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結ばれる想い
「…………先に告白したの、俺だぞ」
そう、さっきから健は何度も言ってるじゃんと半ギレ状態で俺を見上げているが
まずそもそも先に告白したのは俺だったはず
そしてそれを“拒絶”ではなくなぜか“否定”された
「違うよ!おれが先にしたの!」
「あ?違えって、俺が先だ」
「もうっ!まず静ちゃんおれのこと好きなわけ!?」
「だからずっとそう言ってんだろ」
俺の言葉に反発する健は何度もぶんぶんと首を横に振って全てを否定する
なぜか椅子に座った脚も一緒にばたつかせて、体全体で苛立ちを表現し出す
そこからまたデジャヴのような言い争いが始まってしまうが、俺もなぜだか後には引けない
この、分からず屋…………
俺が先に好きだって言ったっつってんだろうが
何度もそう言ってんのに、理解してもらえないどころか否定される始末
椅子に座ったまま俺を威嚇するように必死にガン飛ばしてくる健
その分からず屋加減にだんだんと腹が立ってきて、俺は思わずその白く丸い頬をガッと乱暴に掴んだ
「ちょっ、なにふんのはっ………」
「うるせえ、いい加減認めろ」
「んむっ………!」
そしてそのやかましい唇を、噛み付くように自分の唇で塞いだ
はじめて他人の唇に自分の唇が触れた
柔らかく小さいそれはしっとりと濡れていて、それでいて少し血の味がする
「ん…………っ」
数秒間触れ合った唇をゆっくりと離し、余韻に浸るように健の顔を見つめる
ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返す健の反応が可愛くて、もう一度唇を奪いたくなる
「………お前、さっき唇噛んだろ」
「へ……………………」
「血ィ垂れてんぞ」
「んぐっ」
そう言って健の下唇を親指で拭う
俺の唇に付いてしまった健の血液は、バレないように舌で舐め取る
やっちまった
はじめてのキス
こんな見た目でそんなこと気にしていると引かれるかもしれないが、それでも大事に取っておいたファーストキス
それを今、半ば強引に捧げた
「しず……ちゃん………………?」
「おい、よく聞いとけよ」
「はっ、はいっ」
健の左肩をぐっと掴むと、健を見下ろさないように膝を曲げてて視線を下げる
健は俺の威圧的な声にびくっと体を震わせて、なぜか敬礼しながらハリの良い声で返事をする
今度こそ、と思い一度すうっと息を吸った
今度こそ、ちゃんと伝わるように言う
もうここまで来たら当たって砕けろだ
なんて言って、実はもう少し期待しちまってる
もしかしたら健も同じ想いなんじゃねえかって、そう期待しちまってんだ
だから今度こそ、自信を持って言えるはずだ
勇磨、歩美、琴美、慶磨、そしてお袋
悪ィな
兄ちゃん、好きな人いんだよ
その人と結ばれようとしちまってんだ
だけど俺だけひとりで幸せになったりなんてしねえから、お前らも一緒に幸せにすっから
だから
「健、お前が好きだ」
今度はまっすぐ、健の目を見て告げた
するとすぐに、健の瞳からもう何度目だか分からない大粒の涙が流れ出す
その柔らかい頬に、今度は優しく触れて涙を拭う
俺の手に付いた涙はなぜだか温かくて柔らかくて、俺まで釣られてしまいそうになる
「ほ、んと………………?」
「ああ」
「うそじゃ、ない……………っ?」
「ああ、嘘じゃねえ」
「ほんと……っ?ほんとのほんと………っ?」
「ああ、本当の本当だ」
何度も尋ねてくる健の瞳をしっかりと見つめて頷く
健は俺のシャツの腕のあたりを、震えるその手でぎゅっと掴む
俺を見上げながら唇を震わせ涙を流す健
その愛しい頬にもう一度手を添わせると、今度はその手をぎゅっと握られた
「おれも……っ、すき……………っっ!」
気付いた頃には、俺の体が何か温かいものでぎゅっと包まれた後で
「おれもすきっ………!静ちゃんだいすきっっ!」
「っ…………ああ………」
それが健の腕だと分かると、俺もその小さな体をぎゅっと抱きしめ返した
頬を流し慣れない水が伝って、ぽたりと健の肩に落ちる
今まで耐えてきたものが、一気に溢れた涙
心の中に色んな気持ちが集まって、それが器に収まり切らなくなったんだ
好きでいることを辞めなくて、本当に良かった
3年以上も一方的に想い続けた気持ちが報われた
もう悩むことも
必死に取り繕うのも
お前への気持ちに葛藤することも
もう辞めちまっても、いいよな
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