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花標・6

あれからオレの側にはよく三椏がいるようになった。隙あらば触ってくるが、抱かれてはいない。当然。 なんとなく不満そうな三椏は見て見ぬふりだ。 蔓と茉莉も相変わらずずっと一緒にいるようだった。いまだに胸は痛むが仕方ない。そこはもうオレの場所ではないのだ。 とはいえ、蔓の頭の包帯がとれたときは影ながら喜んだものだ。 そして御頭からも、折を見て蔓を屋敷から出すという話をされていた。ついに蔓は自由になるのだ。御頭はまだ納得していないような顔をしていたが、オレは嬉しかった。 いままで療養のためという名目で屋敷に引き留められていたが、接した者といえば茉莉やオレくらい。茉莉のことはどうだかわからないが、オレのことなんてすぐに忘れるだろう。 そして新しい生活に早く馴染んでくれればいい。それでいいのだ。 これまでの蔓と過ごした月日を思い返せば切なくなったりもするけれど、悲しむのはもうやめた。 それにそんな気分のときに限って、三椏がちょっかいをかけてくるのだ。なんなんだろう、あいつは。 穏やかに日々が過ぎていく――はずだった。 「蔓が色子衆に乗り込んだらしい…!」 「なんだって!?」 突然、そんな報告を受けるまでは。 *** オレが駆けつけたときには、蔓は地面に押さえつけられ暴れてもがいていた。 一角に集まった色子たちが怯えたように窺っている。怪我はないようだ。 狙われたのは色子衆総締め――三椏だった。 難しい顔をして立つ彼の腕には打ち身のような痕があった。 「一体なにが…」 「突然こいつが襲ってきたんだよ」 三椏もかなり強い。急襲されても返り討ちにできるくらいには。ましてや相手は記憶を失った病み上がりの蔓だ。 「てっきり記憶を取り戻したのかと思ったんだが…」 「茉莉を解放しろ!!」 蔓が大声で叫んだ。 「茉莉は色子なんざ望んじゃいねえ!そんな身体売るような役目させられるか!」 その叫びを聞いて、目の前が真っ暗になった。 「おい、蔓を連れていけ」 三椏の低い声が遠くで聞こえる。 「茉莉はどこだ!探せ!」 おまえはこっちだ、とぐっと腕を引かれた。 「なんで、どうしてこんなことに…」 騒ぎを起こした蔓は牢に入れられた。 だが、重要なのはそこではない。 「茉莉が己かわいさから蔓に吹き込んだようだ。大方、ここを出れば蔓と暮らせるとでも思ったのだろう」 「くそ…っ!」 あと少し、あと少しだったのに。 もう少しで蔓は自由になれるはずだったのに。 隠密は他言無用。掟の守れない茉莉に命はない。 だが、それは蔓も同じ。 なにも知らないままでいれば、ただ客が宿を後にするようにここから出られたというのに。 ―――もう、蔓の未来は絶たれてしまった。 「すべてを思い出した蔓が、辛夷を抱いたオレを殺しにきたんだと思ったんだがな」 冗談めかして三椏が言うが、その横顔は苦渋に歪んでいた。 「無理、なのか?」 「無理だろうな。御頭はかなり難しいだろうと言っていた」 それでなくても一度見逃された命。二度目はない。 最悪だった。 茉莉の浅はかな甘えのせいで蔓の未来が奪われるのかと考えれば、怒りで全身が震えてくる。この手でなぶり殺してやりたい。 「もし蔓が処分されるなら」 自然と口を開いていた。 「オレも殺してくれ」 「辛夷…!?」 「オレだってこんな足だし、むしろあの夜に死ぬべきだったのかもしれない。だからいいだろ?蔓といっしょに殺してくれ、頼む」

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