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親衛隊

「あのさ、高村くん最近輝くんとよく一緒にいるよね?」 「へ………あ、う、うん……?」 「やっぱり」 「えっと……な、なに?」 知らない女子にそう尋ねられ、俺はよく分からないまま肯いてしまう するとはぁ、とあからさまにため息を吐かれ、そして怪訝そうな瞳で俺を睨む な、なに…………てか誰…………っ 明らかに異様な雰囲気 ちらりと女子の影から教室を見渡すと、俺周辺の様子が変なことに気付いて目を逸らす人もちらほらいる それに山本や他の男子も、どこか不愉快そうな顔をしてこちらを見つめていた すると急に、女子のひとりがバンッと机を叩いた その衝撃で弁当箱が床に落ちてしまい、食べかけのおかずもろとも地面の餌となる 「あ、あの……………」 「何でいつも輝くんと一緒にいるの?」 「え…………」 「あんたがいつも隣にいるからさ、私たち輝くんと全然話せないんだよね」 そしてきつめの口調で浴びせられる、俺に向けられた尖った言葉 それを聞いてやっとピンときた 前に、アキと仲良くしていたりアキと長い時間一緒にいたりすると所謂“親衛隊”と呼ばれるファンの中でもトップの女子から釘を刺されるということに 健や山本もそのひとりであり、そのせいでアキはいつも特定の誰かと一緒にいるのを避けていた 覚悟はしていた、俺がその対象になることも だけど俺はそんなの気にしないって言ったもんな だからここで怯んじゃ、だめな気がするんだ 「お、俺がいても話しかけることは出来るだろ…?」 「はぁ?」 「い、いや、だからさ………」 「あんたが輝くん独占するから悪いんでしょ?」 威圧的な態度に負けじと立ち向かった だけど横柄とも取れる理不尽な切り返しで俺の意見は突っぱねられ、完全に劣勢だ 相手は女子なのに、俺男なのに それなのにこの人たちが怖くてだんだんと顔が青ざめてくる それに今までアキを縛っていた人たちの本性がこんなものだったと身を持って知り、ますます血の気が引いていく 「輝くんはみんなのものなんだよね」 だがその言葉を聞いた時、血の気が引いて真っ白になっていた俺の体に今度は一気に血が昇った そして必死にリーダー格であろう真ん中の女子をキッと睨み付ける “みんな”の“輝くん”なんかじゃない “俺”の“アキ”だ そんな思いが俺の中でふつふつと湧き上がる あんな言葉を浴びせられ、死ぬほど悔しくて涙が出そうになる だけど負けたくなかった アキとの時間を、こんな形で他人に奪われるなんて専ら御免だ そんな気持ちでぐっと抵抗するように唇を噛みそいつらを睨み上げた 「何その目、生意気なんだけど」 「何で分からないわけ?」 「輝くんが戻ってくる前にちょっとやっちゃう?」 ざわざわ騒がしくなり、教室中が妙な雰囲気だ だけど誰も、助けてなんてくれない だけどそれでも、俺は負けじとそいつらを睨み続けた またアキがあんな風に連れ回されて自由を奪われるくらいなら そう思った時だった 「何してるんだ?」 女子の真後ろから聞こえる、低い声 だけどいつもは優しく穏やかな声色が、どこか威圧的に聞こえた 顔を上げると、そこには女子より頭ひとつ分以上も大きな男がひとり だが優しいはずのその男からは、どこか異様な雰囲気が醸し出されている 「あっ、輝くんっ…!」 「ち、ちがうの、私たちね……!」 「ち、ちょっと用事がね………っ!」 すると途端に声色を変えてアキに媚びはじめる女子 あからさまな態度の急変に、クラスにいた同級生たちも顔をしかめてため息を吐く 俺は張り詰めていた緊張感が解けずに、未だにビクビクと震えが止まらない 「だからその用事って、何?」 すると聞こえた、更に低く黒い声 俺に背を向けた女子たちは、同時にビクっと肩を震わせて震え始める そしてその後ろで座っている俺もまた、その女子たちと同時に肩を震わせた アキの一見微笑んだ顔 だけど目だけは、真っ黒で光すらもない アキのこんな顔、見たことなかった いつも明るくて優しくて、懐柔された大型犬のようににこにこ笑っていたアキの顔 そんな顔も忘れてしまうほどに、怖かった 「ごっ、ごめんなさいっ………!」 女子たちが慌ててその場から立ち去り教室を出て行く 俺とアキとの間の分厚い壁ときつい香水の香りがなくなって、俺の好きなアキの匂いがする アキは女子の方を見向きもせずにただ棒立ちで、ぽつんと立ち尽くしている 「ア、アキ………………?」 「翔っ、大丈夫だったかっ!?」 するとアキの態度も一変 瞳にはいつものような輝きが戻り、そして俺を心配するようにぐっと詰め寄ってくる そして床に落ちた俺の弁当箱を拾い上げ、少し悲しそうに眉を下げた 「ア、アキ…………っ」 いつも通りのアキを見て、急に涙が浮かんできた きっと張り詰めていた緊張が解けたこと 無理矢理抵抗したけど、本当は思っていた以上に辛かったこと そして何より、アキが元に戻って安堵したこと そのどれもが俺に涙を滲ませたんだと思う するとそれに気付いたアキがとっさに俺の腕を掴んだ そして床に落ちたおかずもそのままにして、俺を引っ張り立ち上がらせる 抵抗する気なんてなかった俺はそのままアキに引かれて教室を出た

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