感じるアキが心配で、思わずアキに声を掛けてしまう だがアキはこちらを向くことなく俺に謝り、いまだに赤毛の男の腕を掴んだまま睨み合っている 俺の言葉にも耳を貸す様子のないアキを見て、どうしたら良いのか分からなくて涙が溢れる ど、どうしよう…………… 俺どうしたら…………………… すると今度は扉が開く音がした 俺は驚いてビクッと肩が跳ねるも、アキはそれでも目の前のヤンキーと睨み合っている 不意に閉めていたカーテンが勢いよく開く まっ、また誰か来た…………っ!? もう俺、終わりだ………………!! そう思いぎゅっと目を瞑った 溜めていた涙が目尻からすーっとゆっくり流れていく 怖くて震える手、いつもならアキが握ってくれたりするのに今日はそんなこともしてもらえない 「え、何この修羅場……」 だが目を瞑った俺の耳に聞こえて来たのは、この部屋の持ち主である成人男性の声だった 恐る恐る目を開けてそちらに視線を向けると、そこには養護教諭の網走先生の姿 目を点にしてぽかんと口を開け、やばいと言わんばかりの様子だ 「せんせ………」 「ちょっ、あなたたち………」 よかった………っ、先生で………… 縋るような目で先生を見つめ、助けを求める するとハッとして俺に駆け寄った 「もう、ボタン開けっぱなしで」 「え、えーん……先生〜……………」 「ほらもうあなたたち、いつまでやってんの」 「恭ちゃん………っ」 先生は至って冷静な様子で全開だった俺のシャツのボタンを閉める 安堵した俺が子供のように涙を流して先生を見つめると、よしよしと頭を撫でられる そしてボタンを閉め終わるとアキの手を掴み、ほら、と言った すると一度悔しそうな顔をしたアキが唇を噛み締めながら、そっとその手を離した 「静ちゃん、来なさい」 「っ……」 その隙を突いて窓から逃亡しようとしていた赤毛のヤンキーの腕を今度は先生が掴む 至って冷静な態度でそう言った先生だが、どこか威圧感を感じる するとさっきまで微動だにしなかった赤毛のヤンキーが小さく舌打ちをすると、はじめて保健室へと足を踏み入れ靴を脱いだ な、なんだこの修羅場……………っ 圧倒的に部外者になり下がってしまった俺は、いつの間にか涙も止まっている きょろきょろと3人を見回すと、先生に優しくおいでと手招きをされてベッドから下りた

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