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無防備彼氏のお守り役
オレを取り囲んでいた何本もの細い腕を振り払い、オレは唯一想いを寄せる恋人と海水浴場内にある取り付け型の更衣室に来ていた
長らく海には来ていないと言う翔は、更衣室の綺麗さに感心しながら可愛い顔であたりをきょろきょろ見回している
あぁ、翔との海水浴か……………
オレが選んだ水着を着る翔は、いつにも増して魅力的になること間違いなしだろう
と内心浮かれる反面、実はオレにはものすごく心配なことがあった
それは、翔の無防備さについてだ
元々男子にしては線が細く滑らかな体付きをしていた翔
家族の遺伝か肌は白く、お尻は丸くて大きい上に腰は驚くほど細い
所謂“男受け”の良い体格な翔の欠点は、その何にも例えられないほどの無防備さだった
そもそも自身がなぜ痴漢に遭ったかも未だに理解していない男だ
時折周りから向けられる妙な視線にも気付く訳もなく、自分は平々凡々な貧弱男子だと未だに思い込んでいる
「翔は個室使って」
「えっ、何で、ここでいいよ別に」
「だめ、いいから個室使って、な?」
「な、何でだよ……ちょっ、押すなってば……」
そんな無防備極まりない恋人の体が他の人間に晒されるのを恐れたオレは、翔の個室に押し込んだ
そして鞄と帽子を持たせると翔の抵抗にも聞く耳を持たずにこちらから扉を閉める
外から翔に日焼け止めを塗るよう言い聞かせると、個室から何やらぶつぶつと文句が聞こえた
そしてオレは翔の入った個室の目の前で服を脱ぎ、まるで門番のような役割をしながら着替えを始めた
「な、今のやつ、可愛かったよな」
「何か妙にエロいっつーか、艶っぽいっつーか…」
「それな、あんな感じならオレ男でもイケそう」
「それはやべえって」
するとオレの耳に届いた、コソコソと話す小さな声
同じく更衣室にいた3人組が、きゅっと束になってまるで女子のように噂話をしていた
オレはその話題の元が翔であると、すぐに確信した
個室に入った時からすでに、中にいた5人中3人が翔に妙な視線を向けていたことに気付いていた
もちろんそれに翔が気付く様子もない
この時オレは、翔を個室に押し入れた選択は正しかったと確信した
「な、後で声掛けてみねぇ?」
「お前マジで言ってんの!?」
「や、オレ実は一度男ともシてみたかったんだよな」
「あぁ、それはちょっと分かるかも」
あくまで淡々と着替えをしながら、男たちの会話に聞き耳を立てる
オレの顔からはさっき翔に向けていた笑顔など消え失せ、ただひたすら気持ちの悪い会話を盗み聞きした
不愉快極まりない会話の内容は、翔に聞かせなくて良かったと心の中でため息を吐く
こいつら……………
オレの翔にナンパするつもりか……………
だがオレの中では確実に不満と不安が募っていた
翔のことだからオレと離れた場合、ナンパをする隙は嫌と言うほど生まれるだろう
まあそんな瞬間など来させるつもりは毛頭ないが
「えっ、ちょっ…………」
「おじゃましまあす」
だがやっぱり不安要素が少しでも減るよう、翔には釘を刺しておこう
そう思ったオレは個室の扉を開けて無理矢理中へと体を捻り込んだ
戸惑った様子の翔
どうやら着替えが終わり意気揚々と外に出るつもりだった様子
そんな翔にオレは日焼け止めを塗ったかの確認、なんて取ってつけたような理由を述べると、オレの予想に反してここで翔は戸惑ったような様子を見せた
あれ、これは……………
「はい、やり直し」
「ひゃっ……!?」
本来の目的は日焼け止めではなく、ナンパされないよう釘を刺すつもりでいた
だがまさかここで翔の嘘に気付くことになろうとは
オレは翔の水着をずるんっと下ろして丸裸にさせた
ビクッと体を震わせ焦ったように瞳を泳がせる翔
実はオレは翔の姉であるみさきさんに、ちゃんと日焼け止めを塗らせるよう裏ミッションを仰せ使っていたのだ
「ちょっ、やだやだ急に触るな……っ!」
「いいから、ほら背中出して」
「い、いいって背中なんて……ぎゃっ!」
「だめなものはだめなの、大人しくしてて」
オレは翔の鞄から日焼け止めを取り出すと、翔の体をひっくり返して白い背中に塗り始めた
触れた感じやっぱり日焼け止めを塗ったふりをしていたようで、みさきさんから聞いていた過去の話が今オレの中で繋がった
ったく、せっかく綺麗な肌なのに…………
「うえぇ………べとべとするぅ……………」
「我慢我慢」
「アキのスケベぇ…変態………尻触んなぁ……」
「はいはい、オレはスケベで変態です」
翔の背後に立ち、白い肌を守る白い液体をぺたぺたと塗り広げていく
壁に突っ伏し唸り声を上げる翔は苦し紛れの悪口で対抗してくるが、オレはそれをもピンと跳ね返して丸出しになった尻までそれを塗り広げる
オレの大きな手のひらにちょうどすっぽりと収まる翔の丸くて柔らかい尻
それをむにゅっと揉みしだくと、翔は小さく声を漏らして体を震わせた
「……でもオレよりスケベで変態な奴が、この世にはたくさんいるんだからな」
「へ………?」
そんな翔を見ると、絶対に他人の手に触れさせたくないという思いが一層強まった
翔の背中に手を回し、ぎゅっと細い体に抱き付いた
そして何かを噛み締めるように強く抱きしめ、キスマークの付いた首筋に頬を寄せる
不思議そうな声で首を傾ける翔は、やっぱりオレが何を言いたいかなんて理解していなかった
「な、絶対にオレ以外に触らせないで」
「ちょっ……急に何だよ……っ?」
「お願い、オレ以外に無防備なところ見せないで」
「むっ、無防備って別に俺そんなんじゃ……っ」
耳元で囁くようにしながらぎゅっと腕の力を強める
白くてすべすべな肌も何もかもオレの匂いを付けておきたくて、必死に体を密着させる
オレの意思を読み取ることなく、翔は自身が無防備でないと主張しオレから離れようともがく
「な、約束して、絶対オレ以外に触らせないって」
「わ、分かった…!分かったから………!」
「絶対な、約束な」
「もうっ……!分かった分かった…………っ!」
もがく翔に、オレは半ば強引に翔に約束を取り付けた
だけど強引ではあったが、翔にはしっかりと釘を刺せたことだろう
これできっと翔も少しは周りに気を付けてくれるはず
それから翔を解放し再び全身に日焼け止めを塗らせたオレは翔と共に個室を出た
個室を出た時にはすでに他の人は出て行った後だったようで、その場にはオレと翔の2人だけだった
そしてオレは海パン一丁のままで外に出ようとした翔を引き留めて薄手のパーカーを無理矢理着させ、今度こそ真夏のビーチへと足を踏み出した
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