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幼馴染

静磨とは小さい頃からの友人で、幼馴染だ 母親同士が年の離れた幼馴染で、オレたちも幼稚園に入る前からいつもセットで扱われていた だからオレたちも、当然のように仲良くなった 中学の時もずっと同じクラスでずっと一緒にいた 同じ高校に行こうな 中学1年の時には、そんな約束だってした その頃からすでに無愛想で不器用な男だったが、それでも優しくて誠実で心から何でも話せる親友だとオレは思っていた その頃から静磨の家庭は大家族で忙しそうだったが、それでもたくさんの兄弟や優しく明るい両親に囲まれて幸せそうだった そんな静磨が、オレは羨ましかった でもオレたちが中学3年の冬、その幸せは急に壊れた 建築士として仕事をしていた静磨の親父さんが、偶然現場に赴いた際に不運な事故に遭った 同行していた部下を庇い、鉄骨の下敷きになったと母親伝いで聞かされた 危篤状態のまま病院に搬送された静磨の親父さん その時静磨のお母さんのお腹の中には5人目の子供がいた だが静磨の親父さんは、その子供を抱くこともなく静かに病院で亡くなった 静磨はお父さんの訃報と弟の出産の知らせを同時に聞いた その頃から、静磨は学校を度々休むようになった 静磨のお母さんは毎日寝る間も惜しんで働いたらしい その代わりに静磨が生まれたばかりの弟の世話をずっとしていたと聞いた それでも元より学力も高く向上心のあった静磨は高校入試にも無事合格し、オレと同じ高校に入学した 同じ高校に行こうな 中学の頃の約束を守ってくれた静磨を少しでも支えられたらいいな、と心からそう思っていた それが高校1年の秋頃、静磨はパタリと学校に来なくなった 次に静磨を見たのは冬頃、近所の喫茶店だった 当時付き合っていた彼女に連れて行かれた喫茶店で、静磨はアルバイトをしていた その時見た静磨の髪は、まるでなにかのキャラクターのように真っ赤に染め上げられていた 「静磨、それ、どうしたんだ?」 「……………別に」 「何かあったのか?」 「……………弟たちのため、それだけだ」 最後に交わした会話がこれ 元より無愛想であったが、この時の静磨は今までとは様子が違っていた 目の下にはうっすらとクマのようなものがあり、表情は凍りついたように冷たかった オレはこの時、もっと静磨に寄り添うべきだったと 今更になって後悔することになる それから2学期の期末テストが行われた いつも通り食堂前に順位が貼り出されたそれを、クラスメイトに連れられて見に行った そのいちばん上に、静磨の名前があった 目の前には真っ赤な髪 太陽の光でキラッと煌めくブルーのピアス 窓枠に土足のまま足をかけ、翔と共にベッドに座るオレを見下ろしている 「悪ぃ、邪魔した」 「えっ、いやっ、あの……」 久しぶりに聞いた低い声 それに重なる翔の焦ったような声 なんでここに………………… 学校に来てるなら、何でオレに声をかけてくれなかったんだ 何で今までずっと相談してくれなかったんだ メールも返してくれなかったんだ 電話にも出てくれなかったんだ たくさん問いたかった だがふつふつと湧き上がる怒りや寂しさやそれ以外の何と例えたら良いのか分からない感情が、そんな事も出来なくさせてしまう オレはベッドから立ち上がると、くるりと背を向け窓の外へと出て行こうとした静磨の腕を掴む 「静磨、待てよ」 「見なかったことにしてやる」 「おい!待てって」 ぐっと静磨の腕を掴むと、表情一つ変えずにオレの腕を振り払う なんで何も相談してくれなかったんだ…… どうしてひとりで背負いこんだんだ……… オレが、健が、どんな気持ちでお前が戻ってくるのを待っていたと思ってるんだ……… お前からの連絡を待っていたと思ってるんだ……! 本当は喉までパンパンにつっかえた言葉を今すぐに吐いてしまいたい 怒りに身を任せて感情的になっていい相手じゃないのは分かっている 静磨がどれだけ苦労したか、痛いくらいに理解している 「おい、お前なんで…」 「お前には関係ねえだろ」 「関係ないってなんだよ…!」 関係ない、と突き放されたことに思わず頭の血管がぷつんと切れてしまいそうになる 何が関係ないだよ 何年一緒にいたと思ってるんだ お前の親父さんは、自分の父親と仲の悪かったオレのことだって息子のように可愛がってくれたんだ 関係ないなんて、何でそんな風に突き放すんだよ 頼りにしてもらえない自分が情けない 静磨の支えになってやれなかった自分が、 何も知らなかった自分が、心底情けない わずかに残った理性で怒りや苛立ちや悲しみを抑え、ぐっと血が出そうなくらいに唇を噛み締める 泣きそうな顔をして心配してくれる翔の言葉も右から左へ流れてしまう ごめん翔 こんなカッコ悪い姿見せて だけど静磨も、オレにとって大切な人なんだ だからごめん もう少しだけ、情けないオレの隣にいてくれ

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