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特別扱い

網走先生から聞かされたアキの噂に、俺は疑問を抱き首を傾げていた あっさりとした前戯にピロートークは無し 行為が終わるとすぐにひとりでシャワーを浴びて キスだってほとんど無し そんなの、俺の知っているアキじゃない アキの前戯はねっとりとしていて 行為が終わると俺を労りながら身体中にたくさんのキスマークを残す 最中は、唇の皮が剥けるほどのキスを山ほどする アキが俺を残してシャワーに行ったことなんて、今まで一度だって無い 「そ、その噂、何かの間違いじゃ………」 「えっ?」 「アキのエッチが冷たいだなんてそんな……」 「…………ふーん……?」 俺は先生に聞かされた噂を訂正しようと口を挟む そして目の前でにたにた笑っているこの人に向かってアキの噂を否定すると、一度不思議そうな顔をするも今度は目を細めていやらしく微笑む アキのエッチが冷たい? そんなの、間違い決まってる いや、もしかして女子と男子には対応の感じ方に差があるのだろうか 自分の中でなんとか答えを見つけようと腕を組み首をひねる だがやっぱりアキに対して冷たいと思う所なんてひとつも無くて、俺の思考は八方塞がりだ だがその答えは、目の前でにたにたと笑うこの男によっていとも簡単に解決されてしまう 「翔ちゃんだけが、特別なのよ」 「へ……………?」 先生の口から溢れるようにぽろりと出てきた“特別”の言葉 突然クイズの回答を発表されてしまったみたいな感覚が俺の頭の中で広がっていく 再びぽかんと口を開けっぱなしにしながら先生を見つめると、ふふっと不敵に笑って目を細めている 俺だけが、“特別”………………? それって、どういうこと……………? 「翔ちゃんにだけ、優しくして」 「あ………」 「翔ちゃんにだけ、身体中にキスマークを付けて」 「あぅ……………っ」 「翔ちゃんにだけ、本気ってこと♡」 「ひぁっ…………!」 椅子から立ち上がった先生が、机を挟んだままじりじりと距離を詰めてくる そしてゆっくりと、一言一言を重たく紡ぎながら少しずつ俺に近付いて来る 体が固まって身動きを取れない俺 そんな俺の鎖骨のあたりのキスマークをちょこんと指先でつつくと、次はシャツの上から右の乳首をむにゅっと指先で潰される 思わず高い声が出てしまい、俺は咄嗟に自身の腕で胸を隠して守る だがそんな間も、俺の頭の中は先生から放たれた言葉でいっぱいだ 俺に“だけ” そう言われた言葉と今までの話を、足りない脳みそで必死に合わせて組み立てる すると、俺のあまり賢くない頭でも割りかし簡単にひとつの答えを導き出した アキの噂は本当 だけど俺だけ“例外”の扱いを受けていた 今までの彼女にどこか冷たかったアキは、この平凡で可愛くもない男の俺だけを“特別扱い”している 「俺に、だけ……………」 それが俺の導き出した答え その答えが頭に浮かびしっかりとした文章として組み立てられた瞬間、俺の顔がまるでボンッと噴火するように真っ赤に染まる 耳からは見えない煙が立ち込め、皮膚は首まで熱くなる 俺だけが、アキから特別扱いを……… 先生に助言をもらいながら自ら導き出した答えは、俺に大きな衝撃を与えた 顔を真っ赤にしてふにゃふにゃしている俺を見つめて、網走先生がにっこりと笑う 「んふ、分かったみたいね♡」 「は………はい…………………」 「ヒロちゃん、翔ちゃんのことが本気で好きみたいよ」 「うう………………」 アキの過去の恋愛遍歴を聞いて、傷付く覚悟をしていた だが結果は一周回って幸福度アップ アキに特別気に入られているという証明を、自らの手でしてしまったのだ 最初の様子とは打って変わってぽやぽやとハッピーなオーラを振りまく俺 手汗はいつの間にか引いている 「だからもし、翔ちゃんもヒロちゃんに本気なら…」 「?」 「プラス1回、させてあげてみたらどう?」 「あ………………」 だが本題から少し逸れてしまっていたことに、今になって気付く 話題を戻した網走先生は、優しくまったりとした口調で俺に提案をしてくれた そう、だよな……………… アキがこれだけ俺を特別扱いしてくれているんだ 俺だって、アキの恋人として応えてあげなきゃ アキのために、俺も成長するタイミングが来たんだよな 「お、俺っ、アキのために頑張ります……!」 「ふふ、ヒロちゃんきっと喜ぶわよ♡」 気合が入った俺は、ぐっと椅子から立ち上がり妙なガッツポーズを決めてそう宣言した 椅子に座った先生は、そんな俺をにんまりと笑いながらコーヒーを啜っている な、なんか頑張れそうな気がしてきた………! アキのためだもんな 俺も少しは、アキを労わらなきゃ アキが過去の恋愛を忘れるくらい夢中になれる、最高の彼氏になるんだ……! 「先生、ありがとうございました!」 「んふ、またいつでも来てちょうだいね♡」 「じゃあ俺、教室に戻ります!」 「はぁ〜い♡」 麦茶の残りをぐっと飲み干すと、空のグラスを流しに置いて俺は先生に挨拶をした そして俺らしくない元気な態度でお礼を言うと、ぱたぱたと手を振って軽い足取りで保健室を後にした 「……壊れないように、頑張ってね………♡」 そう呟いた網走先生の言葉が、俺の耳に入ることはなかった

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