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これでいい
しまった、と思った
健のことを次々に尋ねてしまったこと
完全に無意識だった
無意識のうちに気持ちが一人歩きして、結果輝に健への気持ちを見抜かれた
見抜かれると、後は取り繕うこともできなかった
少し遅くなってしまったが、家に着くなり湯船にお湯を張りに行き、それが終わるとリビングで慶磨の面倒を見てくれていた勇磨の服を脱がせ俺も一緒に服を脱いだ
そして慶磨も一緒に連れてまず男3人で風呂に入る
琴美は言わなくても自分で手を洗って服を着替えるし、歩美は大人しく宿題をしているようだ
「しずにぃのちんちんとおれのちんちんなんか違うね」
「お前も大きくなったらこんなになんだぞ」
「おれもしずにぃみたいにデカくなんの!?」
「おう」
オレのものを眺め、次男坊は目をキラキラと輝かせる
そんな弟に髪を洗うよう言うと、おりゃーと乱暴に洗い出す
うちの家では小学校に入ったら髪も体も自分で洗うのがルール
「に、にぃ」
「おう、おとなしくしてろよ」
俺に向かって小さな手を伸ばす慶磨を抱えたまま慣れた手つきで体を洗う
まだふわふわと柔らかい肌を傷付けぬよう、優しく優しく洗う
慶磨はつい最近、やっとにいにいが言えるようになった
勇磨が全身を洗い終わったのを確認するとお湯の張った湯船に導き30まで数字を数えさせる
勇磨が30まで数えられたのを確認すると、慶磨を渡して歩美と琴美を連れてくるように言う
俺の言うことに元気よく返事をしてびしょ濡れのまま風呂場を飛び出す弟
その所作に一々ハマっているヒーローっぽさを垣間見る
「おら勇磨、ケガすっから走んな」
「わかったー!」
という声が聞こえるが、バタバタとうるさい足音を聞いて俺の話を無視したのが丸分かりだ
しばらくすると歩美と琴美が服を脱いで風呂場に入ってきた
さっきと同じように歩美には自分で全身を洗わせ、琴美を小さな椅子に座らせて髪を洗う
「しずにーたん、ことみきょうほいくえんでね…」
「ん?」
「すきなこができたの!」
「そうか、好きってちゃんと言えたか?」
細い髪を洗い始めると、琴美は思い出したように話し始める
うふふ、と微笑み目を細める琴美もその話を静かに聞いている歩美もお袋によく似ている
「ううん……はずかしくてね、いえなかったぁ…」
「そうか………明日は言えるといいな」
「……うん!ことみがんばる!!」
「ことみ、もうアタックするのよ!」
「うん!ことみあたっくする!」
姉がアドバイスをするとそれに素直に頷く妹
そんな妹を揃って湯船に浸からせ、数をちゃんと数えられる歩美に30秒数えさせる
それを追いかけるようにたどたどしく数を数える琴美
そんな純粋な2人の姿を見ると、もっと胸が苦しくなる
幼い妹の小さな恋心
純粋でピュアで、まっしろだ
こんな俺の醜い恋心とは違う
健のことを想うだけで胸が苦しくなる
あいつが俺のこと好いてくれてんのは分かってる
でもあいつの“好き”と俺の“好き”は違う
健の気持ちを穢すなんて俺には出来ない
風呂から上がり妹たちの髪を乾かすと、今日は歩美のリクエストで餃子を手作りする
「しずにい!けいまがぐずってるぞ!」
「おう、歩美、琴美のこと見ててくれ」
「はーい!」
妹2人に手伝わせ餃子のタネを作っていると、末っ子の子守をしていた勇磨が俺を呼ぶ
そして座布団にころんと寝転び泣きそうになっている慶磨を抱き上げあやすと、すうすうと寝息を立てて眠る
そんな慶磨をすぐ隣の部屋の布団に寝かせ、勇磨も連れて餃子の製作に戻る
「しずにーたんみて!じょうずにできた!」
「おれのほうがうめえよー!」
「あゆみだもん!」
「こら、喧嘩すんじゃねえぞ」
タネを皮で包み、それぞれ個性の出た餃子を作る
それを手のひらに乗せて見せ合い、一生着かない勝負をお互いに挑み合う
そんな光景にくすりと笑うと俺をスタートに全員が笑い出し、狭い食卓に笑顔が溢れる
「しずにぃは誰が1番だとおもう!?」
「やっぱ兄ちゃんが1番うめえよ」
「うわ!しずにぃ大人げねー!」
わーっと文句を言う勇磨
だが俺のと自分のを見比べるとやっぱりうまいな、と感心したように頷く
元気で生意気な弟の
器用で物知りな妹の
人懐っこくて明るい妹の
甘えん坊の末っ子の
みんなの幸せが俺に掛かっている
こんな幸せに満ちた会話も、俺の行動ひとつで崩れちまうかもしんねぇ
俺は長男なんだ
長男の俺がしっかりしねえと、示しがつかねえ
俺にはこいつらがいればいい
これ以上多くを求めるなんて贅沢はだめだ
そう思うのに、心のどこかでまだ健とどうにかなりたいと思う自分がいる
輝と今日久しぶりに腹を割って話して、その気持ちに拍車が掛かった気がする
輝が、学校ではいつも張り付いたような笑顔をしていたあの輝が
やっと心から好きだと思える奴に出会えたと言って優しく笑ったんだ
本当は、死ぬほど羨ましいと思った
俺だってなれるもんなら、素直になりたいさ
だけど俺には生活が掛かってる
またお袋に倒れられちゃ、たまったもんじゃねえ
だから、これでいい
俺は、これでいい
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