次の日の朝 昨日はアキと放課後デートをしたあと、いつものように一緒に電車に乗って家まで送ってもらった 忘れられていた俺のアイスキャンディーは、アキから渡された頃にはすでにでろでろに溶けていて、結局家で固め直して歪な形の夜のデザートになった 「健、おはよ」 「う、うん、おはよ…」 「………どうした？元気ない？」 「う、ううん、大丈夫」 いつも通り教室の角の席に着くと、隣人の健は机に突っ伏して窓の外をぼーっと眺めていた そんな健に声を掛けてみると、明らかに元気がないのを無理矢理誤魔化しているような態度をとる 六条くんのことだろうか……… それとも他に何か、悩み事でもあるのかな……… そう思うが、実は健には特に深く詮索し辛い と言うのも、俺が落ち込んでいた時や遅れて登校した時、健は深く詮索しないでいてくれた あまり触れて欲しくないと思っていたことを察してくれたのか、いつも隣で変わらない姿を見せてくれた もし健の悩み事が触れて欲しくないことなら、出来れば健がしてくれていたのと同じように隣で見守っていたいと思っている 「ねえ翔……………」 「んっ！？ど、どした？」 するとそんな健がべったりと頬を机にくっ付けたまま、俺の方をじっと見つめて名前を呼ぶ 俺の考えていたことが見透かされたのかと思い一瞬驚くが、多分そうではないだろう 「…………ちょっと相談したいこと、あるの……」 「相談したいこと……？俺でいいの？」 「うん………あとで聞いてくれる……………？」 深く詮索するまいと思っていた 本当は深く聞かないでおこうと思ったし、部外者の俺は一線引いたところにいようと思った だけど健の方から俺に話を持ちかけた ならば答えは決まってる 「う、うん！もちろん！何でも言って」 「………ありがと………………あと…」 「うん？」 「………今日はお昼にチョコ、食べてもいい？」 机に頬をくっ付けてもにょもにょと口を動かす健に向かって、どんと来いという気持ちで頷いた まだ萎れた花のように背中を曲げもにょもにょと小さく口を動かす健 そんな健が、上目遣いをするように可愛らしく俺を見つめて尋ねてきた 明らかに調子を良くした可愛子ぶりっ子な問いかけに、俺は思わずぷすっと吹き出してしまう 「あはは！だめっ！」 「えー…なんでぇ………」 「んー、じゃあちょっとだけな？」 「本当！？わーい！」 いつもの調子を取り戻したようにガバッと体を起こしてバンザイをする健 そんな健の頬をうりうりと撫で回し、顎の下を猫のようにこしょこしょとくすぐる 健はきゃっきゃと笑い出し、すっかりいつもの様子に戻ったように感じる やっぱり健は明るく笑っている方が可愛い 暗い顔をしている健を見るのは、ちょっと辛い いつも健のおやつを取り上げてはやかましくお説教を食らわせているが、これでも健のことはとても可愛がっているつもりだ 転校初日、隣の席になった俺に仲良く声を掛けて懐いてくれた健には深い愛情のようなものを持っているつもり だから、俺に健の相談相手が務まるかは分からないが、健が笑顔になるための相談なら 誠心誠意応えようと人知れず誓った そして昼休み いつものようにアキも交えて3人での昼食 俺と健の机をくっ付け、それにアキが加わる 健に相談事があると言われてから、ずっと内心ドキドキしっぱなしだった俺 やっぱり俺ひとりじゃ頼りない気がして、アキにも言っていいかと聞くと元よりそのつもりだったらしい 少しショックを受けたとか、そんなんじゃないけど 「ほら、今日のおにぎりはしらすと高菜だぞ」 「んわあ！美味しそう〜」 「ほらアキも、お弁当」 「やったー！今日はなにかな…」 健に爆弾おにぎりを、アキにお弁当を渡す それを2人揃ってご機嫌な子供のように両手で受け取り顔を見合わせてにんまりと笑っている いつも2人は、おいしそうにご飯を食べる 全然似てない2人の似ているところ やっぱりアキも健も、笑っている姿の方がずっと好き 「あ……それで相談なんだけどね…」 「う、うん」 「翔、緊張しすぎじゃないか？」 「う、うるさい………ほら、健、言ってみ？」 するとおにぎりを食べながら真剣な面持ちになる健 ごくり、と唾を飲み込み箸を置いて健の方にしっかりと膝を向けるとアキが野次を飛ばしてくる そんなアキを肘でどついて健の顔を覗き込み、話を元に戻す た、健はどんな悩みが…………… もう一度唾を飲み込む こんなに人から相談を受けることに緊張するたちだったとは、自分でもびっくりだ でも真剣に聞かなきゃ、そう思い健の揺れる瞳をじっと見つめた 「2人は寂しい時って、どうしてる………？」 そして健が放った悩みのたね 健の小さな口から出たその小さなたねは、どこか不安そうに揺れて震えているように聞こえた