50 / 58

変化⑦

そして高嶺との約束の日、蘭は友達と遊ぶと家を出た。 兄達は相手はどんな人物なのかと色々質問してきたが、無視した。 少し歩いた所で一台の黒い高級車が蘭の前に止まった。 「乗れ」 ドアを開け無愛想に一言高嶺が蘭に乗車を促した。 全く、相変わらず素っ気ない。 そう思いながらも蘭は後部座席の高嶺の隣に乗り込んだ。 するとボルゾイのカイルが高嶺の横から顔を出し初めて見る蘭に興味を示し、クンクン臭いを嗅いでいる。 可愛いと胸を踊らせていると前の方から声がした。 「坊っちゃん、もう少し言い方を考えて下さい。 申し訳ございません、お気を悪くさせてしまって」 「いえ……」 車の運転手が蘭の方を振り返り高嶺口の聞き方を注意した。 見たところ30代くらいだろうか。 落ち着いた柔らかい雰囲気の人だ。 「うるせぇよ。 関係ねぇだろ志木……」 そう高嶺が悪態をつく。 それより…… 「志木………?」 あれ……なんか聞いたことある苗字だ。 それに何処と無く似てるこの笑い方…… 「雫……?」 「おや、雫とは志木雫の事ですか? 彼をご存知なので?」 「え、雫はうちの使用人で……」 そう言った所で口をつぐんだ。 うちの使用人なんて言ったら雫を知っている様子の彼に自分が身バレしてしまうではないかと。 九条と高嶺、色々とマズいだろう。 「………左様でございましたか。 ああ、申し遅れました。 私、高嶺家の使用人の志木拓海(しきたくみ)と申します。 雫とは従兄弟です」 「いっ………」 「志木家は昔から名家にお仕えする者が多いですからね」 マジか……… それは知らなかった。 親戚と言うことは彼のこの柔らかな笑顔の裏に雫と同じドSな一面が隠されていたりするのだろうか……? そう考えると怖気がし、同時にこれは自分の素性も知られるだろうと苦笑いした。

ともだちにシェアしよう!