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花標・4
いまでもたまに夢に見る。
オレに覆い被さる蔓が力尽きる瞬間の悪夢。
不思議なほど穏やかな目でオレの頬を撫でて、そして静かに目を閉じるのだ。
実際には見ていない光景が、いやに鮮明に何度も繰り返される。
その日も夜中に目が覚めてしまい、寝汗でべたべたになった身体を清めようと水場に向かった。
濡れた布の冷たさに肌が粟立つ。
だが、おかげですっきりと頭が冴えて、胸を覆っていた恐ろしさが晴れていく。
ついでとばかりに着物の裾を捲り上げた。
「うわ」
ちょうど右のくるぶし辺り。
あの夜、矢が掠めた部分がどす黒く変色している。いつ見ても眉を顰めてしまう色だ。
少し熱を持っていたのか、水を溜めた桶に足をつけると心地が良かった。
「――なんだそれは」
突然低い声がして、びくりと背中が跳ねる。
「み、三椏」
慌てて振り返れば、怖い顔をした三椏が立っていた。その視線はオレの右足に注がれている。
「あー、あの日にな。矢の先に毒が仕込まれていたみたいだ。だが見た目だけだぞ、十分動けるし」
「そうじゃねえだろ!!」
一喝した三椏が、見せてみろ、と近付いてくる。
「医者には見せたのか?」
「もちろん」
「…どうりで、一月経っても御頭がお前を現場復帰させないわけだ」
オレが蔓と息も絶え絶えに戻ってきてから、蔓が記憶を失ってから、早くも一ヶ月が経とうとしていた。
相変わらず蔓はすべてを忘れたままだし、オレの右足は日に日にどす黒く染まっていく。
来い、と三椏はオレを自分の部屋に引きずっていった。
部屋は灯りが灯されており、冷えた身体には温かく感じた。
三椏はオレを寝台の上に下ろし、足首を掴む。
「痛みはないのか」
「いまは平気」
本当に全然なんともないのだ。
身体が鈍って動かなくなってしまう前に任務に戻りたいのだが、御頭はいまだに許可を出してくれない。まあ、理由は怪我以外にも、蔓以外にオレと対になる者がいないということもあるのだろうが。
「たぶん痺れ薬の類だと思う。矢が掠めた途端、足が動かなくなって、敵に狙われたところを蔓が…」
せっかく忘れかけていたのに思い出してしまった。
ぐっと唇を噛み締め俯いたオレは、三椏が妖しく目を細めたことに気付かなかった。
「なあ辛夷…」
するり、と長い指が足首の内側を撫でて、びくりと肩を竦ませる。
そこでようやく自分の状況を理解した。三椏の瞳の色にも。
「蔓があんなことになって随分溜まってるだろ?」
「なに、やめろ…!」
掴んだ足首を引かれ、乱れた着物の裾から男の掌が入り込む。太腿を撫でられて息をつめた。
「オレとお前の仲だろ、今更だぜ」
三椏は低い声で続ける。
「お前、どうせ蔓に色子上がりだってこと言ってないんだろ?」
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