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ラブラブピロートーク

「ん…………っ……」 「どう?気持ちいい?」 「ん………きもち……アキ上手いんだな…」 「ふふん、少し勉強したんだ」 アキが体重を掛けるように腰をオイルで濡れた手のひらで押し込み、骨と肉の間の丁度気持ちいいところをぐりぐりと刺激する アキの問い掛けに頷き、そのテクニックを褒めてやるとアキは自慢げに笑って俺に何かを見せてくる 「腰痛……マッサージ…………」 「そ!この間買ってさ、勉強したんだ!」 「わざわざ買ってまで………」 「だって無知なままやって逆に傷めたら嫌だろ?」 アキの手には『マジで効く!即効性マッサージ』と書かれた分厚めの本 所々に付箋まで貼ってあり、これをわざわざ俺のために勉強したのかと思うと何だかおかしく思える でもそれと同時に、アキの優しさが体に染みる 俺はアキからその本を借りて、うつ伏せで読みながらマッサージを受ける 「へぇ……えっと………じょ…こつ……」 「肋骨な」 「肋骨か……あっ、そこ………きもちぃっ」 「お、これ気持ちいい?」 いざ本を開いてみると、難しい漢字 体の部位を表すような漢字は特に難しくて、国語の苦手な俺には上手く読めない だけどまだ新しいはずのこの本には、後ろの方のページにまで付箋が貼ってある きっと頭のいいアキは、スムーズにこの本を読んで覚えてしまっているのだろう 「んっ………ん…………あっ……」 「もう、エッチな声出すなって、興奮すんだろ」 「エ、エッチな声じゃ、ないっ……!」 「ほら、動かねえの」 痛気持ち良くて程よく力の込められたマッサージ 思わず少し声が漏れると、なぜかアキに怒られお尻をぺちんと叩かれる エッチする時は声出せって言うくせに、アキは勝手だ ムッとして本を置き枕に顔を突っ伏すと、俺は黙り込んでアキのマッサージの快感に耐える だけど次第に、体がその快感に耐えられなくなってしまう 「んっ………んっんっ……………」 「ったく……もっかい抱いちゃうぞ?」 「う……だめ…………っ」 「ほら、じゃあ誘惑しねえで」 次第に腰が浮き、つま先がぴんと伸びてくる 誘惑しているつもりなんてこれっぽっちも無いが、アキの言葉を鵜呑みにして俺はぐっと口を噤む すると俺の体から、ぱっとアキの手がいなくなった 「よし、もう終わりっ」 「あ………」 「どう?腰の方は」 「あ………何か楽かも………」 そして早々に胸までめくれたTシャツをぺろっと元に戻し、そして首筋に痛気持ちいいキスをひとつ落として言う 少し名残惜しく思ってしまったが、これ以上されているとまた勃ってしまいそうだったのでもっとの言葉を飲み込んだ アキに聞かれ一度体を起こして腰をぐっと左右に捻ってみると、腰も体も大分軽くなっているような気がする 「ん、よかった」 「あ、りがと……………」 「ん、また今度してあげるな!」 アキが立ち上がり、水の入ったペットボトルを冷蔵庫に仕舞うとオイルでべたついた手を洗う そして最後に微妙に隙間のあるカーテンをしっかりと閉めると、照明のリモコンを持って俺のいるベッドへと向かう 俺はごく自然にずりずりと右にずれ、アキの分のスペースを空ける 「な、翔にお願いがあるんだけど」 「ん?」 「絆創膏、翔に貼ってほしいな」 するとオレの隣にちょこんと座ったアキが、ベッドの横の棚の引き出しから絆創膏を取り出して俺に渡す そして指先に怪我を負った左手を差し出して、待てをする犬のように笑う お願いって………そんな大袈裟な…………… こんなの、いつでもしてやるのに 「ほら、まずは傷薬だろ」 「お、はいっ」 「ちょっと滲みるかもだけど、我慢してね」 「おうっ」 俺は頷くとアキから傷薬も一緒に受け取り、その大きな左手をぎゅっと握った そして自身の指先に傷薬を少量取ってアキの手に塗り込んでいく やっぱり滲みるようでアキは時折いてて、と呟いては少し顔をしかめる だけどそんな子供みたいな表情も、俺には何だか可愛く見えて愛おしかった 「よし、できたっ」 「ありがとな!」 「明日はちゃんと特訓するからな」 「えー……………」 最後にくるりと絆創膏を傷口に巻いて、きゅっとそれをしっかり粘着させるように握った アキは痛いはずなのに嬉しそうに笑う だけど俺が“特訓”と言うと今度は顔をしょぼんと落ち込ませて嫌がる 明日こそは、料理の特訓だ 今日はアキの怪我で見学させたが、明日こそは何かひとつでいいのでマスターさせてみせる まずは朝食、メニューは目玉焼きでいこう そう心の中で意気込んで、俺はごろんっとベッドに勢いよく寝転がる そしてタオルケットをひとりでばさっと被ると、頭まですっぽりと隠れる 「あ、翔ずるい!オレも入れてっ」 「むっ」 「おじゃましまぁす」 「ぎゃっ、どこ触ってんだ!」 アキが照明を消し、タオルケットに潜り込んでくる もぞもぞと足を動かすと、アキの手が胸に触れて思わずぺちんとその手を叩く それでもアキは笑って俺の体をぎゅっと抱きしめると、とくんとくんと心地の良い心臓の音を聞かせてくる 「な、明日はハンバーグが食べたい……」 「作るのはお前だぞ…」 「やだ、翔が作ったやつがいい」 「………………考えとく」 暗くて狭い、布の中 アキは内緒話をするように小さな声でそう語りかけてくる アキのその小さな声に俺も小さな声で返事をすると、まるで小学生のようなヒソヒソ話が成立する そっとアキの背中に腕を回す さっきから聞かされている穏やかな心臓の音は、まるで子守唄のようだ 俺を眠りの世界へと、誘っていく 「翔、おやすみ……」 「……ん…………おやすみ…」 最後にアキとおやすみの挨拶をして、俺はすっと意識を失った この時の俺はまだ知らなかった アキが真夜中に起きて自分で抜いていることも 本当は獣並みの性欲の持ち主で、実はまだ本来の3割程度の力しか出していないことも そして近いうちに、自分がその性欲と向き合えるようになることも…

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