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“好きな人”?

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 パラパラと床に転がる白いプラスチックの破片 そして噛みしめるように空気を含んだ健の引き攣った呻き声 一瞬だけフリーズし、健の右の耳たぶを見るとそこには赤い小さな石が付いたピアスが中途半端に刺さっている それにじわりと滲む赤い血液 「おい!何やってんだよ!!」 「い、いたぁあい……………っ」 「だから待てって言ったろ!」 「だってぇええ………」 さっかのような威勢の良さは消えていて、また先ほどのようにぽろぽろと泣き出す健 その健の耳元を見ると、ノールックで開けたにしては上手い位置にピアスが刺さっている だが中途半端に刺さってしまっており、赤い飾りがかなり出っ張っている これ、少し押し込めねえとな………… 「こら!触んな!」 「あぅう〜〜〜……………」 「ここじゃ少し暗えから、向こう移動すんぞ」 不意にそこに触ろうとする健の手を掴んで阻止し、俺は健を椅子から立たせて抱き上げる 健はぐすぐすと鼻をすすりながら大人しく俺に抱えられ、俺のシャツをぐっと掴んでいる そしてライトの具合があまり良くない控え室から健を抱いたまま出ると、店のテーブル席の椅子に座らせる 「ちょっ、静磨くん誰その子!?」 「すんません、迷子っす」 「迷子!?」 「あは、めっちゃ普通に嘘吐くじゃん」 驚く店長に適当な嘘を吐く それに純粋に驚く髭面のオッサンと、それを嘘だと見破って鼻で笑う金髪女 そんな2人を無視して目の前の健の右耳に意識を集中させる俺 「おい、少し触るぞ」 「んっんっ………………」 「怖えならここ、掴んどけよ」 「んっんっ……………」 その赤い飾りが出っ張った右耳に、出来るだけ刺激を与えすぎないよう優しく触れる 健の右手を俺のシャツに導かせると、健は何度も頷いて俺のシャツの脇腹のあたりをぎゅっと強く掴む そんな風に俺のシャツを掴んでもらえることに、なぜだか嬉しく感じてしまう 何か俺の一世一代の告白は流れちまったが それでも今こうやって、日常とは違う景色を見ることが出来て内心嬉しく感じている 「ちょっとばかし痛えかもしんねえぞ」 「んっ………!」 「舌噛むんじゃねえぞ」 「んっんっ…………!」 健にそう言い聞かせて腰を少し曲げ、右耳のそれに親指を合わせる 健は俺の言うことに逐一頷き涙を滲ませている そして健の様子を見ながら俺は赤い飾りの付いたピアスをぐっ、と押し込んだ 「ひぃ……………っ!!」 健の口から漏れる、必死に痛みを噛み締めるような細い声 そしてその瞬間、またさっきのようにぽろぽろと大粒の涙を流して泣き出す 「いたあぁい〜〜〜〜っ」 「おう、よく頑張ったな」 「んっ…………!」 「ほら、ちゃんと着いてんぞ」 泣き喚く健の頭を一度そっと撫で、そしてスマホの内カメラを開き確認させる そこには輝く赤い小さな飾りが、しっかりと耳たぶに刺さってさらに美しく光っている それを見た健は、今度は頬を緩ませて嬉しそうに笑いながら俺を見上げる 「お前、何でこんなことした」 そんな健に問いかける そもそもまず突然すぎてそこから理解できねえし、注射も苦手だった健がそれよりも痛い針を自ら刺すなんてよっぽどの理由がなきゃ考えられない すると健が不意に俺の左手をぎゅっと握った 「………おれ、静ちゃんとおそろいがよかったの」 「おそろい?」 「ん………これ………………」 そしてぼそぼそと呟きながら赤いパーカーのポケットに手を入れて何かを取り出す それを握った俺の左の手のひらにちょこんと乗せる 俺の手のひらの上には赤いリボンが綺麗に掛けられた白く小さな箱 健がそのリボンを解き箱を開けると、中身はきらりと輝く黄色の宝石 「健、これ……………」 「エレナちゃんが、これを好きな人に贈るなら片方自分で持ってろって言うから………………」 「…………だから穴開けたのか?」 「ん………………」 そう言って頷く健 そのエレナちゃんとやらは分からねえが、それでも健がこれを着けたくて耳に穴を開けたことは理解した ……………………………ん? 待て、今“好きな人”って言わなかったか ここで生まれた新たな疑問 俺の聞き間違いじゃなければ健は今“好きな人に贈る”と言ったような気がする いやいや、何勘違いしてやがる こんなの俺の都合の良い聞き間違いに決まっている 危うく期待しちまうところだった 危ねえ危ねえ……… でも少し、確認するくらいなら………… 「……今お前、俺のこと好きって言ったか?」 「え………さっきから何度も言ってるじゃん…」 「………………はっ?」 「だからっ!おれずっと好きって言ってるの!」 恐る恐る確認をしてみる すると健はぽかんとした表情で頷き、そして次にはまたぷりぷりと怒り出す 今度は健の反応に俺がぽかんと口を開ける 今、本当に好きって………… 俺にとっちゃ夢のような言葉 これは都合の良い幻聴だろうか ついに俺の妄想が具現化され出したのだろうか 混乱した頭を必死に働かせる だがどうにも健が言っていることが事実とは到底理解出来なくてますます混乱してしまう 「あ…………?」 だがここで、俺はまたひとつ新たな疑問にぶつかった

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