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もうひとりの目撃者(回想)

「あなたたち、またベッド勝手に使ったわね」 「ご、ごめんなさい………」 「……………」 「ま、今日はアタシの落ち度でもあるけど……」 現在、俺たちは網走先生に言われるがまま4人で保健室の中央にあるテーブルに付いている 俺の隣がアキで、正面が先生 斜め向かいにいるヤンキーはそっぽを向いて座り、いかにも機嫌が悪そうだ 先生の女の人が好みそうな整った顔とは裏腹にふっくらとした唇から出る言葉は女性を思わせる だが先生が最初に口にした“また”と言う言葉に疑問を持つ者もいるのではないだろうか 実は網走先生は、俺とアキの関係を知る数少ない人物だ これには深いような深くないような理由がある これは数日前の午後の出来事 バシャッ!!! 「うわぁぁあ!ごめんっ!ホントごめんっっ!」 「わー、派手にやっちゃったな…」 「高村ついてねー」 掃除中、クラスメイトの女子が水の入ったバケツを持ったまま段差に躓き、その水が俺の体へとダイレクトに浴びせられたのだ 一瞬でびしょぬれになった制服 ズボンは小さなしぶきが掛かった程度だが、シャツはかなり濡れて体に張り付いてしまっている 「だ、大丈夫だって、体操服もあるし!」 「ほ、本当にごめん……っ!」 「大丈夫大丈夫、気にしないで」 泣きそうな顔をして謝る女子をなだめる ぺこぺこと頭を下げられ、それを必死になって止める まぁ幸いにも今日は体育があったおかげで体操服もあるし、暑かったから少しだけ涼しくなったと思えば別にどうってことない それにこのくらいの不運、俺にとっては日常茶飯事レベルである 「翔、保健室に着替えに行こうか」 「うん」 びしょ濡れの俺は体操服を持つとアキに付き添われて1階にある保健室へと向かった 保健室に向かう途中色んな人に見られてしまった気がして少し恥ずかしくなる きっと俺のことを知らない人には“制服びしょ濡れ男”として認定されることだろう 保健室に入ると網走先生のデスクの上には「外出中、ゴメンね♡」と可愛らしくデコレーションされた立て札が置いてあった 俺はとことこと一番奥のベッドまで歩き、そこでカーテンも閉めずに濡れたワイシャツを脱ぐ すると濡れたワイシャツを畳んで丸めている俺の背中に、ぺたりと何かが触れたのを感じた ヒヤッとして後ろを振り返ると案の定アキが俺の背中をぺたぺたと触っている 「な、なんだよ…」 「キスマーク、まだ消えてないな」 「っ……!アキがいっぱいつけるから、だろ……」 「なんかエロい」 そう言うとアキが俺の背後からぎゅっと俺を抱きしめ、肩についたキスマークを上書きするようにきつく吸ってきた 「ばっ!バカ!!なにしてんだよ!」 「ココ、消えそうだから」 「消えていいだろ!やめろ、付けんなっ!」 「んー、無理、付ける……」 俺が腕の中で暴れるのもものともせず肩や首をチュッと吸っては赤い痕を残していく そのたびにチクッとした痛みが生まれる 甘えたような声で俺に抱きつくアキ そんな甘えた声出されると、また気持ち良くなってきてしまう だがアキに流されそうになった俺はふと気が付いた ここ、学校じゃん…………………!! 重大すぎる 忘れていたことが重大すぎてもはや引く もしこんなところを誰かに見られたりなんてしたら、俺一生の終わりかもしれない もし女子にでも見られたら、きっと明日からドラマのように酷いいじめの始まりだ 「やめろっ、ここ学校!」 「大丈夫大丈夫」 「大丈夫じゃねぇよ!人来るからっ!」 “とある理由”でこの学校の保健室には女子がほとんど近付かないことをまだ知らない俺はじたばたと暴れる だが非力な俺では到底アキには敵わない そのままベッドに押し倒されて今度は露わになった胸の突起をぺろぺろと舐められる 「ひぁ、っや、ばか、やめろっ」 「んー」 「うぁあ、も…やめろって…」 「もうちょっとだけ…」 アキが少し硬くなり始めた乳首を歯で甘噛みする そのたびにビクビクと体が震え、少し前にはじめて知った快感が蘇ってくる 片方を口で刺激しながらもう片方は指先でアキの好きなように弄ばれる 「んぁっ、やっ、それやだ……ッ」 「ほら、硬くなった」 「ンンンっ、だめ、ばか、噛むなっ……!」 「乳首気持ちいいな?」 「やぁっ、よく、ないっ……!ッン、ぁうっ」 今にも快感に呑まれそうな俺は、俺に跨るアキのシャツをぎゅっと握りしめ震えながらそれに耐える アキはまた意地悪でSな顔をして依然俺の胸をまさぐっている だめだって、抵抗しなきゃって分かってるのに 快感が俺を支配していくんだ だめだって分かってるのに、アキにこんなことされたらこの間のこと思い出しちゃう………っ そう思った瞬間だった ガラガラッ アキにされるがままただ快感に耐え続けていると不意に保健室のドアが開いた う、うそ…………………!! と思ったのももう遅く 「あらー……お取り込み中だった?」 ドアの前には優雅に白衣を着こなし、手にたくさんの資料を持った網走先生が立っていた

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