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班決め

林間合宿 毎年8月上旬に行われる、学校全体の大きなイベント 場所は近くの山や川のある広い土地と、この期間のみ貸し出し可能な大きな宿 元は廃校になった中学校を立て替えて作ったものらしい イベント内容はウォークラリーに川遊び 夜はカレーを作ったり花火をしたり、肝試しなんかもするようだ そんな場所で行われる年に一度のイベントは、どうやら毎年のようにほとんどの生徒が楽しみにしている行事らしく健の話を聞いてクラスの盛り上がりを理解した 「そんなイベントあったんだな、知らなかった」 「前にお知らせのプリントもらったでしょ?」 「あれ、そうだっけ………」 「翔ってば意外とおっちょこちょこちょいだね!」 “ちょこ”がひとつ多いぞ、と指摘する前に俺はそんなプリントを貰ったかどうか自身の記憶を辿る すると記憶の片隅に、俺が姉ちゃんの指示で学校を休みアキがプリントを届けてくれたその中に“林間合宿のお知らせ”と書いたものがあったような気がしてくる ああ、あれか……… 何だかあの時はいっぱいいっぱいで、ちゃんと読んでなかったなぁ…………… 「はい!みんな静かにー!」 するとそんな喧騒を、再び海老名先生の溌剌とした高い声が切った 先生の呼びかけに俺はパッと口を押さえて塞ぎ、そして体を前の黒板へと向け直す 隣で健がまた後で話すね、と小さく合図を送ってくれる それにありがとな、と小声で返すと健は純粋な瞳で俺に微笑み掛けそしてくるりと前を向いた 「じゃあまず、班決めをします!」 静かになった教室でそう切り出した先生 そしてカツカツと弾みの良い音を立てながら白いチョークを握って黒板にA班、B班、C班と書いていく そのチョークの音とともに、再び教室がざわざわと騒がしくなり始める きっとこの場のみんな、誰と同じ班になるのか気になっているのだと思う もちろん俺含めて 班か…………… どうやって決めるのかな くじ引きかな それとも希望を聞いてもらえるのかな よく分からないけど、せっかくならアキと一緒がいいな そして出来ることなら健と静磨も一緒がいいな 心の中でワクワクが半分 不安が半分くらいの割合で分かれていく そんな感情に表情を変えながら頬杖をつき、ふとアキの方に視線を寄越してみる 「…………ぁ………」 するとちょうどアキも俺の方を見ていたようで、2人分の視線がバチっと重なった 思わず口を開いて小さく声を出してしまい、それが周りに聞こえていないか辺りをきょろきょろと見回す俺 幸い俺の微かな声は誰の耳にも届いていないようで、俺はほっと胸を撫で下ろし再びアキに視線を向ける 「翔と一緒がいいな」 「………こら、前向けっ」 口パクでアキがそう言ってくる みんなには聞こえないけど、俺にだけ伝わる声は俺の頬を赤く染めていく そんなアキに照れてしまっていることを悟られないよう照れ隠しで前を向けとジェスチャーするが、それでもアキはにっこりと微笑んで俺を見つめる もう…………… またそんな風に口説いてくるんだから 俺だって同じ気持ちだと、そう言えないのは俺の悪い癖だがそれでも俺に愛を注ぐアキへの愛しさは増すばかりだ たとえそれが授業中であっても例外無し むしろそれが何だかアキに特別扱いをされているような気がして、俺を優越感に浸らせていくんだ アキに向かって熱い視線を送る女子も チラチラと様子を伺うようにアキを見る女子も そんな人間が何人いても、アキの視線は俺だけを捉えているんだ 何だか多分、アキとは一緒の班になれそうだ 確信はないが、心なしかテンションの上がっている俺の気持ちはポジティブだった きっとこの班決めくらいは上手くいくはずだよ、と心の中で神様の声が聞こえる感じがする 俺は人知れずポケットの中でアキからもらった合鍵を握りしめて前を向いた だがそんな自信、元より根拠のないものだったんだ 「あーあ、翔とは別の班かぁ……」 「べ、別に俺は別の班でもいいし……」 「えー、オレは翔と一緒が良かったんだけどな」 「う………………」 くじ引きの結果、俺たちは見事に別の班に振り分けられてしまった 俺がC班で、アキはA班 放課後、何気なく俺の席の周りにいつもの4人で集まる俺たち アキがぐーっと背伸びをしながら困ったように眉を下げて笑っている だがその隣では、静磨がどこかムスッとしたような表情で突っ立っており椅子に座る健もいつもより静かだ そう、実は俺たちだけでなく、健と静磨の2人も分断されてしまったのだ 「静ちゃんとは別の班かぁ…」 「オレは静磨と一緒か………あーあ……」 「輝、健とチェンジしろ」 「オレだって出来るもんならそうしたいさ」 そう言ってなぜかアキと静磨は睨み合い、そしてお互いに顔を見合わせるとんふふと何とも言えない表情で作り笑い 公平で厳正なるくじ引きの結果 俺と健がC班、アキと静磨がA班になったのだ 「オレ、班が違っても翔に会いに行くからな!」 「も、もう……いいってば、べつに………」 「健、俺もお前んとこ行くからな」 「うんっ!おれも静ちゃんに会いに行くねっ!」 するとアキがおもむろに俺の手をぎゅっと握り、そして暑苦しいくらいの勢いでそう言った 本当は嬉しかったがそれでも頷いてしまうのが恥ずかしくて、俺は無愛想に照れ隠しをしてしまう その隣でアキに便乗するように静磨が健の頭を撫でると、俺とは違って健は素直にそれを喜んだ まるで女子のようなやりとり 男の俺たちがすると何だか気持ちの悪い会話だ だけど俺たちは普通の男友達とは違う、本物の恋人同士なんだもの このくらいは仕方がないだろう 不意にアキの方をじっと見上げると、アキはその整った顔を少し困らせながらも優しく微笑みかけてくれた その柔らかな笑顔に、強張った俺の表情筋もゆったりと緩んでいく 本当はアキと一緒になれなくて悲しかったが、それでもアキは俺に会いに来てくれると言ってくれたので 俺はこの林間合宿を、大いに楽しもうと心に決めた

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