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脳内シュミレーション
次の日
「な、帰りに本屋寄ってもいいか?」
「うん、欲しい本があんの?」
「そう、今読んでる小説の新刊が最近出てさ」
「へー……面白いんだ」
「後で翔も読んでみる?」
いつものように駅のホームに並んで電車を待ち
いつものように何ら変わりない日常会話
アキが鞄からブックカバーの付いた小さな小説を取り出して、カバーをめくり表紙を見せてくれる
どうやら高校野球が題材の青春もののようで、アキが気に入っているのなら俺も少し読んでみたいと思う
俺はアキの問い掛けにこくんと頷き、アキとの距離をほんの少しだけ縮める
これもいつもと変わらない、日常風景
きっと、というか絶対に今日も電車の中ではぎゅっと守ってくれるし俺自身もそれを望んでいる
なぜならそれが、俺たちの日常だからだ
だけど今日は、いつもとひとつ違う所がある
「今日、泊まってく?」
「……………うん」
「しても、いい?」
「…………………………うん」
アキからの、お泊まりのお誘い
公共の場であることを考え直接的な表現は避けているが、これはエッチのお誘いだ
俺がアキの言葉に少し遅れるようにして頷くと、アキは小さくやった、と呟いて目を細めにっこり笑う
そして一歩俺に近付いて、俺との距離を縮める
いつものように、さりげないお誘い
これには少しずつ慣れて来て、誘われても顔が赤くならないようコントロールする術もだんだんと身に付いてきた
だけど今日は、そうもいかない
「あれ?顔真っ赤」
「ま、真っ赤じゃない………っ」
「あはは、りんごみてえ」
「もうっ、ちょっと暑いだけ……!」
普段なら何事もなかったかのような顔で、ふんふんと鼻歌を歌う余裕まで出て来たというのに
今日の俺の顔はまるでウブな中学生の如く真っ赤でりんごみたいだ
なぜなら昨日、網走先生に相談したことをずっと考えていたから
アキが俺との性交渉に満足出来ていないこと
それを意を決して先生に相談すると、とても親身になって話を聞いてくれた
だから先生に助言を頂いた通り、俺は頑張る
俺を特別扱いしてくれているアキのために、次こそ頑張ろうと意気込んでいた所だったのだ
き、今日は2回する…………
い、いや、アキのためなら何回だって…………
あ、やっぱそんなにたくさんは無理……俺あんまり体力に自信ないし………
俺の頬をちょんちょんとつついてからかってくるアキの手をペッと振り払い、赤くなった顔を背ける
そして自分の両頬に手を当てて、籠もった熱を逃すようにペチペチと叩く
「ほら、来たぜ」
「うう………」
「今日もぎゅってするからな?」
「…………ウン」
自分がアキを満足させようと意気込んでいる所を悟られないよう、必死に隠しながらアキの言葉に頷く
少し吃ってロボットのように片言になってしまった気もするが、一応セーフだろう
よし、今日1日この気持ちがアキに悟られないようにするのが、本日の俺のミッションだ
「翔ー、さっき売店で………」
「ひゃいっ!?」
「お、おお?ど、どうしたよ………」
「い、いや、何でもない……っ」
1限目の2限目の間の中休み
席に座ってアキが貸してくれた小説の1巻を読んでいるふりをしながら、俺は今夜のことを脳内シュミレーション中だ
すると突然そのアキに声を掛けられ、思わず声が裏返って間抜けな感じになってしまう
逆に驚いた様子のアキに必死に何でもないと言い返すと、そっかと笑って俺の机に野菜ジュースを置く
平然を装いアキに悟られないようにするのが今日のミッションなのに、意識をすると逆に墓穴を掘りそうだ
どうやらさっき売店で…の続きは、俺が好きな野菜ジュースの期間限定かぼすフレーバーが売ってたから買って来た、だったよう
視線をアキの顔に移すと、アキは俺に褒めてもらえるのを待っているかのようにぶんぶんと尻尾を振って待てをしている
「あ、ありがと…………」
「へへ、おう!」
そんなアキに手招きをしてしゃがませ、真っ黒な髪をよしよしと控えめに撫でてお礼を言う
するとアキは嬉しそうに目を細めて、にんまりと笑って満足げだ
うう、可愛い顔しやがって…………
アキが俺とのエッチに満足したら、またこんな風に笑ってくれるだろうか
3限目の授業中
「よし、じゃあこの問題前で解いてくれる人ー」
「……………」
「え、誰もやってくんないの?」
数学の授業中
俺は頬杖をついて窓の外を眺めながら、今夜のことを脳内シュミレーション中
アキを2回目に誘うには、どうすればいいのか考え中だ
や、やっぱ脚を開いて…………
い、いや、あんまりはしたないと引かれるかな……
「先生、高村がよそ見してまーす」
「なにー、じゃあ高村ぁ、前来て問題解いてー」
「はへ……………」
「何ふやけた顔してんだ、早くこっち来い」
するとどこかで、名前を呼ばれた気がする
アキかな…いや、でもアキは俺のこと翔って呼ぶし、じゃあ誰だろう…………
ぽかんと口を開けたまま、虚な瞳で顔を正面に向けた
すると数学の先生が腕組みをして俺をじっと見つめているような気がする
あ、あれれ……………
「何ぼーっとしてんだ、早く問題解いて」
「へっ、お、俺っ!?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「あはは、高村全然話聞いてねー!」
どうやら俺の名前を呼んでいたのは先生だったようで
まだ手を付けていないし手を付けても分からない難しい文章問題を指差して俺に指示している
慌てて立ち上がると、クラス中が間抜けな俺を発端に笑出し一気に耳が騒がしくなる
や、やべー……………
完全に上の空だった
それもアキをどう誘うか考えていたせいだなんて、何ていやらしいんだ俺の脳みそは
ちらりとアキに視線を向けると、アキもみんなと同じようにケラケラと笑っている
そんなアキを見て、俺の顔はますます赤くなった
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