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アキの“最後”

「ったく、遅い………」 アキの自宅で、ひとりハンバーグを作る俺 もうソース以外は完成してしまっているというのに、ケチャップを買いに行ったアキが未だに帰って来ない コンビニまで、そんなに遠くないって言うのに…… 逃げるように出て行ったアキに多少の怒りを覚えたが、それと同時に心配にもなってくる なんせアキは道ゆく人の目を惹きつけるほどの美形男子 もし外で誰か魅力的な女性にでも誘惑されていたら、と思うと何だか体が震える 「も、もうっ……!」 結局心配になって、俺はエプロンを外すと手っ取り早くズボンだけ着替えてアキの家に置いてあるスペアキーを使い外に出た アキの馬鹿野郎 戻ってきたら、お説教だ アキの家から一番近いコンビニの方角へと向かってとことこ歩く 一応どこにいるかメッセージを送っているが、今のところ既読は無い 「ったく……」 少し足を速めて早歩きでコンビニに向かう コンビニにたどり着き店内を一通り歩き回る だがアキの姿は無い さすがにアキがここに来たかなんて、犬でも猫でもない俺には分からないので、一応ケチャップを1つ買ってコンビニを後にする コンビニを出て、きょろきょろと左右を見回す だがここから、どこに向かえばいいのだろう 本当に少し心配になって来たし、出来れば早く帰って来て欲しいのに そう思った時 「ねぇ、さっきのイケメン見た!?」 「見た見た!公園のベンチでアイス食べてた!」 「モデルみたいだったよね!?」 「もう1人も何か顔怖かったけどイケメンだったよね!」 「髪真っ赤だったけどね!」 俺の横をすれ違う2人の女子高生 その女子高生たちはきゃっきゃと何かについて盛り上がっており、顔を見合わせて後ろを振り返っている イケメン……… それに、赤い髪の顔が怖いやつ…… それってもしかして…………… 俺は女子高生たちの話で、ふっと何かを察した 公園でアイスを食べているモデルのようなイケメン それに、顔の怖い赤毛のイケメン その2人の人物に、俺は物凄く覚えがある そして彼女たちが顔を向けた方向へ体を向け、早足で歩き出した 「あっ、アキ…………」 彼女たちが視線を向けた方向へしばらく歩くと、視線の先に小さな公園があるのを見つける もしかしてと思いながらその公園に近付くと、俺に背を向けるようにしてベンチに座る男が2人 大きくて広い背中は抱かれた覚えのある体 隣の赤い髪だって、最近よく見るイケてるヘアスタイル 間違いなく、アキと六条くんだった 思わず声を上げてアキの名前を呼ぼうとする俺 だが2人はどうやら仲良さげに会話をしているようで、何だか邪魔をするのも忍びなく思った俺は一度口を閉ざす そして気配を殺して2人の会話が終わるのを待とうと木の影に身を潜めたその時だった 「お前は高村の、どこに惚れてんだ」 「お、オレぇ?」 「あのお前が誰かに惚れたんだ、相当すげえ奴なんだろ」 ふと耳に、2人の会話が入って来た 六条くんは“高村”と俺の名前を口に出し、アキはそれに少し戸惑ったような声を上げる そして普段は聞かない饒舌な喋りで、六条くんはアキに何かを問い掛けている お、俺の話…………? 盗み聞きは良くないと、心のどこかではちゃんと分かっている だけど俺の話をしているなんて、気になって気になって仕方がないでしょ もう少しだけ、と心の中で言い訳をし俺は2人の会話に聞き耳を立てた 「翔はさ、オレに“普通”をくれたんだ」 「普通?」 「そ、追っかけ回されて心身共に疲れていた日々から解放してくれた」 「…………そうか」 だけど俺の心の中の言い訳なんてちっぽけに聞こえてしまうほどの、アキの真剣な声色 “翔”と呼び慣れたように口に出す俺の名は、心なしか柔らかい響きを含んでいる アキ……………… ちらり、とベンチの方に視線を向けるとアキの横顔は柔らかく微笑んでいる 隣の六条くんも、いつもの硬い表情とは少し違う穏やかな笑みを浮かべているような気がする 「それにさ、オレを絶対に否定しないんだ」 「そうか」 「ん、それに翔は辛い時は側にいて寄り添ってくれて」 「………あぁ」 「オレ、まさか恋愛でこんなに幸せになれるなんて思ってなくてさ」 はじめて聞いた、アキの気持ち アキはいつも俺に好きだよと素直な気持ちをくれる もう何度言われたかも忘れてしまうくらいに、俺に好きだと言ってくれる だけど俺のどこが好きなの、なんて聞けないし、好きだと言ってくれているのだからどこが好きなんて気にも留めなかった そんなアキの気持ちをはじめて聞いて、胸がとくんとときめいていく 俺との恋愛が、アキを幸せにしているんだ 改めてアキの口からそう言われると、胸がどきどきして温かくなっていく すると 「翔を、オレの“最後”にするつもり」 はっきりと聞こえた、穏やかなアキの声 そして“最後”の言葉 なぜだかじんわりと涙が溢れてくる 声を漏らさないようにぐっと唇を手で押さえ、必死に声を殺す その涙はやがて俺の頬を伝ってぽたりと数滴流れ、俺はそれを必死に腕で拭う 「お前、本気で高村が好きなんだな」 「当たり前だろ、オレ本気だよ」 「すげえな、あいつ」 「ああ!翔ってすげえの!」 真剣な声色とは少し色の違う明るい声 その声は俺に対して“本気”だと言った この平凡な俺を“すごい”と言った そんなアキの言葉に、俺は人知れずまた涙を溢した

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