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デートの約束
「あーさっぱりした」
「アキ、シャンプー変えた?」
「あぁうん、こっちのが安くてさ」
「ふぅん」
俺は今、アキと一緒に乳白色のお湯の中
この間のようにアキの脚の間に座り、学校1の人気者であるイケメン男を背もたれにして寛ぐ
先程の情事で見事に体力が尽きヘタっていた俺の髪や体は全てアキが洗ってくれた
いつもと違うシャンプーの香り
どうやら別のものに変えたらしいそれは、前より俺好みな香りだ
「んふふ、エッチ気持ちよかった?」
「……………べつに、ふつう」
「えー?…………本当は?」
「……………………きもちかった…」
後ろからご機嫌な様子でそう尋ねてくるアキ
一度はそっけない返事をするものの、聞き返されて結局本音を伝える
するとアキはやったー!と声を響かせ俺をぎゅーっと強くバックハグする
アキとのエッチ
今日は俺のための、アキとのエッチ
こう言うことって、もっと体力や色々なものを削って疲れ果てるスポーツみたいなものだと思ってた
ただお互いの欲を満たし愛を伝え合うだけのものだと、そう思っていた
だけど今日のは、少し違った
心が疲れた俺を、アキが癒してくれた
疲れた心はアキにたっぷりと愛情を注がれてすっかり元どおり
むしろ元より愛の量をオマケされて、ちょっと容量オーバーかもしれない
「………………アキは………?」
「ん?」
「アキはエッチ……気持ちよかった………?」
「そりゃもう!すっげえ良かった!!」
「………………………そっか」
「ん!また次もシような!」
今度はアキに同じ質問を聞き返す
俺はもちろん気持ちよかったが、もしかしたら俺は自分本意なセックスをしてなかっただろうかと多少の不安を抱く
だけど俺のそんな不安も無駄なだけ
アキはぶんっと首を縦に振り、またしような、と明るい声色でそう言う
また、次があるんだ……………
また抱いてもらえるんだ……………
次っていつかな……明日かな……………
アキからもらえた“次”の言葉に、俺は人知れずワクワクしてしまう
またあんな風に2人だけの甘い時間を過ごせることに、心が勝手に踊る
乳白色に濁ったお湯の中で足の指をうにうにと踊らせてもアキには見えないのでセーフだ
「な、翔」
「ん」
「明日さ、デートしよっか」
「で、デート……っ!?」
するとアキからの唐突な提案
思いもよらなかったその横文字に、俺の口から間抜けな声が漏れる
そして恐る恐るアキの顔を確かめるために体を後ろに捻ると、そのイケメンフェイスは犬のようににんまりと笑っている
デート……………
何だかカップルみたいだ……
って一応俺たちもカップルだった
「まだちゃんとしたデートはしたことないだろ?」
「た、確かに………」
「だからさ!明日はデートしよ!」
「う、うん…………………」
くるりと振り返った俺の頬にちゅっちゅと小刻みなキスを何度も食らわせるアキ
どうやら俺にノーという選択肢を選ばせる気は無いようだ
まあもちろんノーなんて言わないんだけどさ…
俺はあくまでしぶしぶ、という体で頷いた
別に俺が超超楽しみで本当は心の中でソワソワしているなんてことは決してないのです、決して
「本当はな、1ヶ月の記念日の日にデートに誘うつもりだったんだぜ」
「えっ」
「でも色々あったからさ、明日行こうぜ!な!」
「う、うん」
ここで俺の知らなかった新事実
どうやらアキは、あの時俺と言い争いにならなければ1ヶ月の記念日に俺をデートに連れ出すつもりだったらしい
そしてこれは後から聞いた話だか、デートをした日の夜に俺を抱こうと作戦を練っていたそうだ
それを聞いて何だか申し訳なくなる
だけど過ぎてしまったものは仕方がない
だったら俺は、明日の初デートを最高の思い出に出来るよう努力しようと心に誓う
「な、どこ行こっか」
「あ、俺まだよく分かんない………」
「そっか!そうだよな!じゃあオレが考えとく!」
「ん、ありがと…」
だんだんと眠気が襲ってくる
まだ寝る時間としては早いが、大きな疲労感を一度背負った俺の体は素直に眠気を感じているようだ
とろんと蕩けた声になりまぶたが降りてきたことをアキが察し、まだ寝るなーとほっぺたをぺちぺちされる
「こら、もう少し我慢しろーっ」
「ん………………」
「そろそろ上がる?」
「ん………だっこ……………」
後ろからうりうりと頭を擦り付けられる
真っ黒い髪が首筋をくすぐって、ぼんやりとまぶたを開け辛うじて起きる
そしてアキに腕を差し出して抱っこを要求し、今度は脱衣所まで運んでもらう
あぁ、今日はこんなにアキに甘えちゃった………
俺のお尻重いのに、嫌な顔ひとつせずにこんなに軽々持ち上げちゃって
アキは本当に優しくて力持ちなんだなあ………
「んん………アキが拭いて…………」
「はーい、バンザイしてくださーい」
「ん………」
「わーお兄さん、すべすべですね」
脱衣所でもアキに甘えて体を拭いてもらう
マグロ状態の俺はアキの指示に従い腕をやんわりと上げ、そしてアキに優しくタオルドライされるのみ
うとうととする意識の中でも、アキの優しさが身に染みる
たまにまたセクハラのようにお尻を揉まれたりするが、俺のお世話料と言うことで好きにさせておこう
「アキ…………すき…………………」
「はは、なに急に、嬉しいけど」
「言いたかっただけ……………」
「ん、ありがと、オレも好きだよ…」
しゃがんだアキに足を拭いてもらっている最中
何だか急にそう言いたくなって、ぽろりと口から自然と溢れた
俺を見上げながらにっこりと笑うアキ
やっぱりこの笑顔は俺だけのものだ、と
改めてそう思った1日だった
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