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高村姉弟デートデイ

「翔、買い物付き合って」 夏休み3日目 終業式の日はアキの家にお泊まりをし昨日自宅に戻った俺に、唐突にそう言うのは俺の姉みさき ソファに座って朝の情報番組の占いコーナーを見ていた俺はくるりと姉に視線を寄越す そこにはいつもより気合の入ったバッチリメイクの巨乳女がひとり仁王立ちで立っている 「え、なんで」 「荷物持ち」 「やだ」 姉ちゃんからの提案に俺はぶんぶんと首を横に振る この人が俺を誘って買い物に行き荷物持ちをさせる時は、大概重たいものを買う時だ 今まで何度、この荷物持ちのせいで筋肉痛に見舞われたことか 俺が首を横に振るのを見ると、よく似た顔はムッとふくれている だがそんな顔もすぐに得意げなしたり顔になり、なぜか俺の頭にポンとその細い手を乗せた 「水着欲しいんだっけ?」 「あっ………」 「あとサンダルと?スマホケースだっけ?」 「あうぅっ…」 そして反り返って座る俺に、数々の誘惑を齎す 姉ちゃんはひとつ言葉を紡ぐたびに俺の頭をぬるんと撫で、猫撫で声で誘惑していく 俺の中で重たい荷物持ちと物欲が天秤にかけられ右へ左へ揺れ動いている 重たい荷物を持てば、姉ちゃんがたくさん物を買ってくれる だけどこれを断れば、俺は家で悠々自適に過ごせる代わりに物欲の発散は不可能となる 「………………行く」 結果俺は、多少の苦労と引き換えに姉とのデート権を獲得 柔らかいソファにふんぞり返っていた俺が重たい腰を上げ立ち上がると、姉ちゃん想定通りといった顔でにんまりと笑い俺の顔をうりうりと撫で回す 「着替えておいで」 「服選んで」 「仕方ないわね、早く行くわよ」 「はぁい」 そうして俺は姉ちゃんと共に自室へと上がり、壊滅的な私服のセンスを正してもらいながら本日のコーディネートを組んだ 着替える時に真新しいキスマークを見られて揶揄われたことは、言うまでもない 「ここ、最近出来たばっかなの」 「へぇ」 「あとでアイス買おっか」 「うん」 午前10時過ぎ 電車を乗り継ぎたどり着いた先は、前にアキとの初デートで来た場所からほど近くにある賑やかな繁華街 所謂若者の街のようなそこは、始まったばかりの夏休みを満喫する同世代の人間で溢れ返っている そんな繁華街を、姉ちゃんの腕にぎゅっと引っ付き手を繋いで歩く 俺の首にはアキがくれた小型扇風機がぶら下がっている 俺より10センチ近く身長の低い姉だが、高いピンヒールによりその差はほぼ0センチ 弟の俺が言うのも何だが、びっくりするほどスタイルが良い 姉弟で手を繋ぐなんておかしいと言われることもあるが、俺たちにとってはこれが普通 方向音痴だった俺の迷子対策から始まった むしろ指摘されるまでこの世の全ての姉弟がそうだと思っていた 「あ、これあんたに似合いそうね」 「ええ、ちょっと派手じゃない?」 「あんた地味と派手しか言葉知らないの?」 「そ、そんなことないし……」 たくさんの人が行き交うファッション街 チェーンの服屋に入ると、姉ちゃんはさっそく夏の新作であろう派手めな服を手に取って俺の体に当てる 俺があまり良い反応をしないと、姉ちゃんはううんと唸りながら服を元の位置に戻す それから姉ちゃんは俺に似合いそうだと思った服をポンポンとかごに入れ、自分の買い物よりも先に俺の夏服を購入してくれた 「姉ちゃんが買いたいものって何なの?」 「本と靴とかき氷機、あと机」 「机!?かき氷機!?」 「全部あんたが持つんだからね」 俺用の夏服が入った紙袋を受け取りながら、姉ちゃんの目的を聞き出す すると聞いてしまったことを後悔するような豪勢な目的の品に俺は自身の筋肉の死を悟る その場で一瞬抜け殻のようになっていると、それでも姉ちゃんは容赦なく俺の手を引き次の店へずんずんと足を進めた 「ふぅ、ちょっと休憩」 「俺アイス買ってくる、姉ちゃん何がいい?」 「抹茶とチョコミント」 それからしばらく2人で買い物を続け、時間は昼の12時を回った頃 ビルの中のフードコートにどさっと大量の荷物を置いて一旦休憩 俺は涼しい顔で椅子に座る姉を残してアイスのおつかいに走る この2時間で、たくさんの買い物をした 姉ちゃんは俺が欲しがっていたスマホケースに加え、勝手に服や帽子やその他色々なものをホイホイと買い与えてくれた 今日1日でかなりのおしゃれさんになった気分の俺は、何気なくきょろきょろと辺りを見回しながらアイス屋の列に並ぶ するとふと、目線の先の大柄な男性に視線が止まる 俺に背を向けるその人はシンプルな黒いTシャツに、髪は真っ黒でさっぱりとした短髪 その風貌がどうもアキとよく似ていて、俺は似ている人もいるもんだなあとその人を何気なく見つめてみる すると不意にその大きな体が、くるりとこちらを向いた

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