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偶然の遭遇
視線の先の背の高い男が、不意にくるりとこちらを向いた
「あれっ!?翔!?」
その大きな体がこちらを向いた瞬間、その男は溌剌とした声で俺の名前を呼んだ
その低く通ったイケメンボイスに、周りにいた人達の視線が一気に男に集まる
そして途端に辺りがざわつき始め、近くにいた女の人の殆どが瞳を輝かせてその男を見つめている
「ア、アキ!?」
そう、その男とは俺の恋人、広崎輝だった
さっぱりとした清潔感のある黒髪
目鼻立ちのくっきりした彫刻のような美しい顔面
シンプルな黒いポロシャツに身を包んだその長身の体は、服の上からでも随分と逞しいことが分かる
そんな整いすぎた容姿は、言うまでもなく周りの人々の視線を次々に奪っていく
だがそんな絶世の美男子は、アイスショップの列に並ぶ至って平凡なフツメンこと俺高村翔の方へと、まるでフリスビーを咥えた犬のように駆け寄る
「翔!すっげえ偶然!」
「び、びっくりした…アキ1人か?」
「あぁ、弟の誕生日プレゼント探しに来たんだ、翔は?」
「俺は姉ちゃんの買い物の付き添い」
アイスショップの列に並んだまま、俺は一気に近付いた国宝のような顔面の男と何食わぬ顔で話す
俺だけに見える尻尾をぶんぶんと激しく揺らしながらニコニコ笑うアキは、俺が前に進むたびにちょこちょこと小股で隣を付いてくる
こんな所で偶然会うなんて…………
何かちょっと、ラッキーかも…………
そう思ってしまったことを悟られないよう俺は普段通りを装い会話する
俺の前に並ぶ女の人もアイスショップの店員さんも、俺と会話するこの男に思わず視線を奪われている様子だが、今更なので気にしないことにする
「みさきさんいるの?どこ!会いたい!」
「あ、あっち座ってる、ほらあれ」
「お、いた!お〜い」
「ちょっ、手とか振るなよ……」
すると俺から出た“姉ちゃん”の単語に、アキはますます嬉しそうな顔をして辺りをきょろきょろと見回し始めた
俺だったら恋人の兄弟でしかも明らかに気の強い相手になんて会いたくないけどな、と思いつつ居場所を教える
すると姉ちゃんの姿を見つけたアキは大人っぽい見た目に反して無邪気に手をぶんぶんと振り出す始末
それに気付いた姉が席から手を振り返し、ちょいちょいと手招きをしているようだ
「あっ、列並ぶの変わろっか?並ぶのきつくないか?」
「な、何でだよ…大丈夫だから早く行けって」
「あはは、そっか!じゃあオレ席にいるな!」
「はいはい」
こんな時でも俺への気遣いを忘れないアキ
そっと肩に手を置かれ優しい瞳にじっと見つめられると、まるで少女漫画のワンシーンのように心臓がドキンと高鳴る
むしろなぜそこまでナチュラルにスマートな気配りが出来るのか不思議なくらいだが、俺はそれを断り大きな背中をぐいっと押した
「お待たせ……って、何かすごい仲良くなってない?」
「もう輝ったら最高よ!超面白いんだから!」
「みさきさんも最高っす!」
「ええぇ……………」
アイスを買って席に戻ると、そこには向かい合って座る見た目の良い男女が品無く爆笑していた
ゲラな姉ちゃんが口を大きく開けて笑いながらアキの頭をガシガシと撫で回している
そんな姉ちゃんに、ご注文通り抹茶味とチョコミント味のアイスが重なって入ったカップを渡すと、俺は右手に2つ抱えていたコーンカップのアイスを両手1つずつに持ち変えた
「はいアキ、お前どっちがいい?」
「えっ、オレの分も買ってくれたのか!?」
「い、いいから早く選べって、溶けるし……」
そして俺は、手に持ったアイスをアキに向け好きな方を選ぶよう命じる
俺の右手にはノーマルにバニラ味のアイスが、
左手には夏限定のクリームソーダ味のアイスが握られている
アキはこういう時結構無難なものを好む傾向があるのできっとバニラの方を選ぶだろうな、と心の中で小さな賭けをしてみる
「じゃあこっち!」
「やっぱり……」
「ありがとな!オレすげえ嬉しい!」
「アイスくらいで大袈裟だって…………」
俺の予想は見事的中
わざわざ立ち上がって、アキは俺の右手を指差した
俺は心の中で自分同士の賭けに勝ったことに小さく喜びながらアキにバニラ味のアイスを手渡す
そしてアキが座っていた場所の隣に座ると、ふぅと一息ついてアイスをちょこんと舐める
「うわっ、もう垂れてきたっ」
「ほらティッシュ、もう、こっち向け!」
「んっ」
「何でそんなとこから食べるんだよ…」
隣では豪快にアイスをかじるアキ
どうやらアイスとコーンカップは一緒に食べたい派らしく、アキはアイスとコーンカップのちょうど境目からガブリとそれに噛み付いていた
だがそんな食べ方が仇となったのか、まだ買って数分しか経っていないアイスがコーンカップからたらりと垂れてしまう
俺は慌ててティッシュを取り出しアキをこちらに向かせると、溶けたアイスの垂れる手や口元を他意無く丁寧に拭っていく
「あんたたちさぁ…………」
するとそんな隣に並ぶ俺たちを、目の前のよく似た瞳がにたにたと笑って見つめているのに気付いた
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