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やっぱりおそろい
「これなら、おそろいでもいいか?」
そう言ってアキが見せてきたものは、パイナップルの柄がたくさん散りばめられた派手なビーチサンダル
アキはそれを俺にぐっと近付け、同意を求めてくる
ビーチサンダルか…………
俺も買おうと思ってたし、このくらいなら……
いやでも、こんなに派手な柄だとやっぱり察しのいい人には気付かれてしまうかな……
いやいやでもでも、靴くらいならもし指摘されても偶然一緒だったと誤魔化すことができるかも
「うぅ〜ん…………」
「な、だめ?」
「………………色違いなら…」
「んふ、やった」
頭の中で色々な考えが巡り唸っていると、アキが耳を垂らした子犬のような表情で俺の顔を覗き込んできた
その顔がなんとも可愛くて、色々散々考えたはずなのに結局俺はこくんと頷いてしまう
そしてアキの手からオレンジ色のパイナップル柄のサンダルを奪うと、また変に口説かれないようそそくさとその場を後にした
その後姉ちゃんから色違いのサンダルを買ったことを指摘されて、俺の顔が真っ赤になったことは言うまでもない
「輝はこいつと違って力持ちねー」
「オレも少しは鍛えてるんで!」
「少しじゃこんな体になんないわよ」
「あは」
そして夕方4時
まだ明るく日差しも強いが、日用雑貨店で姉ちゃんの最後の目的である机も買ったので電車が混む前に俺たちは店を後にした
ちなみに姉ちゃんが言っていた机とは、折り畳み式のミニテーブルだった
俺は机と聞いた時にてっきり勉強机だと思ってしまって変に身構えていたのだが、その覚悟は儚く散った
それにそのミニテーブルの入った段ボール箱は、俺ではなく俺より幾分も逞しいアキの太い腕に抱かれている
「ア、アキ……いいのに………俺持つって…」
「いーの、オレにさせて」
「でも…………」
「オレが持ちたいの、だから、な?」
ガタンガタンと揺れる電車の中
恐らくアキの力なら片手でも余裕で持てるであろう段ボール箱を、アキは丁寧に両手で抱えている
しかもつり革に捕まることなく、強靭な体感で揺れる電車内でもびくともしない
結局アキに絆されてしまった俺は、しぶしぶ言葉を飲み込んでアキの服の裾をきゅっと掴み目を瞑った
何だか今日会えるだなんて思わなくて、びっくりした
この間会った時、次会うのは海水浴の日だなと言ってアキの家にたくさんおかずの作り置きをして帰ったのが一昨日の出来事
それなのに偶然、あんなところで会えるなんて
それに弟の誕生日プレゼントだなんて、ますますアキの株は上がるばかりだ
俺の姉ちゃんにもすっかり気に入られてしまったし、ますます俺の中での存在感が増していると実感せざるを得ないだろう
それにアキが提案してくれた、おそろいのビーチサンダル
こんな些細なおそろいもアキが俺に与えてくれるものだと思うと心愛しくて、俺はあのビーチサンダルを大事に履こうとこっそり誓う
「眠い?」
「ううん、大丈夫………」
「ここ、頭乗っけていいぜ?」
「………………うん」
いつも、なぜかこのくらいの時間になると軽めの睡魔が襲ってくる
すると思わずこくんと船を漕いでしまう俺に気付いたアキが、手に持っていた薄っぺらいダンボール箱を自身の足の甲の上に置く
そして俺の頭が乗っけやすいよう高さを調節すると、自身の胸をぽんぽんと叩いて俺のスペースを作ってくれた
「…………………いい匂いする…」
「あは、恥ずかしいって」
「お前いつも俺のこと嗅ぐじゃん……」
「オレはいーの」
眠気ですっかり覇気を失ってしまった俺は、アキからの好意に甘えることにした
その逞しい胸にぽすんと頭を埋め寄り掛かると、アキは優しく俺の背中を撫でてくれる
汗をかいたはずなのにアキの体からはいい匂いがして、それが何だか悔しい
いつも俺の匂いを嗅ぐくせに自分がされるのは恥ずかしいのうなので、仕返しのつもりでくんくん匂いを嗅ぐ
「輝ごめんね、翔ここ座らせる?」
「いいんです、オレがこうしたいだけなんで…」
「悪いわね、甘えん坊で」
「翔のこういうところ、すげえ好きなんです」
眠気でぼんやりとする意識の中聞こえた会話
もうツッコむ気にもならなくて、俺は大人しくアキの胸に頭を擦り付けて目を瞑る
優しく穏やかなアキの声色を注がれ逞しく温かいアキの体に支えられた俺は、揺れる電車の中浅い眠りについた
「じゃあ、オレはこれで!」
「アキ、ありがとな」
「おう!また明後日な!」
そして場所は俺の家の前
姉ちゃんのミニテーブルをうちまで運んでくれたアキが、溌剌とした声で挨拶を述べ俺にダンボール箱を渡す
少しずつ沈んでいく太陽の下で輝く、人の良い笑顔
そんなアキを見ると、やっぱりこんな雑用を押し付けてしまった申し訳なさが勝ってしまう
これは今度、アキの好きな料理を作ってたらふくご馳走してやらなければ
「輝」
そう思っていると、ずっとスマホを見つめて誰かと連絡を取っている様子だった姉ちゃんがアキを呼び止めた
手を振って歩き出そうとしていたアキは姉ちゃんの声に従順に反応し、体ごと姉ちゃんへと向ける
「あんた、今日ご飯食べていけば?」
すると姉ちゃんの口から、予想もしていなかった言葉がアキへと投げかけられた
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