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幸せな一時

あとどれくらい時間が残されているだろうか……? 希一が巣だって、その子供達も立派に育った。 その中で元々身体の弱い朔は入退院を繰り返すようになった。 「朔、具合いはどうだ?」 「大丈夫。 今日は調子いいよ。」 「そうか。」 今は退院して家で秀一と穏やかな時間を過ごしている。 それでも日に日に弱っていくのを秀一は感じていた。 以前に比べ大分痩せてしまったし、寝ている時間も多くなった。 一体あとどのくらい一緒に居られるだろうか? それを考えると怖くて仕方がない。 「ねぇ秀。」 「なんだ?」 「僕は幸せだったよ。」 「………っ」 朔の一言に秀一は言葉が出て来なかった。 彼はもしかして自分の残りの時間を悟っているのだろうか? 「朔……」 「僕は施設で育って秀と出逢った事が奇跡だと思ってるだ。」 そう語る朔の表情は穏やかな物だ。 「こんなに愛してくれて、希一が生まれて、4人の孫まで出来た。 みんないい子で、こんなに幸せな事はないよ。 ありがとう、秀……」 「朔………」 お礼を言うのはこちらの方だ。 朔と出逢ってこんなに人を愛した事はなかった。 αだとかΩだとかそんなこと本当にちっぽけな差だと気付かせてくれたのは紛れもなく彼だ。 朔を失うなんて考えたく無いが、きっとそれも遠くは無い。 残りの時間を悔いなく過ごすことが今すべきことで、感傷に浸っている暇なんてないんだ。 「俺も幸せだ。 今度希一達を呼んで食事でもしようか。」 「うん。そうだね。 久しぶりに蘭にも会いたいな。 学校大丈夫かな?」 「あの子は大丈夫だろう。 言いたい事はちゃんと言う子だ。」 「そうだね。」 この幸せな一時を噛み締めて秀一は涙を堪えた。

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