150 / 234
ゲーセンデート
結局何事もなく目的地に着いた
と、言うよりは痴漢されそうになるのをアキの鉄壁でガードされていたので何事も無く無事にたどり着いた
「うわあ………すげ、本物だ………」
「あは、面白い反応すんのな」
「だってほら………」
到着した場所は超都会で大きなビルやアミューズメントが立ち並ぶ場所
多くの人で賑わうそこは、よくテレビでも中継されているほど東京人にとっちゃメジャーな場所だろう
田舎育ちの俺にしてみればこんな場所、テレビでしか見たことのないような未知の世界
越してきて2ヶ月ほど経つが、こういった場所に遊びにきたこともなかった
「っはぁ〜〜、すっご……………」
「ははは、大袈裟だなぁ」
「人がいっぱい………」
ぐっと上を見上げると思わず押し倒されそうなくらいに大きなビルが待ち受ける
それに人もまるで炊飯器の中のご飯粒みたいにたくさんいて、それなのにみんなぶつからないように器用に互いの間をすり抜けていく
「よし、じゃあ行くか」
「う、うん!」
アキに言われ、俺はふんふんと気合十分で歩き出した
まず最初に来たのは大きなゲームセンター
「すっげ、すっげぇ!!ゲームがいっぱいあるぞアキ!」
「翔ゲーム好きだろ?だから楽しいと思ってさ」
「うん!好き!楽しい!」
「あはは、まだ遊んでねえのに」
キラキラガチャガチャしたゲームセンターの中をバタバタと走り回る
俺の好みに合わせた場所を選んでくれたアキは、俺の後ろをとことこと付いて回る
俺は小学生くらいの頃からずっとゲームが好きだったが、前に住んでいた場所にはあまり大きなゲームセンターがなかった
だからなのか、俺のテンションはデート開始早々マックスに近い
「でっかいお菓子だ!」
「あはは、翔、健みてえ」
「なっ…!これは誰でもテンション上がるだろ…」
「うんうん、そうだな!」
大きなぬいぐるみからアイドルやアニメのグッズ、はたまた巨大サイズのお菓子まで、色んなものが四角い箱の中に閉じ込められている
それをひとつひとつ吟味していると、一際目を惹くものを見つけた
「アキ!これ!俺これやる!!」
「お、どれどれ?うわっ、頭でかっ」
俺が指差したのは黄色いティラノサウルスのぬいぐるみ
頭でっかちなそれは、アキが驚くほどのかなりのビッグサイズだ
透明のケースにべたりと両手を付けて、取りやすそうな配置を考える
と言ってもUFOキャッチャーなんてほとんどしたことはないので、前にテレビで見たものを真似して角度を計算する振りをしているだけなのだが
「一発で取ってやるからな〜」
「翔がんばれ!」
「今日からおまえは俺の枕だ!」
カバンから財布を取り出して百円玉を2枚入れる
そして丸い飾りのついたレバーを握り、大きなアームをそのぬいぐるみの上まで動かしてみる
アキの応援に激励されながら、俺は決定ボタンをドンっと力強く押した
「お、いけるいける!」
「おっ、俺天才かもしれない……!」
「イエー……………………あっ」
これは確実にいけたと思いアキとハイタッチをしようとした時だった
ボテっと重たそうな音を立ててケースに戻るぬいぐるみ
なっ、なに〜〜〜〜〜〜!?
さっきのは絶対にいけると思ったのに
勝手にぬか喜びしちゃったじゃないか
「もう1回!!」
悔しくなってもう一度チャレンジを決意
百円玉を2枚入れてまたレバーを握り動かす
そしてさっきよりも真剣に、そして繊細に恐竜へとアームを近付けて行く
だがそれからというもの、ぬいぐるみはビクともせずに4回のチャレンジが失敗
最初のあれは何だったんだ、と意気消沈する俺は泣く泣くその台を離れる
「もうだめだ…………諦める」
下を向き、出来るだけ黄色の恐竜を視界に入れないようにしながらその場を去ろうとする
ゲーム中にかなり気に入ってしまった恐竜を持ち帰れなくて、今俺はかなり落ち込んでいる
「アキ、もう行こ、俺立ち直れない……」
「ちょっと待って、今いいとこだから」
「ぶー……………」
これ以上悲しくなる前にこの場から立ち去ろうとアキに声を掛ける
だがアキは台をじっと見つめたまま動こうとせず、ますます俺は不貞腐れてしまう
「あ、取れた」
すると聞こえてきた、アキの力の抜けたような声
そんな声に敏感に反応しくるりと後ろを向くと、アキの手には大きな黄色い塊がひとつ
アキがそれを持ったまま俺の方に近付き、そしてそれを俺に渡す
ずしっとした重みとチカチカするような真っ黄色のでかい頭が俺の求めていたものと重なる
「ええっ、取れたの!?」
「おう、いけるかな〜と思ってやってみたらいけた」
「天才はお前だったのか………」
「それ、翔にあげる」
両手でぬいぐるみを抱える俺の頭をポンと撫でて言う
“あげる”と言われて内心とても嬉しかったが、これは俺じゃなくてアキのティラノだ
嬉しい反面、申し訳なさの方が勝つ
「でもアキが取ったものだし……」
「いいの、オレがあげたいからあげるんだぜ」
「……本当にくれんの………?」
「ん!翔に可愛がってもらえよ〜〜っ!」
アキが恐竜を抱いた俺の頭を撫で、今度は恐竜に語りかけながらその黄色い頭もよしよしと撫でる
そんなことをされたら、ますますこの恐竜を俺のものにしてしまいたくなった
「ありがと………!」
「ん!どういたしまして!」
結局素直にお礼を言って、黄色のティラノは俺の子になった
つやつやでくりっとした丸い目を見つめぎゅっと強く抱きしめると、ふわふわの毛皮は思いの外むちっとしていて触り心地も最高だった
デート開始早々、もうアキから新しい思い出をもらえた
それが俺はもっと嬉しかった
ともだちにシェアしよう!