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赤面彼氏は大馬鹿もの

ゲームセンターを出て、アキのナビでオムライスの専門店に向かう アキが提案してくれた中で一番リーズナブルで、でも一番おしゃれな洋食店 好物のオムライスが食べられるだけでも嬉しいのに、それをアキと一緒に食べられると思うとますます心が躍る だけどそんな俺のわくわくを、壊す声が聞こえて来る 「ねえ、あの人やばくない!?」 「めっちゃイケメンなんだけど!」 「脚なっが、モデルみたい!」 「ね、声かけてみようよ…!」 正面を歩いてくる女子4人組の声 その視線は、明らかにこちらを向いている ぎゅっと集まってヒソヒソと話す高い声は、耳の良い俺にはよく聞こえる 彼女たちが誰かは知らないが、彼女たちの話題の中心が誰なのかはすぐに分かった 「お、こっち側かな」 「……」 「翔、もうすぐ着くみたいだぜ」 「……」 それに気付かずスマホの地図を見ながら左右を見渡すアキ ご機嫌そうに微笑んでもう少しだって、と言い俺に歩幅を合わせる そんなアキにぐっと近寄りくっ付くと、その逞しい腕にちょこんと触れ目の前を警戒する俺 声掛けようとか聞こえたし………… やだな………俺ああいう女子苦手だし、それにアキに惚れられるのも嫌だ そう思っていた矢先 「あ、あのぉ、お兄さんたち今暇ですかぁ?」 「え?」 「私たち今暇してて、よかったら一緒に遊びたいなって」 真ん中に立つミニスカートに巻き髪の、同い年くらいの女子がそう声を掛けて来た “お兄さんたち”と言われたのは予想外だったが、それでも警戒心の強い俺はアキの後ろに隠れるように一歩下がる リ、リアルな逆ナンだ…………… 長くてふんわりとした髪 つやつやの赤いリップに、ピンク色の頬 短いスカートからはほっそりとした脚が覗く もし俺がアキと出会っていなければ喜んで着いて行ったであろう可愛い女の子 だけどアキと出会った今では、俺の心はびくともしない ま、この子たちの狙いはあくまで“俺”ではなく“アキ”だけど むむ、と口を噤みアキの後ろに隠れて女子4人をじっと眺める すると不意に俺の腰にアキの腕が回され、理解が追い付く前にぐっと抱き寄せられてしまう 「ひっ」 ア、アキ何して…………っ!? 微かな悲鳴を上げるも、アキは俺の腰から腕を退かすどころかするりと手を這わせて軽く撫でてくる始末 真っ赤になった顔と爆発しそうな頭のせいで、俺は抵抗することも出来ない 「嬉しいけどごめんな、オレたち暇じゃないんだ」 「そ、そうなんですかあ…?」 「ん、今すげえいいとこだからさ」 するとアキの口から放たれた、少しやらしい色の声 そして俺の髪にぴったりと頬を寄せ、太い首筋にセクシーに手を這わす ぷるぷると体を震わせながら女子たちの顔をちらりと覗き見ると、その視線はアキの首筋の赤い跡を確実に捕らえていた そして顔を引き攣らせると、苦笑いをしながら早足でUターンして去って行く そんな背中を見送りながらも、俺の体温はみるみる上昇して首まで赤く染めて行く ぷるぷると小刻みに体を震わせ、汗の滲んだ拳をぎゅっと握り締める 「バッ、バカアキ………っ!」 「んー?」 「いっ、今のわざとだろ………っっ!」 「あは、どうかな〜」 そしてアキの腕をすり抜けると、俺はその腕を強引に引いて人気の少ない路地裏に逃げ込んだ 真っ赤になった顔を隠すこともなくアキに当たり散らし、そしてべちべちと分厚い胸板を平手打ちを食らわせる あんな恥ずかしい真似して、何のつもりなんだ…! 俺すっごく恥ずかしかったのに………!! そんな思いでアキに当たると、アキが俺を壁に追い詰めるようにして顔を近付けてくる 顔圧に思わず圧倒されて怯むと、そこからはもうアキのターン 「オレは翔だけのものなんだろ?」 「…………………ぅ」 「翔も、オレだけのものだぜ?」 「んっ…」 じりじりと追い詰められ、背中が壁にぶつかるのとほぼ同時にむちゅっと唇を奪われる そして俺の口内を一通り舐め回すと、ちゅっと音を立てて唇を離す その頃には俺のキャパをすっかり超えていて、怒りも恥ずかしさも全てが都合よく消え去っている むしろこんな場所でされたキスの味が鮮明に舌に残り、その余韻に浸るように自分の唇をこっそりと舐める 俺も、アキだけのもの……… そしてアキの口から意地悪に放たれた言葉に、胸をきゅんとときめかせてしまう 本当はもっと怒ってやりたいのに、もっとバカって言ってやりたいのに それなのに俺の口はそれを許さない それどころか自ら負けを認め、アキの勝利を確実なものにしてしまうんだ ああもう、バカは俺だ アキに良いように振り回されその上ときめくなんて、俺は大馬鹿ものだ 「んふふ、よし、じゃあ気を取り直して行くか!」 「うぅ………」 そして俺のおでこにちゅっとキスをすると、また明るく爽やかなアキに戻って笑顔を見せる もう二重人格なんじゃないかな、と思うほどにころころ変わる雰囲気に俺の心臓は毎回ヒヤヒヤさせられている だけどキスを嫌がる素振りなんてとても出来なくて、そんなところも俺の弱いところだと自覚した だけどアキが、俺を自分だけのものだと言ってくれたのはちょっとだけ嬉しかった なんて、アキには絶対言ってやらない

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