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行方不明の健

2限目の授業が終わる頃を見計らって教室に戻った それまではアキと保健室でまぁその、いちゃいちゃとしていた いや、俺は早く戻ろうと言ったがアキがまだいいからと言って引き止めてきたんだ だから俺は悪くない 扉を開けた瞬間、クラス中の視線が一度にアキに集まった その瞬間、クラス中の女子がものすごい勢いで俺たちの周りに集まって来た のではなく、俺を突き飛ばし一斉にアキに群がって行く 突き飛ばされた俺は尻餅をついてしまう この光景、デジャブ…………… 「輝くんっ、さっきはどこに行ってたの?」 「私心配してたのっ」 「具合でも悪かったの?」 「具合悪いならアタシが介抱してあげるよ?」 はっ……やっぱり俺はおまけですよーだ……… クラス中の女子に囲まれたアキは大丈夫、とかごめんな、と短く返事を返している 尻餅をついたままの俺はにこにこと困ったように笑うアキを見上げふんと鼻を鳴らす このタラシ……………… 満更でもない顔しやがって…… アキの顔を横目に立ち上がる そのままふらふらと歩き大人しく席に着くと、いつも隣の席で黙々と漫画を読んでいる健の姿がない 「あれ、健は?」 「え?お前ら探しに行ってから戻って来てないぜ?」 「えっ、ほんと?」 「うん、なぁお前らどこいたの?」 椅子に逆向きに座り俺の方を向く山本から聞いた話に、俺は首を傾げた どこにいたかと尋ねる山本には少しな、と言葉を濁して誤魔化しておく 健、俺たちを探しに行ってくれていたのか…… もしかして入れ違いになったかもしれないし、何だか悪いことしちゃったな…………… 今日はお詫びに売店でゼリーでも買ってやろう そう思いながらしばらく健を待ってみるがなかなか戻って来ない 少しずつ積もっていく罪悪感や不安や心配が、だんだんと形になって俺の頬を汗となり流れる 「俺、ちょっと探してくる」 やっぱり俺たちを探してくれていたのにその健だけ戻って来ていないなんて申し訳なくて、俺は少し探しに行くことにした 椅子から立ち上がり、今度は俺ひとりで教室を出た 教室を出てさっき歩いたばかりの廊下を早足で歩く どこかの教室でお菓子に釣られていました、何てことであればいいが何だか嫌な予感がする 何か胸がもやもやするような、そんな妙な予感が 「なぁ、健見てない?」 「健?見てないけど?」 「そっか、ごめん、ありがと」 色んな生徒とすれ違いながらパタパタと歩く たまに他クラスの顔見知りの奴に聞いてみるも、首を横に振るばかりで誰も心当たりはなさそうだ 「健、どこに行っちゃったんだろ……」 むうむう唸りながら歩いていると、ついさっきまで保健室で一緒にいた網走先生と廊下ですれ違った 先生は俺に気付くとはっと嬉しそうな顔をする 俺に何を期待しているんだこの人は 「あら翔ちゃん!何を唸ってるの?」 「いや、ちょっと人探しを…………」 マジでこの人どこにでもいる……… と心の中でぼやき生ぬるい視線を向ける 俺がそう思っているのも知らずに目の前の黙っていればイケメンなこの人はきゃっきゃとさっきの保健室での俺たちのやり取りを詳しく聞こうとしてくる 「も、もう行っていいですか……」 「はいはい、あ、ちょっと待って」 「ぐぇっ」 少し嫌そうな顔をして先を急ごうとすると、先生が何かを思い出したように声を上げた そしてそろそろと逃げようとする俺の首根っこを捕まえ引き止める 「そう言えばさっきから保健室の近くで子供の泣き声が聞こえるの」 「泣き声…ですか?」 「うわーんって、ずっと聞こえてて心配だから見に行こうと思ってた所なんだけど」 「はぁ…………」 口元に手を当て首を傾げる先生 だが生憎俺には今はそんな子供の泣き声よりも健の方が心配で……… 「あっ」 その瞬間、俺はピンと閃いた そして俺は何も言わずに先生の前から立ち去ると、走って昇降口まで向かう 上履きからスニーカーに履き替え、村瀬と書かれた下駄箱の中を確認するとやっぱりそこに健のスニーカーはなく代わりにかかとの潰れた上履きが入れられている 恐らくその“子供”の泣き声は健のものだ そう俺の中の何かが直感した きっとどこかで足でも挫いて泣いているに違いない そう思い俺は先生に言われた保健室のちょうど真裏へ向かった 日の当たらない校舎の壁に沿って道を進む 足首のあたりまで伸びた雑草を踏みながら進むと、視線の先に小さめの人影を見つける 「健?」 「うぅ、っ………だれ……っ?」 その人影に近付き試しに声を掛けてみると、その小さなシルエットがゆっくりとこちらを向いた 俺はひくひくとえづいているように肩を震わせるその人物が健であると確信すると、その人物の方へと一直線に走った

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