「アキ！これ！次これやりたい！！」 「お、プリクラかあ！」 「そう！これやりたい！」 次に目を惹いたのはよく女子が撮っているプリクラ もちろん今まで一度も撮ったことはないし、どんなもんなのかもよく分かっちゃいないが でも前に姉ちゃんが撮ったものを見せてもらったときは、目が大きくてキラキラになっていて面白そうだと思ったのを覚えている 「これ！これにしよ！」 「いいぞ〜」 その中からいちばん可愛いと思う女の子がモデルのピンクのボックスに、アキの手を引いて入った 中に入ると白いライトがたくさんあって明るくて、真ん中に小さい画面とカメラらしきものがある 背景には緑色のぺろんぺろんのカーテンがされてあり、所謂これがグリーンバックの役目を果たすのだろう アキが財布から百円玉を4枚取り出して入れると正面の画面が動き出し、どこからかポップな洋楽が流れてくる 『まずは撮りたいモードを選択してね♪』 「うわっ！喋った！」 「あはは、ほら翔、ちょっと落ち着けって」 「モードって何っ！？」 すると急に聞こえてくる女の人の声 機械的で明るい声がよく分からないことを言い出し、俺はひとりで慌ててしまう そんな俺を宥めながら、アキが落ち着いた様子で俺の肩に腕を置いて画面をタッチする アキの指が画面に触れるたびにキランキランと音がなる 『それじゃあ撮影するよ♪』 「えっ早っ！ちょまってまってまって」 「わはは、ほら、ここ見んの」 「ここっ！？ここ見ればいいのっ！？」 『さん、にー、いち♪』 バチンッ、と視界が真っ白に光る 必死に目を瞑らないように目を開け気合で前を向いた 撮れた写真が画面に映し出される アキはさっきまで爆笑していたはずなのに、綺麗にキメ顔をして俺の肩まで抱いて顔を寄せている 一方の俺も、はじめての割にはよく笑えているようで内心ホッとする 『じゃあ次は可愛くポーズしてみよう』 「可愛く！？」 「お、可愛くだって、どうしよっかなっ」 「んんっ！」 『さん、にー、いち♪』 「あっはっはっはっ！！翔目えでっか！」 「んふふっ、お前もなんか目キラッキラしてる！」 「見てこれ、ちょっと目瞑ってんの！」 「ギャハハハ！俺半目じゃん！！」 撮影室を出て、アナウンスの指示通り落書きコーナーとやらに入った そこで今まで撮ったものが全部並べられて出てくる それに一々爆笑してはお互いの顔をからかう 元々ギョロ目の俺の目は更に大きく、彫刻顔のアキは更に彫刻のように彫りが深くなっている 時々俺が目を瞑ってしまっており、それを見て俺もアキも爆笑する 「お、よく撮れてんじゃん！チューのやつ」 「あっ！お前！急にチューしやがって！」 「んふふ、翔のキョトン顔可愛いっ」 「やっ、やめろっ！」 途中からテンションが上がってきたアキが、俺の隙を突いてはほっぺたにキスをかましてきた 不意を突かれた俺は目を見開きキョトンとした間抜け顔 改めて見るとますます恥ずかしくなって、俺はアキの胸をバシバシと平手打ちした 撮り終わった写真が出てくるのを、取り出し口に手を入れてじっと眺めながら待つ 「あ、こら、そのポーズだめだぞ」 「んえ、なんだよ」 「そんな尻強調するポーズしちゃダメ」 「なっ……！強調してない！」 するとしゃがんで取り出し口に手を入れている俺のお尻を、アキにペチンと叩かれる ビクッと体が震えてアキを睨むと、両脇に手を入れられ無理矢理立ち上がらされる 自分のお尻を両手で隠す 俺はお尻を強調するポーズなんかしていないのに、そんなふうに見えるアキが変態なんだ 「あっ、出てきた」 そんな風に時間を潰していると、ストンと軽い音を立てて取り出し口にシールが落ちてくる 取り出し口に手を伸ばし、アキにお尻を叩かれないよう左手でお尻を隠しながらシールを取り出す 「おおっ、これがプリクラ……！」 「お、これいい感じだな！」 「つるつるしてる……！」 「あ、この翔可愛い」 手に持ったツルツルのシールをアキと一緒に眺める 俺の後ろから出来たてのプリクラを指差してんふふ、とご機嫌に笑うアキ ぴたりと体をくっ付けられぐっと顔を近付けられると、周りから妙な視線を向けられる 距離感の近い彼氏のみぞおちに黙ってエルボーを食らわせ離れると、その太い腕を飾る腕時計を見る 「お腹空いた？」 「ん」 アキの時計を見ると、もうすぐ14時を回る頃 時間を確認するのとほぼ同時に、俺のお腹がぐぅ、と小さく鳴いた 「そろそろお昼にしよっか」 「ん」 俺はプリクラを大事にカバンに仕舞うと、ぬいぐるみをぎゅっと抱えてアキと共にゲームセンターを後にした しばらく繁華街を歩く おしゃれな店がたくさん立ち並んで、すれ違う人も皆おしゃれでキラキラしている 自分の歩くこの世界が、何だか現実じゃないみたいだ 「ほら、危ないから翔はこっち」 「んっ」 前を歩く男の人とぶつかりそうになると、アキが俺の手をぎゅっと掴んで引き寄せる そして人の行き来が少ない内側を俺に譲り、何食わぬ顔をしてとことこ歩く ちらりとその整った顔を見上げると、アキはスマホを見ながら時折きょろきょろと辺りを見回している うわ、俺本当にアキとデートしてるんだ……… 田舎者の自分がこんなに賑やかな都会を歩いていることだってまだあまり現実味がない だけどその賑やかな場所を、すれ違う誰もが見惚れてしまうほどにカッコよくてモテモテなアキと一緒に歩いていることの方がよっぽど現実味がない こつん、と肩がぶつかりアキの手に触れてしまう ん？と優しい顔を向けられると、一気に顔が熱くなる 何でもないと首を振るとアキはそっか、と言ってまたスマホに視線を戻す 赤くなった顔がアキにばれてしまわない内にそっぽを向くと、今度は心臓がどきどきと高鳴っていることに気付く そんな自分の心臓の音を聞いてもっと顔が熱くなってしまったことは、アキには内緒だ