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遭遇
なーんて、爽やかな朝とか翔となら料理も楽しいだなんて言いましたが
やっぱり苦手なものは苦手です
「あ、ケチャップ無いんだ」
「オ、オレ買って来ようか?」
「いや、別に大丈夫、代用できるし」
「いやいや!すぐ買ってくるから!!」
ぱかっと冷蔵庫を開ける翔
朝食兼昼食用のハンバーグのソースを作る為にケチャップを探している
だが普段ケチャップは使わないし、昨日買い忘れてしまってうちには今ケチャップが無い
それをオレはチャンスだと思った
「ま、翔は料理して待ってて」
「あ!お前!逃げる気だな!」
「はっはー、そんなことないんだぜ〜」
「あっこの!待て!」
目にも留まらぬ速さで手を洗いエプロンを外す
続いてスウェットのズボンをジーンズに履き替えると、財布と鍵だけをポケットに入れる
そして光のような速さで玄関へ飛んで行き、さも親切心で買い出しに行く体で玄関の扉に手を掛けた
オレの企みに気付く翔
だがもう遅い
オレは引き止めてくる翔の間をするんとすり抜けて玄関の外へ出る
そして逃げるように、コンビニへ向かった
とことこと、コンビニへ向かって出来るだけゆっくり歩みを進める
翔には悪いが、やっぱりオレに料理はまだ早い
オレは100パーセント翔お手製の料理が食べたいんだ
だからすまんが、逃げさせてもらったぞ
きっとオレが帰る頃にはハンバーグもほとんど完成していることだろう
翔のお叱りは、ご愛敬ということでなんとか誤魔化そう
「ふふん………」
自分の見事な采配に、オレはにんまりと微笑む
だけど翔には家事を押し付けるようなことをして、本気で悪いとは思っている
なので償い程度に、コンビニで翔の好きなお菓子とアイスを買って帰ろう
そう思いながら歩いているうちに、自宅から一番近いコンビニにたどり着いた
「っと………あったあった……………」
そこでお目当てのケチャップと、それから翔に捧げるおやつのグミと翔お気に入りのアイスバーを2本手に取ると、いつもの感覚ですぐに会計を済ませた
ビニール袋を片手にコンビニの自動ドアを出る
「あっ」
そしてごく自然に自宅の方角へと進もうとするが、オレの中の悪魔がその足をぴたりと止めた
何だか本来の名目を忘れて早々に買い物を済ませてしまったが、このまま帰るには少し早くないだろうか
もし今帰って、また玉ねぎを刻むことにでもなればオレの逃げる努力は水の泡
オレの中の悪魔と天使が言い争う
素直に家に帰るべきだと言う天使と、もっと悪巧みをして時間を潰せと言う悪魔
だがオレはそんな白い羽の天使をぺいっと弾き飛ばすと、黒い羽の悪魔と手を組む決意をする
「もう少し時間潰そ………っ」
そう呟いたオレは数メートルほど先にある行ったことのない薬局の看板を見つけ、そこへ向かってゆっくり歩き出した
自動ドアをくぐり広い店の中を歩き回る
まだ午前中ということもありそこまで人の多くない薬局内には、どこかキャッチーな音楽が流れている
でも薬局で買うものなんて無いよな
シャンプーもこの間買ったばかりだし、洗剤もまだたくさんある
だけど店に入ってしまったし、何も買わないのはまるで涼みに来ているみたいで申し訳ない気もする
「おっ、これだ」
のろのろと見慣れない店内を歩いていると、丁度いいものが視界に飛び込んできた
そこは店の角の、下のほうの棚
キラキラと輝くパッケージや赤いパッケージがよく目立ち、その隣には透明の液体が入った容器も置かれている
そうだ、オレが目を付けたのはコンドーム
「0.03…………いや、こっちかな」
いつも使っている黒く輝く箱を手に取る
その箱には0.03ミリのXLサイズと書かれており、毎回同じものを買っている
だがふと思い出す、昨日の出来事
“なまがすき”と、翔が言った
もちろん毎度毎度生ではシないし、これからもコンドームは着けさせてもらうつもりだ
だがせっかく翔がそう言ってくれているのであれば、出来るだけ薄いものの方がいい気がしてきたんだ
そう考えたオレは一度手に取った黒い箱を元に戻すと、その2つ隣にある赤い箱を手に取った
「よし、これで翔も…………」
「……………………輝?」
するとその時だった
赤い箱を持って立ち上がろうとしたオレの背中に、聞き覚えのある低い声が降り注ぐ
その低い声はどこか威圧感のある、何とも聞き慣れた声
くるりと後ろを振り返ると、そこにはオレンジ色のエプロンを着けた赤毛の男がひとり
商品の在庫を持ってぽつんと立っていた
「し、静磨、奇遇だな………」
「あ、あぁ」
そこに立っていたのはオレの幼馴染、六条静磨だった
少し緊張しながらも、オレは平然を装って静磨に挨拶をしてみる
まだお互いに完全にしがらみが消えた訳でないオレたちは、少したどたどしく目を合わせる
静磨、ここでも働いていたのか…………
こいつとは、この間学校に来るようになってから健を挟んでいつも一緒に行動している
だが出来るだけ普通に接しようと思っていても、心のどこかで引っかかるものがあって、実はまだあれ以来上手く話をしていない
これも、神様から贈られた縁かもしれないな……
「静磨、少し時間あったりするか?」
「………あ、あぁ、多分」
「また少しさ、話さないか?」
「………分かった、店長に言って先に休憩貰って来る」
そう思ったオレは、静磨に対話を持ちかけた
すると静磨も少し遅れながらもそれを肯定してくれて、時間を作ってくれるとのことだった
オレは静磨を待っている間に会計を済ませ、店の前で奴が出て来るのを静かに待った
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