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ごめんね

放課後 ヒロくんに渡されたくしゃくしゃのメモに書かれた店の名前を検索して、その場所へと向かった 場所はいつも帰る路線の地下鉄に乗り、いつもよりたった1駅手前で降りた場所の入り組んだ路地のどこかのようだ 来たことのない細い通り 一見地味そうなのに、所々に隠れ家的におしゃれなカフェやケーキ屋さんがいくつか並んでいて思わず目を引くものも多い こんなに近く、だったんだ…………… 「えっと……そぉる………そぉる…」 店の名前を何度も確認しながらヒロくんに教えてもらったカフェを探す もしかしたらいないかもしれないけど、これは賭けのようなものだと心の保険をかけている 「そぉ………あ、ここかな…」 しばらくおしゃれな細い通りを歩いていると、ローマ字読みすると“れ そぉと”と読めるような綴りの店を見つける 昼休みにそう読み間違えたから覚えていた “le sort” そう書かれた木製の看板がぶら下げられたカフェ ちらりと中を覗いてみると、店内はシックな照明とアンティーク調の家具や小物が揃えられていてとてもおしゃれだ 「静ちゃん……いるかな…………」 小さく呟き目を凝らす すると店の中にひときわ目を引く真っ赤な髪 時折光が反射してキラリと輝く耳元 おれが探していた人物と特徴が一致する人がひとり その人物は白いシャツをクールに着こなして、その赤い髪をカチューシャでオールバックにしている そして湯気の出る白いシックなティーカップをお客さんに差し出すと、クールに去っていく 「静ちゃん…………」 おしごとしてる…………… 働いてる姿も大人っぽくてカッコいいな……… てきぱきと無駄のない動作 佇まいからクールでカッコよくて、思わず見惚れてしまう すると中にいる髪の長い女性の店員さんと目が合ってしまい、おれは瞬時に身を引いていちばん近くの電柱の後ろに隠れる お、女の人と目合っちゃった……… 何だか入り辛くなっちゃったな………… 「ここで待つくらい、いいよね………」 本当はお店の中にこっそりと潜入しようと思った だけど店員さんは少ないし、それに女の店員さんと目が合ってしまってますます入り辛くなってしまった 結局おれは静ちゃんが出てくるのを待つことにし、そっと電柱の裏に身を隠した それから約30分 次々と出て行くお客さんたちをおれは物影で見送る お店の側のボードを見ると、どうやら今から1時間閉店し、バーの開店準備をするとのこと 「静ちゃんもバーで働くのかな………」 ぽつりと口に出してしまうひとりごと おれが今身を隠していることを思い出して、とっさに口を両手で塞ぎ周りをきょろきょろ見回す するとその時だった 「あ……静ちゃん…………………」 カランカランとベルの音と共に扉が開き、中から待ち兼ねた男が出てくる その人物はぴっちりとしたTシャツに細身のパンツを着こなして硬い表情で扉を丁寧に閉めた 思わず口癖のように名前を呟いてしまうと、くるりとその顔がこちら向き目を細める 「健……………」 「あ、えっと…久しぶり……じゃないか…」 久しぶり呼ばれた名前 この間は“健”と言ってくれなかった 嬉しく感じるのと同時に妙な胸騒ぎと戸惑いもおれを襲って、どう接していいのか分からなくなってしまう 今までこんなに変に意識したことなんてなかったはずなのに、なぜだか今日は静ちゃんを見ると胸がドキドキと高鳴る 「何でお前、ここに…………」 「あの、ヒロくんが……教えてくれて…」 「……………そうか」 「それでおれ、終わるの待ってたの…」 伏せられた目 その瞳におれは映らない だけど、それでもいい 静ちゃんに会えた、それだけで嬉しい 静ちゃんの問いかけに素直に答え、その顔をちらりと見つめては目を逸らす だけど今日は話をしに来たんだ 静ちゃんのことがもっと知りたくて、いてもたってもいられなくなってここまで来た だから 「ね、ねえ静ちゃ……」 「っ……!」 「あっ…………………」 ほんの少しその手に触れるだけのつもりで手を伸ばした だけど気付くとおれの右手は宙を舞い、そしてじんわりとした痛みを含んでいる パチン、と短い音がおれの耳に響いて目が回る あ、だめだ…………… 泣いちゃいそうだ 静ちゃんに手を払われたこと それがあまりにもおれの心にショックを与えて、一瞬フリーズしてしまう だけど静ちゃんの気持ちを想像すると、途端に涙が溢れそうになる そりゃそうだよね…………… こんなところまで来て、迷惑に決まってる これじゃおれ、まるでストーカーだ 「ご、ごめんっ、おれ、やっぱり帰るね……っ」 そう言い捨てて駆け出した 呼び止めようとするような声が聞こえたが、これもきっとおれの都合のいい妄想だ それにこれ以上ここにいると、いよいよ泣いてしまう 静ちゃんにこれ以上迷惑は掛けられない 途中で段差に躓いて転んでしまう だけど打ち付けた膝の痛みよりも、叩かれた手の方がずっと痛い あと心も、ちょっと痛い ごめん ごめんね静ちゃん もう迷惑かけたり追いかけたりしないから 勝手に触ったりしないから 無理に引き留めたりもしないから だから これ以上嫌いにならないで

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