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高村家の食卓

お母さんと一緒にキッチンに立って料理を手伝う翔 そんな翔の姿は、オレの心にグッとくるものがかなりあるようだ オレは緩む口元を隠すように右手で覆いながら再びその姿を眺める 「うわ………何か本当に翔と結婚してるみたい…」 「あは、あんたも結構ウブなのね」 「いやなんか……感動しちまって………」 いつもオレの家でもキッチンに立って美味しい料理を作ってくれる翔 だがそこにお母さんが加わるだけで、本当に翔の家族になり妻の実家で料理を待ち望む夫のような妙な気持ちになる 隣ではみさきさんが長い脚を組み、感動でふわふわしているオレをくすりと笑っている 「あんた本当に、翔が好きなのね」 「そりゃもう、プロポーズする約束もしました」 「うわ、マジ?早いな〜」 「他の人に取られたくないんで」 するとみさきさんがオレから発せられる異常な量のスキスキオーラでも感じ取ったのだろう そう言って脚を組み直し、なぜかぱしゃりと写真を撮られる オレはキッチンへ声が届かないことを確認すると、正直にそう打ち明ける 翔がこの場にいるときっと恥ずかしがってオレの口を塞ぐだろう だけどオレは、みさきさんにもオレが翔との未来を見据えていることを伝えておきたい きっとそうなった時、オレたちは大きな障害にぶつかるはずだ そんな時に味方になってくれる大人が、オレたちには必要だから 「じゃああんたももう、あたしの弟みたいなもんね」 「あはは!やった!オレお姉さんが欲しかったんです」 そう言って隣に座るみさきさんが、オレとの距離を少し詰めた そして再びスマホのカメラを開くと記念と言って自撮りを始める オレはみさきさんにぴたりと体を寄せると小さい画面に収まりシャッターを待ってにこりと笑った 「ご、ご飯出来たぞ」 「お!待ってました!」 そうしてしばらくみさきさんと自撮りをして遊んでいると、オレたちの後ろから不意に翔の声がした 翔の声にオレはすぐさま反応しくるりと後ろを振り返るとそこにはどこかムスッとした表情の翔 途端に隣に座っていたみさきさんは立ち上がりするんとその場から風のように立ち去る するとそんな不機嫌そうな翔が、その小さな口を小さく開いて小さな声で呟いた 「……………………くっ付きすぎだから……」 小さな声だったが、確かにそう言った そしてオレに向かって一方的にそう一言だけ告げると、赤い頬を隠すように背を翻し逃げるようにキッチンへと早足で歩いて行った 「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!」 そんな翔に、オレは思わずその場をのたうち回ってしまいそうなほどキュンとしてしまう ソファに腰掛けたまま体をゴロンと丸め背もたれに隠れるようにして足をバタつかせ、必死にこの興奮を自分の体の中だけで留める か、かっわい〜〜〜〜〜〜!! 思わずその場にあったクッションに顔を埋めてもがくと、クッションからも翔の匂いがしてきて更に興奮し鼻いっぱいに匂いを吸い込む 「何やってんの」 「あっ…」 「ほら早く、あんたもおいで」 「はっ、はいっ!」 するとそんなオレの上からみさきさんらしき声が降ってくる ハッとしたオレはクッションから顔を離し寝転んだまま顔を上げると、そこには案の定みさきさんがじっとオレを見下ろし呆れたような表情 急に恥ずかしくなったオレは勢いよく立ち上がり、嗅いでいたクッションを裏返して料理の香りが漂うテーブルへと向かった 「うんま!すっげえ美味いです!」 「本当〜!?よかった!」 「大袈裟だろ……ただのすき焼きじゃん…」 「だから美味えの!」 そして夕食 今日は翔のお父さんは出張でいないらしく、オレはお父さんの席を借りて食卓へ向かう そしてテーブルの上には豪華な料理の数々 メインのすき焼きの他、付け合わせの料理がたくさん並びオレの普段の食生活とはまるで違っている そんな美しい食卓に同席したオレはいつも以上に瞳を輝かせ、メインの牛肉をがっつく 「ほらもう、付いてる」 「んっ」 「あら、翔がお世話してるわ」 「普段は甘えん坊のくせにね」 「はっ………!」 肉と一緒にたくさん盛られた白ご飯を掻き込むオレ そんなオレの頬に付いた米粒を、隣に座った翔が癖のように拭ってくれる それを見たお母さんは物珍しそうな顔をして笑い、みさきさんは呆れ顔で野次を入れる すると翔がしまった、と顔を青くしオレの顔から勢いよく手を離した どうやらカップルモードが抜け切っていないのはオレではなく翔の方らしかった それからオレは出された食事を一つ残らず平らげ、しっかりと手を合わせて食事を終えた 「いいのよ輝くん、座ってて」 「ご馳走になったんで、片付けくらい手伝わせてください!」 「やだちょっとみさき、この子性格までイケメンよ!」 「知ってるー」 翔がテーブルを拭いている間に、オレはお母さんと一緒に食器洗いの手伝いをする お母さんが洗った食器を拭き上げ棚に戻すくらいは、料理下手なオレでも出来るからな オレにとっては当たり前のことをしているだけだが、それでもお母さんはオレを褒めて喜んでくれる それに同調するみさきさんは、ソファに座ってデザートのアイスを食べている最中だ 「アキ、俺代わるから」 「ううん、いいの、オレがしたいの」 「でも…………」 「ありがとな、でも大丈夫、オレにさせて?」 テーブルを拭き終わった翔がオレに近付いて小さな声でそう言ってくる だがそれでもオレは譲ろうとせず、翔を諭してにこりと微笑む すると諦めたのか、翔はむうむう言いながらもソファに座ってみさきさんにくっ付いた そしてオレが見ていないと思ったのか、みさきさんにアイスを一口ねだっている うわ………あれ結構妬けるな………… 心の中で生まれた小さな嫉妬心が露見しないよう心を穏やかにして、オレは食器洗いの手伝いに没頭した 「輝くんみたいな子がお婿さんになってくれたら嬉しいわ」 するとそんな穏やかになったオレの心を、再び揺らすような言葉 オレはハッと顔を上げ、隣に立って食器を洗う高村姉弟とはあまり似ていない顔を見つめた

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