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翔の逆襲?

日用雑貨店を出て、今度は街の中心地にある大きなファッションビルに入る アキの時計で時間を確認すると午後3時半過ぎ 休日の街はまだまだ人で賑わっていて、もうしばらく落ち着く気配は無さそうだ 「あ、俺ここ行きたい」 「お、3階だな」 「エスカレーターこっち?」 「ん、そこ右に曲がったところだぜ」 入り口にあるフロアマップを確認すると、このビルの3階に俺の興味を引くお店を発見 アキの案内でエスカレーターに乗り、俺はふんふんと鼻息を荒くして目的地を目指す 「翔、腰痛くないか?」 「はっ、な、何だよ急に………痛いけど」 「やっぱり、少し反り腰だろ」 「ああ、姉ちゃんにも姿勢悪いって言われた…」 エスカレーターのサイドの壁は大きな鏡になっている 俺の前に立っている大学生くらいの女の人は、その鏡でヘアメイクをチェック中だ そんな大きな鏡で自分の立ち姿を横から見ると、アキや姉ちゃんにも指摘された通り少し腰が反っていてあまり姿勢が良くない 「今日の夜、マッサージしてあげるな!」 「ええ………いいって……………」 「腰痛いの、オレにも原因あるだろ?」 「うっ……そういうこと言うなって………」 アキが俺の後ろからぴたりと密着して腰をすりすりと撫でてくる 温かくて大きな手で撫でてもらうと腰の痛みは和らいでいくが、これはこれで恥ずかしい それにやっぱり男同士でくっ付きすぎだ 段差を1段登って密着してくるアキから離れると、あーと名残惜しそうな声を出しながらアキも1段段差を登りまたぴったりと密着してきた エスカレーターで2階分上のフロアに登り、ここは俺の目的地がある3階 どうやらこのフロアは雑貨や文具、それに本屋などを揃えているようだ そして俺のお目当てが、ここ 「げ、料理雑貨…………」 「げってなんだ」 「いや、オレ料理はちょっと………」 「はいはい、見るだけ見るだけ」 そう、調理道具や食器、はたまたエプロンまで色々なキッチン周りの雑貨を取り扱うお店 フロアマップで確認して、一番最初に俺の目に飛び込んで来て目をつけたのだ 何か嫌な予感を感じたのか、さっきの余裕そうな様子とは打って変わって尻込みするアキ その予感は間違っちゃいないが、俺はそんなアキを適当に諭して店の中に押し込んだ 「色々あるもんだな………」 「お前の家、大体揃ってるんじゃないか?」 「使ってないからよく分かんないや…」 「勿体ないな、全く」 広い店内をアキと一緒に見て回る さっきは気の乗らない様子だったアキも、完全に雰囲気に飲まれたのか物珍しそうに調理器具を手に取って頷いている 俺はそんなアキを置いてずんずんと先へ進み、来月の母さんの誕生日プレゼント候補のフードプロセッサーに目星を付ける そして目星を付けるのも早々に、今度はその先にあるエプロンのコーナーへと向かった そう、俺の真の目的はこれ エプロンだ 「アキ、こっち」 「ん?」 アキに手招きをして傍に呼ぶ そして大きな袋を手に持ってとことこと駆け寄ってくるアキにぬいぐるみを持たせると、俺は綺麗に並べられたエプロンに手を付ける 今までアキの家に数回お邪魔した その時に見た、誰もが憧れる綺麗なダイニングキッチン 調理器具もそれなりに揃っていて、一見すれば充実した主婦のキッチンのようだった だけど唯一、そこにないものがあった 「アキ、何色が好き?」 「オレ?オレは青かなー」 「ん、青ね」 「え、ちょっと待って翔、まさか……」 そう、それがエプロンだ 料理をする者として、エプロンはとても大事なもの だけどあんなに充実したアキの部屋のキッチンには、唯一エプロンだけがどうしても見つからなかった こんなの、料理なんてする気はありませんと端から断言しているようなものだ ならば俺が、買ってしまうまで 「アキにはこっちが似合うかな……」 「オ、オレ料理しないしさ、ほら…」 「んー?」 途端に焦ってエプロンはいらないと否定し始めるアキ きっと俺に買われてしまうと、後に引けなくなってしまうのだろう それほど料理が嫌いだなんて、俺とは気が合わないのかも だけどさっき散々貢がれた分、ここで負けるわけにはいかないのだ それに俺には、秘策がある 「アキは俺と一緒に料理してみたくない?」 「うっ……………」 「俺とおそろいのエプロン、したくなぁい?」 「ううっ………………」 「俺に手取り足取り教えてほしく、なぁい?」 「はう……………………っっ!」 きゅるんとした瞳でアキを上目遣いし、エプロン越しに胸に触れる そして俺らしくないもったりとした口調で少しやらしくそう問うと、アキが苦しそうに怯み出す 俺にしてはいい作戦だ きっと今、アキの頭の中ではおそろいのエプロンでキャッキャウフフと仲睦まじく料理をする俺たちの姿が映し出されていることだろう 「……………………ほしい、ですっ…」 勝者、俺 とうとう本日初のアキの敗北 どんな妄想をしたのか、アキは顔を真っ赤にしてぷるぷると震え俺に押し付けられたエプロンをぐっと握りしめている さっきの店であれだけ俺を恥ずかしくさせたんだ これは俺の、逆襲だ それと俺が、アキと一緒にあの台所で料理をしてみたかったんだ 苦手なことも一緒にやれば楽しくなると思ったんだ 「んふ、翔とおそろい…………」 「嬉しい?」 「ん、翔が買ってくれたおそろい嬉しい!」 それからアキと色違いのエプロンも合わせて、レジへ持って行った これは俺からのプレゼント 小さく折り畳まれたエプロンが入った袋を、にたにたと笑うアキがご機嫌な様子で振り回す 今日はアキの家で、アキと一緒に晩ご飯を作ろう そんな風に俺も内心わくわくしながら、アキと並んで次の場所へ向かった

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