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ペアルック

指定された黒いショルダーバッグを肩から提げ1階に降りると、リビングのソファに座ってアキと姉ちゃんが楽しそうに談笑している アキは時折恥ずかしそうに頬を染めながら、どこか可愛い笑顔で姉にぺこぺこと頭を下げている 下品でだらしない格好のままお客様の前に出ている姉にはもう突っ込まない これはいつものことなのだ 「あ、翔、おはよう〜」 姉ちゃんにじっとりと視線を送っていると俺に気付いたアキがソファから立ち上がってゆるく手を振って言った にこにこと浮かべられる表情にじわじわと罪悪感が湧いてくる 「ご、ごめんアキ、俺寝ちゃってて……」 「ううん、昨日は疲れたもんな」 「う…………ごめん……」 「いーの、みさきさんとも話せたし」 アキに駆け寄るとアキは優しく微笑む そして俺の右のほっぺたにその大きな手の甲を沿わせてするすると撫でながらくくっと小さく笑った 「シーツの跡くっきり」 「えっ!?」 アキの手が添えられた右頬に自分の手を持っていくと、確かに所々ガタガタとシーツの跡が付いている ぽかんと口を開ける俺を見て、またアキがくすくすと笑いを堪えている 「こらー、あたしのこと忘れてるでしょ」 「あっ…!」 「あはは、すんませーんっ」 「いーのよ、若いっていいわね」 完全に俺たち2人だけの空気になってしまっていることをソファにのけぞった姉に指摘さてれしまい、途端に顔が赤くなる アキが悪びれもなく明るく謝ると、大して年齢の変わらない姉はアキに対しては穏やかに振る舞っている 「とりあえず顔洗っておいで、な?」 「わっ、わかってる!」 そう言われて俺はその場から逃げるように小走りで洗面所に向かい、冷たい水でパシャパシャと顔を洗った ついでにさっき寝たおかげでついた寝癖も直した 顔を拭いて洗面所から出ると、玄関でアキが靴を履いて待っていた アキが俺に気付くと、また爽やかに笑ってみせる 「ほら、行こうぜ」 「う、うん!い…行ってきます」 「ん、行ってらっしゃい、輝、翔をよろしくね」 「はいっ!行って参ります!」 そして玄関まで見送ってくれる姉ちゃんに行ってきますをし、お気に入りの水色のスニーカーを履いて俺はアキと共に初デートに出掛けた 晴れた空の中、照りつける太陽の下で信号が青に変わるのを並んで待つ 俺の隣でまっすぐ前を向いて信号待ちをする背の高い男をちらりと覗き見る Vネック襟の白いTシャツに色の濃いジーンズ 手首には大きめの黒くてゴツい腕時計だけ 一見シンプルなのにアキが着ると無駄にカッコよくて思わず見惚れてしまう それに首筋には昨晩俺が付けた不細工なキスマーク そんな不格好なキスマークが、爽やかなアキに色っぽさをプラスする 「ん?どうかしたか?」 「いっ!いや!?べつにっ」 「そうか?」 「う、うん…………っ」 アキが俺の視線に気付いたのかキョロっと俺の方を見て言った なんだか恥ずかしくて思わず顔を背けてしまう アキはカバンを持つのはどうやらあまり好きではないらしく、荷物はスマホと財布をポケットに入れて持っているだけ ミニマリストなんだなあなんて意外で新しい一面も知れた気がした 「オレらの格好、なんかペアルックみたいだな!」 するとアキが俺に向かって明るくさっきよりも少し大きな声で言った アキから放たれた聴き慣れないワードに俺は思わず耳を疑ってしまう ペ、ペアルック…………!?!? 恐る恐る自分の服装を見ると真っ白いTシャツにジーンズのパンツ ショルダーバックこそ身につけているが、一見すると服装はほぼ同じに近い ほ、本当だ………! 全然気にしてなかったけど、これって周りの人から見たら完全にペアルックだよな……!!! 「お、俺、着替えてくる!!」 「ちょっ、翔、だーめ」 「うわっ」 さすがにこれは恥ずかしいのではと思い、俺はくるりと180度回転し家に逆戻りしようとした それを俺が歩き出す前にアキに腕を掴まれて、ぐっと連れ戻されてしまう 「このままでいいだろ?」 「だ、だって…………恥ずかしいじゃんか……」 アキから目を逸らす 人通りは少ないが日差しの強い道端で、ジリジリと太陽に焦がれながらアキの強い瞳に見つめられる アキに見つめられてる場所や掴まれてる腕が焦げてしまいそう 「オレと一緒はやだ?」 「そ、そうじゃないけど………」 「じゃあこのままがいいな」 にこっと爽やかな笑顔を向けられる 弾けるような、爽やかな笑顔 まるでサイダーみたいな、炭酸みたいな爽快な笑顔は 俺の意思を鈍らせる 結局折れてしまった俺は、アキに腕を握られたまままたぐるっと180度方向転換してもう直ぐ青に変わりそうな信号を待った 行き先はアキが考えてくれるそうなので、俺は詳しく知らないままアキについて行く アキによると電車で数駅先のところにある、所謂“繁華街”呼ばれる場所に連れて行ってくれるらしい 「やっぱいつでも電車は人多いな」 「うわ………暑そう………………」 駅のホーム 目の前のいつもと変わらぬ人混みに、俺の首筋を汗がたらりと流れ落ちていく だがこれからこの人混みに飛び込まなければならないと思うと、今度は冷や汗が伝ってくる アキも首筋から胸元にかけて流れる汗を腕で拭っている というかその服、胸のところ開きすぎじゃないかと思うのは俺だけだろうか 何だかすごくエッチだし、首筋を彩るキスマークも相まって色気が倍増されている気がする 「あ、来たぞ」 「う、うん」 どこかセクシーなアキをじっとりと見つめていると、いつも学校に行くのとは違う色の電車が到着する もうすでにたくさんの人が乗っているが、いつも学校に行くときは仕事着や制服の人が多かったのに対し今日は私服の人の割合が高めに感じた あっ、暑い………………っ 電車の扉が開くとともにアキと2人で乗り込む だがいつものように壁側まで行くことは敵わず、人混みの中で完全に体を固定されてしまった むわっとした暑苦しい空気 俺の隣には前に俺を痴漢をした人と似た雰囲気の男の人が立っていて、条件反射で体が震えてしまう だ、大丈夫だって分かってるはずなのに……… いつもと少し状況が違うだけなのに………っ そう思ってしまう自分に必死に大丈夫だと言い聞かせようとした時だった アキの大きな手が、俺の腰をぐっと引き寄せて体を密着させられる 「大丈夫、オレがついてるぜ」 「ア、アキ…………」 「ほら、オレがお尻触ってたらもう誰も触れないし」 「あう……………」 耳元で囁く優しい声 そんな優しい声は冗談っぽくとぼけた言葉で俺の心を落ち着かせ、俺のお尻に手を伸ばした そしてパンパンと俺のお尻を軽く叩き、その場で手を固定させる 本当はお前が触りたいだけだろ、と言ってやりたい所だがアキのおかげで俺の心はいつの間にか落ち着きを取り戻していた なのて今回は、大人しく触られていてやろうと思った

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