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義母(仮)
「あんた、今日ご飯食べていけば?」
「えっ?」
「お母さんが福引で牛肉当てたから今日すき焼きなんだって、せっかくだしあんたもどうかと思ったんだけど」
「えっ、ちょっ……姉ちゃん……っ」
歳の離れた小学生の弟の誕生日プレゼントを買いに出掛けていた日、本当に偶然高村姉弟の買い物現場に遭遇
そのまま2人に同行することになり今に至る
翔のうちまで荷物を持って届け、学校帰りのように手を振って翔と別れようとした時だった
しばらくスマホに目を向けていた翔の姉であるみさきさんが俺を呼び止め、おもむろにそう誘った
思いもよらぬお誘い
しかも今晩の夕食はオレの好物であるすき焼きだそう
「荷物持ちしてくれたお礼もあるし」
「で、でもさすがにアキと母さんが顔合わせるのは…」
「いいじゃん、いつかは挨拶することになるでしょ」
「あ………ぅ……」
そんなみさきさんの誘いに、翔は少なからず戸惑ったような様子を見せている
そりゃそうだ、自分の母親と、内緒で付き合っている恋人しかも同性の男が顔を合わせるんだ
翔にとっては緊張するだろうし、オレだってそうだ
結婚の約束をしている今、きっといつかは自分の義母になるであろう人物との顔合わせなんだ
緊張しないと言えば全くの嘘になる
「ア、アキ……どうする……?」
「翔はオレが行っても嫌じゃないか?」
「い、嫌ではないけど…………」
隣で翔が心配そうに尋ねてくる
そんな翔の顔は姉のみさきさんのそっくりなはずなのに、今は全く違う顔に見えるほどに表情が対照的だ
オレは翔の問いに問いで返すと、翔は頬を赤く染めながら嫌ではないとそう答えた
だったらオレの答えは決まりだ
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます!」
みさきさんに向かって、オレははっきりとそう答えを返した
そして翔の手から再びミニテーブルの入ったダンボール箱を奪うと翔と一度だけ目を合わせた
そして視線で“大丈夫”と告げると、オレはみさきさんの案内で二度目の翔の自宅へと足を踏み入れた
「ただいまー」
「おじゃまします」
二度目の翔の家
翔との初デートの日、翔を迎えに来たのが一度目だ
オレは怯むことなく挨拶をしながら靴を脱ぐと、どこかから聞こえて来るおかえり、と言う声に耳を澄ます
その声はみさきさんとよく似た溌剌とした声だが、声色は穏やかそうだ
家に入った瞬間、翔の香りが部屋いっぱいに広がっている
きっと翔もオレの家に来た時同じことを思っていたのだろう
「おかえ……って誰!?イケメン!どこの子!?」
「こんにちは、おじゃまします」
「翔のか……友達の輝、買い物先で会ったの」
「え〜!?翔にこんなハンサムなお友達いたの〜!?」
するとリビングに繋がる扉が開き、中から赤色のエプロンを来た女の人がひょっこりと顔を出した
恐らく翔のお母さんであろうその人と目が合うと、その瞬間穏やかな表情は一変、まるでハイテンションになりキャッキャと騒ぎ出した
そしてとことこと小走りで廊下を駆けてくるその人にご挨拶をすると、オレの体をぺたぺたと触りながら物珍しそうに跳ねている
か、可愛い人だな…………
翔とはあまり似ていないけど、若々しくて美人だ
だがどこかで見たことのあるような顔をしているのは気のせいだろうか
「輝くんっていうのね!いらっしゃい!」
「広崎輝です、おじゃまします!」
「やだ超いい子〜!しかもイケメン〜!」
「でしょ?荷物持ってもらったの」
「どうぞ上がって!何にもないけど」
そんな翔のお母さんにもう一度挨拶をすると、ひゃーっと瞳を輝かせてまた飛び跳ねる
そしてオレの手を引き、リビングへと案内してくれる
オレの後ろでは翔が小っ恥ずかしそうに頬を赤く染め目を泳がせていた
きっと翔はまだ、恋人であるオレと母親との絡みに付いて行けないのだろう
そんな翔も可愛くて少しだけ視線を送ると、また照れたようにプイッとそっぽを向かれた
「翔、ご飯の準備手伝って」
「うん、アキはそこ座ってて」
「あっ、オレもなにか手伝いを……」
「いいのよ輝くん、お客様なんだから!」
洗面所で手を洗わせてもらい二度目のリビングへと足を踏み入れると、どうやら料理の途中だったようで翔のお母さんはすぐに台所へと向かった
そして翔にそう呼びかけると、翔もオレをソファに座らせると黄色いエプロンを着けてすぐさまお母さんの隣へ立つ
うわ……………何かこれは………
「興奮してんじゃないわよ」
「うっ」
翔がエプロンを着けてお母さんと一緒に料理をしている姿を後ろから見つめると、何だか妙な気持ちになってくる
オレの隣に座るみさきさんは、そんなオレの気持ちを見透かしたようにへらりと笑い長い脚を組む
オレはみさきさんの言葉に核心を突かれたような気がして思わず口元を手で覆った
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