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海!

「わ、海だ………!」 「あは、そんなに珍しい?」 「お、俺海来たの小学生以来だし……!」 「そっか、にしても暑いな……」 電車からバスへと乗り換え数十分、ついに俺たちは目的地である海水浴場へと辿り着いた バスを降りとことこと駆け出すとそこには一面に広がるキラキラの海水 太陽の光で眩しく輝いたその海は、暑いだけの夏を一気に青春色へと変化させる 実は俺はあまり海に来たことがない 小さい頃から色白で肌が弱く日焼けをすると皮膚全体が赤くなってしまう俺のため、母さんは俺をあまり海には連れ出さなかった なので地元での夏休みは森を流れる川に行き、幼馴染たちといつも釣りをして遊んだ 「あ、ほら帽子、みさきさんが被れって言ってたろ?」 「う、これダサくないかな……」 「ダサくないって、よく似合ってるぜ」 「そ、そうかな…………」 アキに言われ、俺は首の後ろに提げていた帽子を頭に乗せた 一瞬で日の光が遮られ、暑さを軽減してくれる つばの大きな麦わら帽子 これは先日の買い物で姉ちゃんが買ってくれたもの 俺はキャップがいいとせがんだが、首の後ろまで日の光から身を守る必要があると却下 結局、農家の人が被ってそうな大きくて丸い麦わら帽子を買ってもらったのだ アキが俺の頭にぽんっと手を置く そしてにっこりとまるで太陽のように輝く笑顔で俺の顔を覗き込み、ぐりぐりと頭を撫で回す そんなアキの仕草にきゅんとしていると 「あっ、輝くんだ!」 「お、おはよっ!輝くんっ♡」 「来てくれて嬉しい!早く行こっ?」 「私服姿もカッコいいね♡」 後ろに並んでいたバスから、クラスメイトの女子4名が降りて来た そして地に足を付けると同時にアキの存在に気付き、あっという間に取り囲む その様子はさながらデパートのセール品を取り合う人々のようで、隣の俺には目もくれない やっぱりこうなった…………… ま、分かってたけど……………… 「あっ、ちょ………っ、翔………っ」 「みんなあっちにいるって!早く行こっ♡」 「荷物持ったげよっか♡」 「ねぇ、輝くんはどんな水着買った?」 俺がそう思い俯いているうちに、女子たちはアキの腕を引っ張って先を行ってしまっていた 俺はそれから少し後ろを、呆れたような様子を装ってゆっくり歩きみんなが待つ場所へと向かった 「おっ輝!やっと来たか!」 「ん、悪い、少し遅くなっちまった」 「お前が来なきゃ始まんねぇよ!」 「お、高村おはよ、麦わら帽子?」 集合場所にたどり着くと、そこでは先に来ていた数名がパラソルを立てたり浮き輪を膨らませたりして海水浴の準備を始めていた 大きなパラソルを地面に立てている最中だった幹事の山本がアキに駆け寄ると、隣で一緒にパラソルを支えていた同じく幹事の黒田がパラソルに潰されそうになる それを俺は咄嗟にキャッチし支えると、はじめてアキ以外の人間に視線を向けてもらえた 黒田は俺の麦わら帽子をぴんと弾くと、農家みたいと言ってからかう 「な、お前も手伝って、これ膨らますんだ」 「あ、あぁ!分かった!」 弾かれた帽子のつばを直しながら、俺はまだぺたんこのビーチボールを受け取る そして荷物を置くと、黒田の隣に座ってふーふーとそれに息を入れ始める 「輝〜!見てこれ、おれの新作水着」 「あはは!いいんじゃないか、似合ってるぜ!」 「山本きも〜い!邪魔〜!」 「なっ、なんだとー!?」 一方でアキは先に来ていた女子からも取り囲まれ、その上山本に追っかけ回される始末 山本が新作だと言って水着をアピールし、アキはそれを褒め一方の女子は貶す そんな奴らの追いかけっこを傍目にボールを膨らませる俺は、その光景からプイッと視線を外した 「あれ、お前なんか首のとこ赤く………」 「へっ!?」 「い、いや、虫刺されか?」 「あ、そっ、そう!俺噛まれやすいんだ!」 すると隣に座っていた黒田が、不意に俺の首元を指差してそう言った そう、指摘されたの紛れもなく今朝アキにつけられたばかりの真新しいキスマーク 俺は咄嗟に自身の手で首をまるっと覆い、それが虫刺されであると強く頷いた そして適当なことを言って誤魔化し首にタオルを掛けてそれを隠す 本当は“虫刺され”ではなく“虫除け”らしいが だが黒田はどこか怪しそうな視線を俺に向けて、ふぅんと目を細めている 「あっ!翔だ!おはよ〜っ!」 「た、健!おはよ……!」 「翔も着替えてきなよ!暑いでしょ」 するとどこからか健がちょこちょこと駆けて来て、どんっと俺の背中に体当たりしぎゅっと首に抱き付いた くるりと視線を後ろに向けると、既に海パン姿の健がにんまりと笑ってこちらを見つめている 健、ナイスタイミングだ………! 怪しい目を向けらればつの悪かった俺は、これが逃げる絶好のチャンスだと思い健と一緒に立ち上がる そして健の言葉に頷きリュックを拾い上げると、ボールを健に渡して更衣室へと向かった アキはそんな俺を見つけると、女子の手を振り払って後ろからちょこちょこと俺を追いかけた

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