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明日も明後日もその次も

それから健と、夕方に琴美と慶磨の迎えに出るまでうちで一緒に過ごした 「うふふ、楽しいね」 「そうか」 健は狭いうちでも瞳を輝かせて喜び、家事やお袋の内職を俺と一緒に手伝ってくれた 器用な健が手伝ってくれたおかげで、溜まっていた内職も全て片付いてしまった 昼は、昔よく親父と行っていたラーメン屋に連れて行った 猫舌らしい健は、何度もフーフーと息を吹き掛けながらにこにこ笑ってラーメンを啜っていた そんな姿が可愛くて思わず見惚れてしまい、結果俺の方が遅く食べ終わってしまった そして夕方 場所は琴美と慶磨が通う保育園 「しずにーたん!」 「おう、今日もいい子にしてたか」 「うんっ!ことみ今日うさぎさんした!」 「そうか、よかったな」 俺の姿を見つけるとすぐに駆け寄って抱きついてくる下の妹 そんな幼い妹をぎゅっと抱き上げて同じ目線で話を聞くと、どうやら今日はうさぎさんらしい 琴美を地面に下ろすとぴょんぴょんと飛び跳ねながら荷物を取りに行く 「静磨くん、今日もお疲れ様」 「っす」 「うふふ、慶磨くんね今ごきげんなのよ」 「にっに、にに、にぃにっ」 ミカ先生抱かれた慶磨が言われた通りごきげんな様子で俺に手を伸ばす そんな末の弟を抱き上げると、拙いが何か嬉しさを訴えるようにきゃっきゃとはしゃいでいる 弟の頬にぐりぐりと顔を押し付けてチューをすると、くすぐったそうに笑って手を叩く 「また明日、よろしくお願いします」 「はい!琴美ちゃん慶磨くんまたね!」 「せんせえさようなら!」 「あぅ〜っ!」 そして先生にお辞儀をすると、俺の真似をして琴美もしっかりと頭を下げる これは早いうちから兄弟全員に、お袋の意思で教えた 慶磨はにこにこ笑って先生に手を振り、そしてそんな弟と妹を連れて園の外で待つ健の元へ向かった 門の前でゆらゆらと揺れながらどこかそわそわとしている健 そんな健の元へ初対面のちびっ子たちを連れて向かうと、それに気付いた健は目を輝かせ、それと同時に琴美も目をキラキラとさせる 「おにーたんだれっ!」 「こら琴美、ちゃんと挨拶しろ」 「あ……こ、こんにちわ……」 「こ、こんにちは!おれ健っていうの!」 「たけるくん?ことみ、ことみっていうの!」 琴美に挨拶をさせると、健はしゃがんで目線の高さを合わせて握手を求める それにまた嬉しそうに笑った琴美が応じ、にこにこと笑って小さな手でぎゅっと健の手を握りぶんぶんと握手をする 「琴美ちゃん、仲良くしてくれる?」 「うん!ことみなかよくするよ!」 「わーい!ありがとう!」 「たけるくん、おててつなご!」 心底嬉しそうな健の横顔 幼げな健も琴美と比べると大人っぽく見える 人見知りしない琴美はすぐに健と打ち解け、ぎゅっと手を繋いで走り出す うちと逆方向に走っていく2人を呼び止めると、似たような笑顔でえへへと照れたように笑う まるで、健も俺の家族になったみたいな光景 そんな光景に思わず頬を緩めると、視線が重なった健も嬉しそうに微笑んだ それから健を連れてうちに帰り、一緒に晩飯にした 今日はせっかくだからと思い大きなホットプレートでお好み焼きを焼くと、ちびっ子に混じって健もガッついていて面白かった 勇磨も歩美も、うちの子供は全員人見知りをしないおかげですぐに健を受け入れた 琴美に至ってはずっと健にくっ付いたまま、どこに行くにも健の後ろをちょこちょこと付いて回っていた そして夜、弟たちに留守番をさせて健を家まで送る 「ふふ、夢みたい」 「…………そうか」 「ね、手繋いでもいい…………?」 「……………………ああ」 2人きりの帰り道 うちから徒歩で行けるほど近くに住んでいたとは思わず、少し拍子抜けしてしまう 昔から健は家庭のことをあまり語らなかったから、知らないことも多い 俺と比べると小さい健の手をぎゅっと握り歩く暗い夜道 柔らかい肌が気持ちいいと思っていると健は俺の手が硬くてゴツゴツしている、と言って笑った 「あ、おれの家、ここだよ!」 健の家はうちから徒歩で15分ほどのところにある結構大きな一戸建てだった 琴美がお城と呼んではしゃぎそうな洋風の家 だが明かりが点いておらず、しんと暗い空気を醸し出す家には誰もいないようだ 「……………じゃあ、またな」 「…うん、ありがと、気をつけてね!」 「ああ」 そんな家の玄関まで健を送り、髪を優しく撫でて言う 少しだけ寂しそうな顔をする健 本当はもっと一緒にいてやりたいが、家に子供を置いてきてしまった手前そうにもいかない 名残惜しく思いながらも背を向けて歩き出す するとパタパタと駆けるような軽い足音と共に、俺の背中にずしっと何かが突進してきた くるっと体をひねって後ろを見ると、健が俺に抱きついている 「…………どうかしたか」 出来るだけ威圧感を感じさせないように優しくそう尋ねると、月明かりに照らされた健は顔を上げうるうるとした瞳で見つめてくる 「……あのね、明日も会いたいの………」 健に抱き付かれたままぐるりと体を健の方に向ける そして健の背中に腕を回して抱き返してやると、顔を胸のあたりにすり寄せて来る 「明日も明後日も、その次も会いたいよ………」 切ない声でそう言う健の頭を撫でた 「…………ああ、心配すんな」 ずっと寂しい思いをさせて来た 俺自身も、葛藤を感じながら生きていた だけどそれを打ち破るきっかけをもらったんだ だから俺は…………………

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