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記念写真

「お、ここだぜ!」 「人多そうだな……」 「でも少し並べば入れそうだな!」 「ん、少し待とっか」 アキのナビのおかげで、迷うことなく目的のオムライス専門店にたどり着くことが出来た レンガで出来たレトロな外装 赤く枠取りされた扉はどこか違う国を連想させる 煙突からはふわふわと湯気が立ち、卵の香ばしい香りを誘う そんなおしゃれなお店には、14時を回っていてもそれなりのお客さんがいるようだ だが多少の待ち時間など大したことはないと、店の横の細い通路の列に2人で並んで待つことにした俺たち 「な、翔、こっち向いて」 「ん?」 「あは、可愛く撮れた」 「ちょっ、写真!?」 アキとの待ち時間 不意に名前を呼ばれ振り返ると、カシャッとカメラのシャッター音が降り掛かる 驚いて目を見開くと、そこにはスマホを構えてにんまりと笑うアキの顔 「ちょっ、絶対ブサイクだった!」 「全然そんなことないって!ほら!」 「やだ!なんか間抜けじゃん!」 「もー、だめだめ!」 アキに見せられた画面には、ぬいぐるみが入った袋を抱えて笑っているのかそうでないのかよく分からない表情をした俺 何だか自分で見るとますます間抜けな顔だ アキの手からスマホを奪おうと手を伸ばすも、10センチの差は大分大きい アキがぐっと手を高く伸ばせば、俺がスマホに触れることは出来ない 仕方なく諦めて不貞腐れると、今度は俺の体にぴたりとその大きくて筋肉質な体を寄せられる 「な、今度は一緒に撮ろ?」 「…………それならいいけど……」 「ん!ほらこっち見て」 「い…………」 今度はアキが内カメラに切り替え、そして俺と肩を並べてにっこり笑う アキに言われて笑おうとするも、なぜか緊張して顔が強張ってしまっている気がする だ、大丈夫かな、俺ブスじゃないかな…… そう思いながらアキのスマホを確認すると、にっこりと爽やかに笑うアキの隣でどこか引き攣った笑顔の俺 見事にブサイクだ 「もっ、もういっかい!」 「んふ、じゃあもっとこっち寄って」 「うわっ」 「ほら、撮るぞー」 それからしばらく、アキと一緒に何度もツーショットの写真を撮って時間を潰した アキと過ごす待ち時間は楽しくて、20分なんてあっという間に過ぎてしまった 「お次にお待ちのお客様、お待たせしましたあ」 アキと写真を撮っていると、お店の中から出てきた女性の店員さんに呼ばれた 俺たちは同時にはぁい、と返事をすると、うきうきしながら店の中に足を踏み入れる 「わ、なんか雰囲気ある……」 「いい匂いするな!」 「ん、お腹空いた」 店の中も、外装と同じくレンガ調のテイスト 木製の椅子とテーブルがレトロモダンで、少し懐かしいような雰囲気も感じる それに漂ってくる卵とデミグラスソースの香ばしい匂い 食欲がそそられて思わずお腹がぐぅ、と音を立てた 店員さんに案内されて、窓側のロケーションの良い席にアキと向き合って座る こういう時、アキは必ず俺が座ってから座るように心掛けているようで、そんな所も紳士で大人だと内心惚れ直してしまう 席に座ると、アキがメニュー表を開きオレの方を向けて差し出してくれる 「な、翔はどれにする?」 「俺はやっぱり、この定番のやつかな」 「じゃあオレこっちのにするからさ、シェアしようよ」 「ん、それいいね」 つやつやのメニュー表を眺め、一番気になるものを指差すとアキはその対照を指差した どうやらアキは食べ物のシェアに抵抗がないタイプのようで、俺もアキの提案に喜んで頷く そしてアキが低く通った声ですいません、と店員さんを呼ぶと、出来るだけ俺に手間を取らせないようにスマートに注文を進めていく 俺がこういう人の多い店で声を上げることが苦手だと知っているアキは、いつもこうやってリードしてくれる 「アキ、ありがとな」 「ん、楽しみだな!オムライス」 「うん、もうお腹超ぐうぐう言ってる」 「あはは、翔の好物だもんな!」 優しいアキにお礼を言うと、それからは注文した料理が来るまで他愛もない話をした これからどこに行こうか、とか 何か欲しいものはないか、とか あとは今日もお泊まりしような、なんて約束もしたりした テーブルに肘を付いて優しい瞳を向けてくるアキ そんな瞳に見つめられるのが恥ずかしくてぬいぐるみで顔を隠すと、わははと無邪気に笑ってからかわれた 「お待たせしましたあ」 「わぁ、ありがとうございます」 しばらく待っていると、注文した2種類のオムライスが運ばれて来た 俺が頼んだデミグラスソースと、アキが頼んだホワイトソースの2種類 どちらも食欲をそそる香りを漂わせ、卵はつやつやと煌めいている 「わあぁ」 「あ、すげえ可愛い顔」 「あ!また撮っただろ!」 パチンと手を合わせ瞳を輝かせてその料理をじっと見つめる キラキラと光るふわふわの卵にきのこの入った濃厚そうなデミグラスソース 表面に散らされたパセリまで美しく見える そんな美しい食べ物に心を踊らせていると、またぱしゃりと聞こえるシャッター音 慌てて顔を上げると、やはりアキがスマホのカメラを俺に向けてにたにたと笑っている 「あは、よく撮れてる」 「もう!消せってば!」 「ほらほら、オレに構ってると冷めるぜ?」 「う………………」 目の前のスマホに手を伸ばすも、やっぱりひょいっとかわされてしまう そして俺の痛いところを突いて怯ませると、その隙にスマホを俺の手の届かないポケットへ忍ばせた

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