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2回目のふぁーすときっす

それから店の開店時間である9時になるまで、健と控え室で照れ照れしていた すると不意に扉が開き、梓さんがにゅっと顔を出す 「静坊、今日あんた休みだって」 「はっ?」 「店長が惚気た顔の静坊キモいから帰れって」 「す、すんません…………」 細い隙間から顔だけを出してそう言う梓さん 店長がそう言ったと言っているが、実際は俺に気を使ってくれたのだろう そんな優しさに、今日くらいは甘えたくて俺は大人しく謝る てか俺そんなに惚気たキモい顔してんのか…… 「その子、土日も来てたよねー?」 「えっ……ば、ばれてる………っ」 「めっちゃ目合ったじゃん」 「あ、う……………えへへ………」 そこで新事実 どうやら梓さんの話によると、健は土曜も日曜も俺に会うためにここに来ていたらしい ドアの隙間から白い手が伸びてきて健の髪をうりうりと撫でると、健は照れたように頬を染める そんな梓さんの手をぺっと健の頭から振り払い、梓さんを追い出して再び扉を閉める くそ………何度も会いに来てくれていたなんて ますます惚気ちまいそうだ………… 「静ちゃん、あのね……………」 「あ?どうした」 「おれね、さっきのね…………」 「?」 大人しく着替えようとワイシャツのボタンをぷちぷちと外し始める そして俺が上半身裸になった所で、隣の健がもじもじとしながら何かを訴えてくる 「ふぁーすときっす、だったの………っ」 「………………あ、あぁ、悪ィ」 「もーっ、ちがくて!」 「あ?何だ、はっきり言え」 健の謎の告白に、一応誤って首を傾げると今度はぶんぶんと顔を横に振り何かを否定してくる こいつのこの一言足りない支離滅裂な感じは、未だに理解できない部分が多い ふぁーすときっす、って…………… そんな健を急かすように問い詰めると、もじもじと指を絡ませて恥ずかしそうに顔を赤らめる 「んっ!」 すると健が不意に顔を上げ、んっと唇を突き出して目を閉じた 「はじめてだったのに急にされたから感触覚えてないの!だからもっかいしてっ!」 そしてそう言って、もう一度んっと唇を突き出しキスを求めてくるのだ そんな健の大胆ともいえる要求に、半裸の俺は思わずよろけて皮膚が首まで真っ赤に染まる 健の可愛らしいキス顔に視線を寄越すと、ますます顔が熱くなる 「はやくっ………………んッ」 再び急かしてくる健の腕を掴んで引き寄せ、健の要求通り俺からむちゅっと唇を塞いだ 二度目のキス 今度はさっきより長く 少しだけ口を離すと、今度は角度を変えてもう一度だけ唇を重ねる 「ぷはっ…………」 「……………………これで満足か」 「う………あといっかいだけ………だめ?」 「っ……………」 唇を離して機嫌を伺うと、まだ足りないような素振りを見せそして上目遣いで三度目の要求 な、何なんだあの可愛い顔は………… 「んむっ……………」 その可愛さにいよいよ悶絶して転げ回ってしまいそうだが、それでもあくまで平然を装う そして今度は健を壁に追いやって、壁に押しつけて唇を塞いだ 再び触れる柔らかい唇 その唇が美味そうで、思わず食っちまいそうだ まずそもそもキスなんてはじめてしたが、やり方はこれで合っているのだろうかと今になって不安になる 今度輝に会ったら確認してみよう、あいつならやり慣れてるはずだ それから店長と梓さんに詫びを入れ、健と共に店を出る ガランガランと鳴り響くベルに見送られ、健と同じ方角に向かって並んで歩く 「お前今日学校だろ、今から行くか?」 「んー………今日はおれ、悪い子なので!」 「サボるのか」 「うん!今日は静ちゃんと一緒にいるの!」 「そうか」 隣に並んだはじめての恋人 俺よりも頭ひとつ分以上も小さくそいつは、悪い顔をしてクスクスと笑う どうやら今日は悪い子の日らしい 学校をサボると自信満々に言う健との時間 せっかく少し時間もできたので、この時間は有意義に使うべきだろう 「健、今からうち来るか?」 「いいの!?行くっ!」 「夕方保育園に迎え行くが、一緒に来るか?」 「うんっ!行くっ!!」 ひとつ注意しておくが、家に誘ったからと言って決していやらしいことをするわけではない そりゃ下心もなくはないが、俺たちは俺たちのペースでゆっくりと進んでいけたらいいと思っている 「健、今日、晩飯食ってくか」 「……………………うんっ!」 なんせ俺たちには、まだまだ時間がある この先何十年もあるはずた そのつもりで、俺はいる だから ゆっくりゆっくり、俺たちの時間を進もう

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