ぐしぐしと涙を腕で擦り無理矢理拭う 目の下のあたりで伸ばした水分を、俺はぶんぶんと首を振って乾かし再び息を潜める な、何だか出て行くタイミングを見失ったな…… 「あとはな、笑った顔が可愛いとこと…」 「あぁ」 「照れ屋でオレに対して気が強いとこ」 「あぁ…」 「それと、ありがとうとかごめんをちゃんと言えるとこ」 俺が聞いていないと思っているのか、アキは六条くんに向かって所謂“俺の好きな所”を次々に挙げていく それに逐一頷き相槌を打つ六条くんが、そろそろ聞いてる側も面倒臭くなっているのではないだろうか 六条くんの声が、だんだんと疲れて来ているようにも聞こえる な、なんだこれ…………… 聞いてるこっちが死ぬほど恥ずかしい………っ！ 「それとな………」 「アッ、アキ…………！！」 「うわっ！」 もうこれ以上黙って聞いてはいられなくて、俺は羞恥心に任せてアキの前に飛び出した 俺がアキの言葉を遮ると、アキは驚いたように声を上げて肩を震わせる は、はぁ…………やっと静かになった……… なぜか少し疲れてしまったが、もうそろそろお話も終わりにしてもらおう これ以上話されては、俺の身が持たない 「翔、迎えに来てくれたの？」 「おっ、お前が遅いから…………！」 「ごめんごめん、静磨と話し込んじゃってさ」 「そっ……それは、いいけど………」 アキが座ったまま俺を見上げて眉をひそめるようにしながら軽い謝罪の言葉を口にする その手にはケチャップが入っているであろう白色のコンビニ袋と、よく分からない赤い箱が入った半透明の袋が提げられている ケチャップ買ったのか………… 被っちゃった………… 「すまんな高村」 「へっ……！？」 「輝取っちまって」 「いっ、いや！全然…っ！」 すると六条くんが、至って普通の様子で立ち上がり俺に謝った 何だかこんな風に会話をするのはほぼはじめてに等しくて思わず身構えてしまう だがそんな六条くんは、思ったよりもフレンドリーに俺の名前を呼んでくれる はじめて会った時よりもにこやかになった表情に、怖さはさほど感じない 「ろ、六条くんはこの辺に住んでるの……？」 「いや、バイトでな」 「そ、そっか……！お、おつかれさま…！」 「あぁ、ありがとな」 柄にもなく照れ照れとしながら、六条くんとの言葉のキャッチボールをする あれだけ怖がっていた人と、ここまで上手く会話が出来るのが嬉しくてつい舞い上がってしまう アキがベンチから立ち上がり俺のすぐ側に立つ そんなアキも、嬉しそうな顔をして俺たちの会話を見守ってくれる 「“静磨”でいいぞ」 「へっ………？」 「くん付け、しなくていい」 「あっこら静磨！翔を口説くな！」 「口説いてねえよ」 すると六条くんから、俺への提案 今まで何と呼んだらいいのか分からなかったし、アキのように下の名前を呼び捨てにしていい相手なのかも微妙だった だけど六条くんから、俺に歩み寄ってくれたんだ アキがからかうように牽制すると、六条くんは見事な切り返しでアキに突っ込みを入れる 2人の慣れ親しんだやり取りに、俺は人知れず頬が緩む 「悪ィ、仕事の時間だ」 「あ、そっか！悪いな静磨、話し込んじゃって」 「いや、こっちこそすまんな」 「ありがとな、話聞いてくれて」 すると六条くんがスマートフォンで時間を確認し、そろそろ仕事だと切り出した それに反応したアキは、慣れたように六条くんに謝ってお礼を言っている アキの馬鹿、仕事の邪魔して話をしていたなんてこれはやっぱり帰ったらお説教が必要なようだ 「また、学校でな！」 「あぁ、高村も、またな」 「あっ……え、えっと……またね…静磨……？」 「おう」 そして立ち去ろうとする六条くんにアキが手を振る 六条くんはそれに頷くと、今度は俺に視線を向けてまたなと言って微笑んでくれる 思わず驚いてしまい口下手な感じになってしまったが、はじめて彼を“静磨”と呼べた 恋人の親友と仲良くなれたことが、俺は意外にも物凄く嬉しかった 「あ、そうだ、静磨！これやるよ！」 するとアキが、公園の出入り口に向かって歩き出す静磨に向かって手に持っていた半透明の袋を投げた びゅんっと飛んで行く袋は、赤い何かを揺らしながら赤毛の男へと飛んで行く 「あ？」 「それ、いつか使うかもしれないだろ？」 「なっ………お前……………っ」 「オレらサイズ多分同じくらいだし問題ないからさ！」 それを静磨が片手でパシッとキャッチする 俺はよく分からず首を傾げるが、静磨はそれが何かを分かっている様子で顔を赤く染める サイズがなんだと言っているのも俺にはよく理解が出来ないまま、俺は赤くなった静磨の顔を見つめた そして静磨は、アキに渡されたものをぎゅっと握るとどこか恥ずかしそうにくるりと顔を背けてて早足で去って行った 「アキ、何あげたの？」 「あれ？コンドーム」 「なっ………！こ、こんっ……」 「あいつもいつか使う日が来るかもしれないだろ？」 アキに何気なくさっき投げたものを尋ねてみる するとアキはケロッとした様子であれが性交渉に使われる道具だと言って、おどけたように笑う ア、アキはいつの間にそんなものまで買って………！ と、言うかサイズってまさかそれの……… 「な、何か複雑…………」 「お？どうした？」 今日はじめて打ち解けられた相手の、見たこともないモノのサイズを知ってしまい俺はなんとも複雑な気分になってしまった てか静磨もアキと同じくくらいのサイズなのか…………？ どいつもこいつも、でか………………