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オープンスケベ

今日は家から少し離れた薬局でのバイトだ ここ働くのは今日で最後 どうせならギリギリまで粘ってやろうと思って、今日は長めにシフトを入れた 「六条くん、今日で最後なんだね……」 「お世話になりました」 「すごく働き者だったから残念だよ……」 お人好しな店長がそう言って、餞別なのかは分からねえが栄養ドリンクを大量に渡してくる それを丁寧に受け取ると、ぐすんと鼻を鳴らして泣くような素振りを見せる店長 お袋との約束や健のため、そして何より自身が学校に通う為にバイトは家の近くのカフェのみに絞ることにした 幸いにもお袋の収入が安定する兆しが見え、少しは負担が減ることが見込まれている 「じゃああと1日、よろしくね」 「はい」 そう返事をして仕事を始めた 9時に仕事を始めて約1時間 在庫の補充や整備をしながら店内をぐるりと歩き回っていると、店の端の棚の前でしゃがみ込む男がいる こんな時間からそんなもん見て、元気なもんだ そう思いながら後ろを通り過ぎようとした時だった どこか見覚えのある広い背中 清潔感のある真っ黒な短髪は艶があり、がっちりとした肩や腕は俺よりも太い 横を向いた顔は鼻が高く、クッキリとした二重瞼は男の俺でも思わず目を引くほどに凛々しい そんな男に俺は、深く覚えがあった 「……………………輝?」 俺の幼馴染、輝 幼少の頃からの付き合いで、俺にとって唯一親友と呼べる存在 だがその誰もが憧れる容姿の男は今、赤い箱を手に持ったままくるりとこちらに振り返る 「し、静磨、奇遇だな………」 「あ、あぁ」 何となくギクシャクしてしまう 少し戸惑った様子で挨拶をする輝は、困りながらも優しい笑顔を俺に向ける 輝とはあの時会って以来、昼休み等も共に過ごしていながらなかなか話という話が出来ていない それに輝の恋人である高村とも、全くと言っていいほどコミュニケーションを取れていなかった それがまさか、こんな所で会うなんて 世間が狭いとはこのことだろう それから輝の提案で、俺たちは再び2人で会話をする機会を設けることにした 店長に頼んで休憩を早めてもらい、エプロンを外して輝が待つ外に出る そして近くの小さな公園に行き、この間のようにベンチの右側に俺が、左側に輝が座った 「お、そうだ、これやるよ」 「あ、あぁ」 「翔に買ったんだけど、溶けちゃうからさ」 「そうか、何か悪ィな」 輝が持っていた白いビニール袋から大きなアイスバーを取り出し差し出してくる 一瞬受け取るのを躊躇するも、こんな風に食べ物を貰うのが何だか懐かしくて結局それを受け取る そして同じタイミングで袋を開け、2人揃って白いアイスバーに色気のない食い付き方をする そんな中、ふと思い出した こいつがお袋に母親を通じて仕事を紹介してくれたこと そのおかげでお袋は良い待遇での仕事環境にありつけ、俺もバイトを減らすことが出来た 元はと言えば、全てこいつのおかげだ 「輝、ありがとな」 「へっ?急にどうしたんだよ」 「お前のおかげで、バイト減らせるようになった」 「あ…………」 ちゃんとお礼を言えていなかったことを思い出し、俺はその優しい瞳をじっと見つめてお礼を言った くすっと笑う輝に真っ直ぐな気持ちで言葉を放つと、少し照れたように頬を赤く染める だがその輝の手に、気になるもの さっき薬局で手に持っていたものは、俺が店長と話をしている間に購入したらしく、うちの店の半透明の袋にそれが入れられている 0.01と書かれた赤い箱 何に使うものかは分かってる 「はは、これ気になる?」 「い、いや別に、お前昔から持ってたろ」 俺の視線に感付いたのか、恥ずかしげもなくそう問い掛けて袋をがさりと揺らす輝 それを気にしているなんて何となくガキっぽくて別にそうじゃないと否定するも、輝が全てを見透かしたような瞳で俺を見つめてくるので都合が悪くて唇を噛む 「………じゃあこれを、誰に使うかが気になるんだ」 「っ…………」 だがまるで俺の心を読んだかのように、輝は俺の心中を言い当てた 頭の中で高村の姿が浮かぶ 5月に転校してきたらしいその男は、色白な肌に細身の体つき やたらと目を引く目力の強い大きな瞳に清潔感のある身嗜み そいつとはほとんど話したことはないが、いつも健の菓子を取り上げては口煩く叱っている様子が記憶に新しい 輝は恥ずかしげもなく俺に事実を告げると、エッチだなんだと言って浮かれた様子で無邪気に微笑んだ 思わず顔が赤くなってしまい、輝の逞しい肩をごつんと殴る この、オープンスケベ野郎が……… 「な、オレたちの馴れ初め、聞きたい?」 「あ?」 「翔とのこと、色々聞かせてやるよ」 「なっ……お前が話してえだけだろうが……」 すると今度は、どこかワクワクしたような表情で俺にそう尋ねた “馴れ初め”という言葉ですら何だかいやらしく聞こえてしまう俺の耳はあっという間に真っ赤になり、それを隠すことで精一杯 尋ねておいて俺の答えを聞く気は無さそうだが、何だか嫌な予感がする こいつ、昔から外面は良いが俺にだけは妙に素で突っかかって来るからな 「は、話したいなら話せよ………」 「よっしゃ!」 仕方なくそう言うと、隣に座る男は無邪気にガッツポーズをしてにっこりと笑う そしてまた色気のない食い付き方でアイスを貪ると、背もたれにぐっと背中を付けて話し始めた

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