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ノーブランドスタイル
「んまぁい………!」
「あはは、翔は美味しそうに食べるな」
「ア、アキだってそうだろ…」
「うん、でもオレは翔のお弁当の方が好きだぜ?」
料理が提供されるなり、温かいうちにそれに手をつける
丸くて大きなスプーンで卵をすくうと、ふわっととろける感触が何とも心地良い
最大限大きな口を開いてまふまふとその温かい卵を口に入れると、思わず俺自身がとろけてしまいそうだ
そんな俺をにこにこ微笑みながら見つめるアキ
やっぱり俺より食べるスピードがかなり早いようで、もう半分くらい食べてしまっている
「翔、ほら、あーん」
「はっ……!?」
「ほら、こっちも美味いから食べてみて」
「ちょっ、でもこれは…………」
すると差し出される白いオムライス
俺の口のサイズに合わせてすくわれたそれを、アキがこちらに向かって差し出してくるのだ
思わず食いついてしまいたくなる白いオムライス
こちらもつやつやしていて、また美味しそうだ
だけどこれは、いかがなものか…………
こんな場所で男子高校生が2人、あーんし合っているなんて絵面的にもやばいし、何より俺が恥ずかしい
美味しそうなオムライスを前にしても、羞恥心の強い俺は戸惑ってしまう
スプーンからとろけそうになるそれから目が離せなくても、あと一歩が踏み出せない
「ほら、今なら誰も見てないから」
「……………わ、分かったよ……」
「はい、あーん」
「あー…………」
だけどアキがこっそりと告げた一言
後になって冷静に考えれば、そんなの俺を誘き寄せる口実でしかないのに、この時の俺は好物前にして冷静でいられなかったのだろう
俺は長めの横髪が料理に触れないよう、左手で耳に掛けながら目の前のスプーンをぱくりと口に入れた
するとまた、どこかからぱしゃりと聞こえたシャッター音
しかも今度は3連続だ
「うまぁ…………って、あ!!」
「やべ、バレちった」
「また盗撮したな!」
「だって可愛かったんだもん」
口の中にはとろけるホワイトソース
だけどその味も忘れてしまうような俺の恥ずかしい瞬間の写真
向けられたスマホの画面には、恥じらいながら口をぱっくりと開ける俺の姿
「こ、こら!行儀悪いぞ!」
「はいはいごめんって、もう仕舞うから、な?」
「う゛〜〜〜〜〜…………」
「あは、威嚇するなよー」
取り繕うように笑ってスマホを再びポケットの中に仕舞うアキ
そして新しいスプーンを取り出すと、威嚇する俺をすり抜け翔のももーらいっと言ってデミグラスソースの掛かったオムライスを小さくすくい攫っていった
その後俺より早く食べ終わったアキは、俺が食べ終わるまでの間時折スマホを開いては何かニヤニヤしていた
アキを待たせないように急いで食べようとすると、ゆっくりでいいよ、と言ってくれたのでその言葉に甘えて残りをゆっくり味わって食べた
この時アキがスマホに無音カメラをインストールして、ずっと俺の写真を撮っていたことに気付くのは、もう少し後の話だ
「ありがとうございましたぁ」
「ごちそうさまでした!」
「美味しかったです」
「はい!またのご来店お待ちしておりまぁす!」
気怠そうに語尾を伸ばす男の店員さんにお礼とごちそうさまを言うと、アキの笑顔に見惚れたのか途端にしゃきんと背筋を伸ばして明るく返してくれた
アキには男も魅了する力があるのか、と勝手に感心しながら店を出る
ちなみにここでの代金は、無理を言って俺が払わせてもらった
いつもご飯を奢ってくれるお礼だ
最後まで払おうとするアキを蹴飛ばして、無理矢理代金を支払った
「翔、ごちそうさま、ありがとな」
「うん、いつものお礼だよ」
「あは、律儀なやつだなあ」
「いーの、ほら、次どこ行くんだよ」
アキのお礼を素直に受け取り、次の目的地を尋ねる
するとアキは行きたいところがある、とそう言って俺を案内しながら歩き出す
俺はその案内に従い、大人しくアキに着いて行った
この後アキに、さっきのお店で蹴飛ばした逆襲をされることになると、この時の俺は気付いていなかった
「この辺にさ、行きたい店があるんだ」
「うわぁ、お店がいっぱい…」
「こういうところに来るのもはじめて?」
「う、うん………!」
アキに連れて来られたのは大きなファッションビルが立ち並ぶおしゃれな街
ドラマでしか見たことのない街並みに、俺は一際目を輝かせる
どんなおしゃれな店にアキは行きたいんだろう、と勝手に心を躍らせる
「あ、ほら、ここ」
「え」
「ん?どした?」
「来たことある、このお店」
だけど俺の期待とは裏腹に、たどり着いたのは全国どこにでもあるファッション用品から文具、日曜雑貨ははたまた家具まで色々なものを扱う店だ
ここなら俺の地元にもあったし、ショッピングモールの中にもあったので行ったことがある
あんなに広くておしゃれなタワーマンションに住んでいるし、てっきりもっと東京っぽくてレアで高級な店に行きたがるのだろうと思っていたが、アキも案外庶民のようで内心びっくりしている
「お前もこういうところ来るんだな…」
「逆にオレどんな印象だったんだよ」
「いや、何かこう、もっとブランド物でいっぱいの…」
「あはは!そんなのオレには似合わないって!」
思っていたことをそのまま伝えると、アキは笑いながら顔の前で手を振って否定する
そしてブランド物なんて持ってないんだぜ、と言って見せられた財布は高見えするが確かにノーブランドだ
でも確かに、アキは普通でありたいと願っていたもんな
普通であるなら、安い物だって庶民的な物だってそりゃあ好んで使うよな
ブランド物好きなんて、俺の勝手な思い込みで失礼だったかもしれない
「ほら、今日は買いたいものがあるんだ、行こ!」
「う、うんっ」
む、と失礼な口を噤んでいると、何も気にしていない様子のアキはまた犬のように可愛く笑って俺の手を引いた
そんな様子のアキに内心ほっとして、俺はアキと一緒に店の中へと足を踏み入れた
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