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アキの復讐?
店内を見回すと1階にはシンプルなファッション雑貨がたくさん陳列されている
よくあるデザインの、使い勝手の良さそうなものばかりだ
「翔はズボン、短いのと長いのどっちが好きだ?」
「俺?俺は短いのかな」
「下着はボクサー派だよな?」
「うん、そうだけど………」
するといつの間にか買い物かごを持って来ていたアキが、逐一俺に尋ねてはファッション用品を吟味している
そしてうーん、と少し考えるような仕草をしながら俺と商品をきょろきょろ見比べる
こいつ、何してんだろ…………
新しい部屋着でも欲しいのかな
まあそろそろ暑くなって来たし、衣替えの季節だもんな
そう思って別の場所にとことこ歩いて行き、最近穴の開いた靴下を買い換えるために靴下が陳列されている場所で商品を眺める
「翔ー、何色が好き?」
「色?うーん……緑と白かな………」
「ん、サンキュ」
「?」
靴下を眺めて選んでいると、遠くからアキの声がする
よく分からないがとりあえず問い掛けに素直に答えると、頭にハテナマークを浮かべながらも俺は自分の買い物を続ける
それから結局無難に無地の靴下を3セット選んでアキの元へとことこと戻る
「えっ、何、そんなに買うの?」
「ああうん、ちょっとな」
「スリッパまで……随分大胆な衣替えだな」
「あはは、だろ?」
アキの元へ戻ると、さっきは空だった買い物かごにたくさんの衣類や日用雑貨が入れられていた
下着や部屋着、スリッパから薄手のパーカーまで色々なものがかごの中に詰め込まれている
アキが俺の手から靴下をピッと奪うと、それもかごの中に入れる
「翔は他に欲しいものあるか?」
「………いや、俺はもうあんまり無いかな」
「そっか、じゃあ少し待ってて」
「う、うん」
アキに尋ねられ首を横に振ると、アキはそっかと言って俺を待たせ早足で会計に行った
その間、俺はその辺をうろうろしながらアキとのやりとりを思い出す
アキは何で俺の下着事情やら好きな色なんかを聞いたんだろう………
何か普通に答えちゃったけど、下着のタイプ聞かれるのって今思えば絶妙に恥ずかしいよな
ってあれ…………?
ちょっと待て、俺の下着や好きな色聞いたのってもしかして………………………
「アキっ、ちょっと待っ……」
「お?どうかしたか?」
「………お、遅かったぁ………………っ」
「ん?」
俺がそれに気付いてアキの名前を呼んだ時にはもう遅く、会計を済ませ手に大きな袋を持ったアキが目の前に立っていた
ん?と不思議そうに俺を見つめるアキの目の前で、踏み出した右脚ががくんと崩れる
「ア、アキ、それってさ…………」
「ああうん、翔の!」
「やっぱり………………っっ」
「お?」
最後の希望を確認するため、アキに一応尋ねてみる
だが俺がその袋を指差して尋ねると、アキは元気よく笑って俺の問い掛けに頷いた
そして重たいであろう大きな袋をぶんぶんと上下に動かして無邪気な笑顔を俺に向ける
ああ、やっぱり………………っ
今思うと完全にその予兆があったにも関わらず、今の今まで気付かなかった俺も悪い
冷静に考えればすぐ分かることだったのに、俺はなんて鈍い男なんだ
それにアキがサラッとこういうことをする奴だったことも、忘れていた
「い、いくらした……?」
「ええ、言わないよ」
「でもそれ、俺のなんだろ?だったら……」
「いーの、オレが買いたかったの!」
「でも…………………」
値段を尋ねてもアキは首を横に振り教えてくれない
この量だと、たとえひとつがそこそこの値段であってもまあまあな金額になったはず
それなのにアキは痛い顔ひとつせず、むしろ俺にお金を出させる気は毛頭なさそうだ
「オレの部屋にさ、置きたいんだ」
「う……………」
「………オレ、もっと翔とお泊まりしたいんだけどな」
「……!!」
すると不意に近付く、整った顔面
その顔圧に押されて少しよろけるも、なんとか足を踏ん張らせてアキと見つめ合う
だが俺の頑張りもアキに囁かれた“お泊まり”の文字には負けてしまい、後ろによろけながらボンッと顔を真っ赤に染めてしまった
た、たくさんお泊まり………!
な、なんていやらしい響き……………っ!
「な?いいだろ?」
「うぅっ……………」
「翔はお泊まり嫌?」
「………嫌じゃない、けど………………っ」
口説くように甘い声でそう言うと、子犬のようで狼のような瞳でじっと見つめられる
視線が熱くて、唇が震えてしまう
もう何度目か分からないアキのイケメン攻撃
きっとこいつ、自分がイケメンだって分かってやってるんだ
俺がこの攻撃に弱いって分かってて、いつもこうやって攻撃してくるんだ
「わ、分かったから…………っ」
「よっしゃ、またオレの勝ちー」
「うぅ……………」
結局また、俺の負け
今日はもう二度もアキに敗北した
だけど本当は、分かってて負けている
アキが俺のために買ってくれたこと
アキの部屋に俺のものを置こうとしてくれること
あと、もっとお泊まりがしたいと言ったこと
本当はその全てが嬉しくて
だから俺が負けざるを得ないんだ
赤くなった顔を必死で隠しながらアキの隣を歩く
アキの長い脚は、歩くのが遅い俺の歩幅に合わせて穏やかだ
そんなアキの隣は居心地が良くて、俺は少しだけアキに寄り添って歩いた
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