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夏休み新イベント発生
次の日
いつものように、アキと並んで駅で電車を待つ
人の多い駅では蒸し暑い気温がさらに暑く感じられ、俺はパタパタとシャツの襟元を揺らしながら微かな風を求め唸る
「う〜〜〜暑い…………」
「そんな翔にはこれをあげよう」
「ん………?扇風機?」
「ハンディファン〜〜!」
すると暑がる俺の隣で至って涼しい顔をした男がひとり
その男はどこからともなく手持ちの扇風機を取り出してスイッチを押し、俺に緩やかな風を送り出す
そしてそれを俺に手渡すと、もう一つ同じものをカバンから取り出して自身の顔に向けにっこりと微笑む
こんなものまで…………………
「お前、ドラ○もんみたいだな……」
「あは、気が利くって言ってくれよ」
「…………ありがと」
「ん、どういたしまして」
貢ぎ癖のある男からの、また新たな贈りもの
どうやら自身の物欲はほとんどないらしく、今まで俺に貢いでくれたものもアキ本人の自腹によるものらしい
本当、これじゃ弁当くらいじゃ対価にもならないな…
そう思いつつもアキの完璧な気遣いに甘えてしまう心地よさに溺れ始めてしまっている俺はもっと重症かもしれないが
「なぁ翔、ちょっと提案があんだけどさ」
「ん?」
するとそんなアキがぱっと体ごと俺の方を向き至って普通の落ち着いたトーンで話題を変えた
俺はアキの低く穏やかな声に耳を傾け、扇風機の風を浴びながらアキの顔を見つめる
その彫刻のように整った顔面は、何かいい案を思い付いたように瞳を輝かせている
どうやらその感じだと、夏休みの計画か何かだろうと俺は察する
「夏休みさ」
「うん」
「静磨と健も誘って花火大会に行かないか?」
「花火大会?」
そう言ってアキはニッと歯を見せて明るく笑った
それからアキが提案の詳細を話してくれた
夏休みの終わり頃、アキと静磨の地元で毎年開催される花火大会があるらしい
それに健と静磨、そして静磨の兄弟たちも誘って一緒に行かないかという提案だった
「いいな、花火大会」
「だろ?静磨は海にも行けないしさ、せっかくなら一緒にどうかと思って」
「うん、いいと思う」
「あいつの地元に近いなら、子供がいても安心だしさ」
その提案は、アキの優しさを大いに感じる計画だった
一緒に海に行けない静磨のため
そして静磨と海に行けない、健のためでもある
聞くところによると静磨は5人兄弟の長男らしく、花火大会に弟たちも連れてくれば心配もないし俺たちで分け合って面倒を見ることもできるだろう、と優しげな表情のアキは語った
「あいつの弟、一番下はまだ1歳なんだぜ!」
「1歳!?ちっちゃっ」
「だからさ、たまにはオレたちで面倒見るの手伝ってやろうぜ!」
「そ、そうだな…!」
そう言ってにっこりと微笑むアキ
優しげなその表情からは親友である静磨への思いやりが感じられて、俺はますますアキが好きになる
人を思ってやれるアキは、何より誇り高い
だけどそんなアキを素直に褒めてやることができない俺は、照れ隠しをしながら“ご褒美”なんて名目を付けてアキに向かって扇風機で風を送った
その日の4限目
「はい!席着いて静かにしてー!」
「せんせー、今日なにすんのー?」
「はいはい後で話すから、静かに!」
「はぁ〜い」
教卓の前には担任の海老名先生
小柄な体格とふんわりとウェーブがかったボブヘアのその女性は、おっとりとした顔に似合わず溌剌と高い声を上げてクラスの喧騒を鎮める
今日は英語の授業ではなく、夏休み中の注意事項やその他のお知らせをすると前もって連絡が回っていたのが今朝のこと
みんな何かイベントがあると踏んで、小さな声で隣の席のやつとヒソヒソ話をして盛り上がっている
「はい!今日は夏休みの林間合宿について話します!」
すると所々で湧いていた小さな会話を遮るように教室中に響いた、甲高い海老名先生の声
その声を聞くなり教室は一瞬静かになり、そして次の瞬間ワッと一気に盛り上がりを増す
「今年もやるかな!夜のウォークラリー!」
「あたし花火したい!」
「やっぱカレーだろ!」
「おれすっげえ楽しみでもう準備しちゃった!」
な、なんだこの盛り上がりは……!?
みんなが揃って騒ぎ出す中、去年を知らない俺はひとりぽつんと口を開けてその光景を眺めるだけ
ふと教室の真ん中のアキに視線を向けると、アキもにこにこと笑って前の席のやつと楽しそうに何かを話しているご様子
どうやらあの穏やかで一見落ち着きのあるアキでも楽しみにするほど、盛り上がる行事らしい
「なぁ、健、健っ」
「ん?どうしたの?」
「林間合宿ってそんなに楽しいの?」
そんな一人空気に馴染めない俺は、隣の席でみんなと一緒になって笑っている健に小声で話し掛けた
そして林間合宿がどういうものなのかを尋ねると、健は手に持っていた漫画にしおり代わりの定規を挟んで体をこちらに向け細かく説明してくれた
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