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デートの準備は余裕を持って

次の日の朝 目を覚ますと時刻は午前8時過ぎ 「じゃ、昼に迎えに行くな」 「ん、分かった」 「じゃああとでな」 アキに見送られて一時帰宅する 本来ならばアキの家からそのまま出掛けたい所だが、生憎俺の制服は昨日のせいでぐちゃぐちゃだし、アキに私服を借りようにもサイズが合わない なので俺は一度帰宅をして、お昼頃アキに家まで迎えに来てもらうことにしたのだ エントランスまで見送られ、アキに手を振って自宅への道を歩く 「あいててて…………」 昨日の情事のせいでまだ少しバランスが取り辛い体 そんな体を脚で支えてよろよろと歩くと、変な歩き方になってすれ違う人に妙な視線を送られた 「お、朝帰りくん、おかえり」 家に着くとタンクトップにショートパンツ姿で豪快に食パンをかじる姉ちゃんに出迎えられた 父さんはもう仕事に行っていて、母さんもパートに出掛けているようだ 「変な名前で呼ぶなよ………」 「朝帰りなんて、やらし〜子」 「なっ、何もしてないって……」 「ふらふらしちゃって、何言ってんだか」 小さめの口を大きく開いてチーズの乗った食パンを口に含みながらからかってくる姉 どうやら俺のことは何でもお見通しな様子の姉 だがこれ以上変に言い訳をしたら自ら墓穴を掘りそうなので、もう何も言わないのが一番賢明だ 「ケチャップ」 「……………はい」 俺は冷蔵庫からケチャップを取れと命令する姉ちゃんにケチャップを渡すと、これ以上余計な詮索をされないように早足で自室へと向かった 「でぇと……………」 小さく呟きどさっとカバンを床に下ろす そして力が抜けたようにベットにぽよんと腰掛けると、脳内の俺がバタバタと走り回って騒ぎ出す デ、デートだって…………! どうしよう、俺デートなんて行ったことないし それにどんな服を着て行けばいいかも分からない やっぱり普段着ているものでいいのかな それともちょっとジャケットなんか着たりして、おしゃれした方がカッコいいのかな それとももっと渋く、ダンディに決めちゃう? 「うああああああああああ」 いつの間にか立ち上がっていた俺は狭い部屋をバタバタと走り回り喚く 下からうるさいぞ、と姉ちゃんの怒鳴り声が聞こえてきてピタリと足を止める 「と、とりあえず服………」 まずはファッションチェックからだと思い、クローゼットを開ける だが中には白や黒、それに紺色の地味なTシャツ そしてなぜか姉ちゃんが旅行に行くたびにお土産として買ってくる当地Tシャツの山 「大阪、沖縄………北海道……韓国…………」 それを広げてはぽいっと床に投げ捨て、次を広げる だがどれも絶妙にダサく、特に北海道のご当地Tシャツなんか胸のあたりに大きく“ジンギスカン”と書かれている それにタンスの下の段を開けても似たような細身のジーンズばかりで汎用性のかけらもない 「ああああああああああ…………」 結局手に握ったTシャツを全てぽいぽいと放り投げてベッドにダイブする うう、だめだ デート前からもう詰みだ 俺はきっと、ダサいご当地Tシャツでデートの空気をぶち壊すんだ 「あ、いたたたたたた…………」 起き上がろうとすると昨日のアキとの行為で痛めた腰がピキピキと痛む ふと浮かんだ昨日の意地悪でセクシーな表情になぜだかイラついて、心の中でアキにケツバットを食らわせる フツメンの俺と違って何を着ても似合ってしまうアキに今の俺の悩みなんてわかるまい… なんて無意味な八つ当たりをしてはまたベッドに力なく倒れ込んだ 「翔!翔ってば!起きな!」 ゴッ!と強烈な一発で目を覚ます 目を開けるとそこにはやたらと乳のでかい金髪女 その女にぶたれた後頭部を自分の手でさすりながら体を起こす 「も〜……痛いって…………なんだよぉ」 「輝、迎えに来てんだけど」 「へ………なんでアキが…………」 まだぼんやりとする頭 だがごしごしと目を擦り何度か瞬きをしているうちに、今日が何の日だったのかを思い出す 「あーーーーーーーーーっっ!!!!」 事の重大さを思い出した俺は慌ててベッドから立ち上がった 自分のものとは思えない声量で叫ぶと、近くに立っていた姉ちゃんが顔をしかめて耳を塞ぐ 「なんで起こしてくんなかったんだよ!!」 「は、そんなの知らないんだけど」 「今何時!?」 「11時50分だけど?」 マジか…………! やっちゃった、俺いつの間にか寝落ちして………! アキとは12時に約束している それなのにもう10分前だなんて、ついてないにも程がある バタバタと部屋を走り回るも焦りすぎて何から手を付ければ良いのやらさっぱり分からない わあわあと半泣き状態で喚いていると、隣にいた姉ちゃんが呆れたように部屋に散らばったTシャツとパンツを1枚ずつ拾い上げる 「ど、どおしよおおお………っ」 「もう、とりあえず早くこれ着な」 「で、でも地味だよお………」 「シンプルって言うの!いいから着ろ!」 姉ちゃんに渡されたのは胸にポケットの付いた真っ白のTシャツに色の濃いスキニーパンツ 地味じゃないかと問うと、口答えするなと今度はお尻に強烈なキックを食らう 「カバンはこれ、靴はあんたのお気に入りの水色のスニーカー」 そしてそれだけ言うと、姉ちゃんはバタンと勢いよく扉を閉めて俺の部屋から出て行ってしまった 勢いよく閉じられた扉から吹く風が、俺の前髪をはらりと揺らす 一瞬の出来事で何が何だか状況を理解するのに数秒の時間が掛かったが、ふと我に返り俺は慌てて姉ちゃんに渡された服に着替え始めた

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